1月

『コンビニ・ララバイ』
  池永陽著
 新年早々、辛気臭いもん読んじまった・・・。一軒のコンビニに出入りする人達の群像劇。登場人物は皆、何がしかの影を帯びているのだが、その影の描き方があまりに紋切り型で、初めて読む小説という感じがしない。えーと、こんな小説だかドラマだかどこかで見なかったっけ?何だか薄いなぁ・・・。特に女性登場人物の心理に関しては「?」となる所が多々。女性ってそんなかぁ?ちょっと違わない?私がズレてるの?

『長崎乱楽坂』
  吉田修一著
 昭和後期、長崎に住む少年・駿と、その家族の変遷。駿が生まれたヤクザ一家が時代の中で徐々に解体していく様が物語の軸となっている。家族というよりも、「群れ」的な男達の集団の熱気が不穏。その群れに馴染めず、かといって抜け出すことも出来ない駿の不安定さが、日常の中ふっと姿を現す不穏さをさらに煽る。ねばっこい空気感のある小説。少年の成長を描くのかと思いきや、最後にくるりと反転させてしまう所が上手いというか意地が悪いというか。異物であってもそこから逃れられないのか。

『定刻発車 日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか?』
  三戸祐子著
 日本の鉄道は世界一の正確さを誇る。なぜそんなに正確なのかを探るルポ。日本人の国民性ゆえ・・なんてことは言わず、地形や気候、都市の性質や歴史的背景等様々な面から検討していく。そして現在の鉄道運行システムの複雑さ、精緻さは奥が深くて目からウロコ。そうか、そういうふうになっていたのか!鉄道にハマる人が多いのもわかります。しかし安全確保の為の徹底したマニュアルと何重ものストッパーがあっても、残念ながら事故は起きる。時間厳守の過剰さとそれによる余剰(人・時間)の不足が、昨年の尼崎市の脱線事故のような大きな事故の一因ともなるのだろう。本当は本数増やしすぎなんだろうけど、利用者数を考えると減らすわけにもいかないんだろうし・・・。うーん。ちなみに著者によれば、今後の鉄道はプライベート空間の拡張へ向うべきとのことだが、プライベート指向の人は、そもそも電車じゃなくて車使うんじゃないかしら・・・

『飛ぶ教室』
  エーリヒ・ケストナー著、丘沢静也訳
 ドイツの名作児童文学が新訳で登場。私は本作を読むのは初めてなのだが、多分今までの訳よりもさっぱりとした文章になっているのでは。さばさばして読みやすかった。しかしどの国の男の子も各派閥に分かれて戦争ごっこをするものなのでしょうか。子供達はもちろんだが、大人達の造型が魅力的だった。特にくそ真面目な顔をしてユーモアを発揮するクロイツカム先生がいい。登場する子供達の家庭環境はまちまちだが、子供に経済的な苦労をさせざるを得ないというのは、親としては随分切ないものでしょうね。

『ダナエ』
  藤原伊織著

 3編を収録した中編集。画家が主人公である表題作は、「ダナエ」の神話と結びつけるのはちょっと苦しい気がするのだが・・。無理に神話を出さなくてもよかったと思うのだが、著者はこの神話が好きなのだろうか。今までの作品の終わり方が、エンドロールの最後にどーんと「終」の文字が出るものだったとすると、本作は徐々にフェイドアウトしていくような印象を受けた。正直、ちんまりとした感は否めないのだが、丸くなったというか、色々なことを許容できるようになったというか、達観度が増しているように思う。これは著者の年齢によるものだろうか。

『ブレイブストーリー』
  宮部みゆき著

 願いを叶える為、もうひとつの世界「ビジョン」へ旅立った少年ワタルの冒険。ファンタジー小説としては、正直さほど目新しさや面白さはないのだが、成長小説としては良く出来ていると思う。ファンタジー以外の部分が流石宮部というべきか、上手い。現実世界でのワタルの境遇がかなりシビアなのだが、特にワタルの両親の造型は、あーこういう親いるいる!と思わせる説得力があった。親がきちんと説明したと思っても、子供にとっては分からない、納得できないことだらけなのよね・・・。そういう、大人と子供の間の意識の齟齬みたいな部分の掴み方が実に上手い。世の中思い通りにならないよ、辛いことはなくならないよと言っちゃった上で、それとどう対峙していくかという問題に果敢に取り組んでいると思う。テーマと読者に対して誠実。

『ジョン平とぼくと』
  大西科学著

 ラノベのレーベルから出ているが、創元推理文庫あたりから出ても違和感ないのでは。要するに上手い。1ページあたりの文字密度が高いコストパフォーマンスの良さにも好感が持てる。魔法が普通に使える世界が舞台ではあるが、魔法が科学の一種のような扱いをされていて、ファンタジーというよりもSF小説のような味わいがある。主人公は魔法が下手で、科学実験が好きな(この小説世界の中では)変わり者。特殊能力がないことで、ロジックで謎を看破する(それ以外に看破する方法がない)探偵役となっている所が面白い。ちなみに「ジョン平」とは主人公の使い魔である犬の名前。使い魔の設定は、ちょっと「ライラの冒険」シリーズを連想させる。

『怪傑ムーンはご機嫌ななめ』
  ジャネット・イヴァノヴィッチ著、細美遙子訳
 バウンティ・ハンターのステファニーは、タバコ密輸業者の老人・デクーチを捕まえようとするが、逃げられた上に女の死体を発見してしまう。さらに友人ムーンの相棒が行方不明になり、幸せな結婚をしていたはずの姉は離婚して実家に帰省、ステファニー自身は成り行きで結婚することになってしまったりと、事態は混乱する一方。ドタバタ劇風で楽しいことは楽しいのだが、疲れる・・・。何で皆こんなにパワフルで落ち着きがないの?!ステファニーの家庭内でのやりとりとか、もう血管切れそうです。ちょっと黙れ!ひとまず座って茶でもしばこうや!と声を掛けたくなります。あ、ステファニーが言い訳しつつつまみ食いをするのには好感を持ちました(笑)。

『琥珀林』
  
森福都著

 昔々の中国。県令の息子である12歳の昭子は、徐庚先生の下で勉学に励んでいた。・・・って先生の正体はすっぽんですか?!しらっと「先生はすっぽんの化身で」と説明されるような、人間と怪異が共存する世界を舞台としたミステリー。ミステリー部分と妖怪小説部分とが上手くかみ合っていて面白かった。飄々とした文体なのだが、結構中身は生臭いのね(笑)。一見徐庚先生効果でほのぼのしているけど、冷静に考えると全然ほのぼのしていません。むしろちょっと怖い。色っぽい部分も多いのだが、人面瘍妻(なんだそれはと思われるでしょうが、そういうものが出てくるのです)てのは、エロとしては新しいジャンルではないでしょうか。

『「性愛」格差論』
  斎藤環・酒井順子著

 誤解を招きそうなタイトルだが、いわゆるモテ/非モテ論ではなく(そういう話も出てくるけど)、性愛が格差を乗り越えるキーになるのではという趣旨。「恋愛は万人に公平に不公平」とは言いえて妙だ。対談という形なので、話の流れがやや流動的。「負け犬」「おたく」「ヤンキー」「腐女子」という「種族」それぞれの生態と性愛の形に関する解説に留まってしまった感もあって、ちょっと食い足らなかった。全般的に斎藤の方がよく喋ってます。やはり酒井におたく・腐女子理解は難しいみたい。それにしても、耳の痛いお話満載でした。もう当事者としては冷静に読めないですよトホホ・・・。それはさておき、本書内でも言及されているが、実に希望を持ちにくい時代になっているのだなとがっくりした。若い層で全体的に、色々な欲望が希薄になっているように思うのだが(というか私が正にそうなのだが)、欲望が希薄だと希望を持つエネルギーも沸いてこないんですかね。

『記憶の放物線』
  北上次郎著

 著者のエッセイを読むと、いちいちしみじみと感じ入ってしまう。特に著者の子供について言及されているものには、そこに共感するというのとはちょっと違って、親はこういうふうに子供のことを心配するのかと、ちょっと胸を突かれる。そこに自分の親の姿、ひいては(もしかするとあり得る)自分の将来の姿を垣間見るからか。しかし北上先生、そんなにお子さんのこと心配なら、もうちょっと頻繁にご帰宅されてはいかがでしょうか(笑)。ちなみに著者には2人の息子がいるのだが、2人ともなかなかいいキャラクターのようだ。文庫版で読んだが、巻末には本書内で引用された小説の一覧あり。遠まわしなブックガイドとしても使えます。

『面白南極料理人』
  西村淳著
 第38次越冬隊として南極ドームに滞在した著者のエッセイ。著者は料理担当だったということで、当然料理の話が中心になる。ウイルスすら生存できない平均気温−57℃の中でどういう食材が使えるのか、卵や野菜はどうやって持っていくのか、目からウロコ。それにしても、今まで何の付き合いもなかった男8人が半年間共同生活していくのは、結構キツいだろうなと。娯楽のない離れ小島状態ではなおさらだ。そんな状況を和ませるのが食事。食事ってやっぱり大切ですね。著者らはしょっちゅう宴会していたみたいだが、それも生活の知恵か。文章は決して上手くないが面白かった。

『発掘!子どもの古本』
  北原尚彦著
 古書収集家である著者が、児童書のコレクションを紹介する。昔の児童書の中でも、海外のミステリやSFをリライトしたものにはトンデモ本が多いらしい。無茶な翻訳だったり表紙絵がやたらとおどろおどろしかったりと、なかなかに香ばしそうな物が並んでいて見ているだけでもウキウキします(笑)。横溝正史作品と江戸川乱歩作品の表紙が怖くて触れなかったのは私だけではなかったのね!

 

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