10月

『カレイドスコープ島 《あかずの扉》研究会竹取島へ』
  霧舎巧著
 《あかずの扉》研究会の大学生6名は、古くからの因習が支配し続ける竹取島へ向う。竹取島の隣には、島の権力者が住まう月島があった。そして連続殺人が!正統派本格ミステリ。《あかずの扉》研究会のメンバーはそれぞれキャラが立っているのだが、いわゆる小説的にキャラクターが個性豊かというのではなく、各キャラクターに与えられた属性によって、この小説が本格ミステリとして成立しているという意味で、キャラが立っている。すごく機能的なミステリという印象を受けた。細かい所までいちいち解説してくれる(ので、前半で提示された謎を半分くらい忘れてしまったのだが)ので、お腹いっぱい。お得感あり。

『密やかな結晶』
  小川洋子著
 色々な物が「消滅」していき、記憶狩りが行われる島。小説家である「私」は、何かをなくした小説ばかり書いている。人々が消滅に慣れてしまい、淡々と続く島の生活や、ナチスのユダヤ人狩りを思わせる記憶狩りも恐ろしいのだが、「私」が書いている小説というのがまた恐い。ええ〜また閉じ込め系かよ!恐い!恐いよう!「私」が書いている小説内のヒロインが、なぜ逃げ出さないのかイライラしてしょうがない。島の人々の無抵抗さと通じるものがあって、ちょっと気持ち悪い。その無抵抗さを批判するR氏というキャラクターが配されているものの、「私」とR氏の意志はすれ違ったままのようだ。最後にわずかばかり外界が覗くが、気の滅入る小説だった。

『ネコソギラジカル(中)赤き制裁vs橙なる種』
  西尾維新著
 サブタイトルに偽りあり。ほとんどV.Sしていませんから。そして狐面の男と全面対決かと思いきや、相手が退いてしまうし、前回から話が殆ど進んでいない気がするのだが・・・。あいかわらずさくさくと読めることは読めるしそれなりに楽しめるんだけど、人間失格再登場も喜ばしいけれど、これ本当にあと1冊で終わるのかなー。ペース配分微妙な気がする。

『アメリカの鱒釣り』
  リチャード・ブローティガン著、藤本和子訳

 表紙の写真がとってもいい感じ。この写真をスタート地点として、「アメリカの鱒釣り」にちなんだ47の物語が語られる。ノスタルジックな、失われつつあった古き良きアメリカを追い求めるような作品にも見えるが、本質はそういったノスタルジーにはないと思う。もっと軽やかでユーモラスで、過去ではなく今のことのような気がする。とはいえ感想書きにくいなーこの小説。へらっとホラ話やっている感じもするのだけど。ちなみに訳者後書きが素晴らしい解説になっている。

『イノセンス Afetr The Long Goodbye』
  山田正紀著

 押井守の映画『イノセンス』のノベライズ、というわけではなく、時系列としては映画の前の話。『イノセンス』とのコラボ企画とでもいうべきか。しかし山田正紀がこの企画を手がけるとは意外だった。サブタイトルからもわかるように、チャンドラー『長いお別れ』へのオマージュとなっている。、びっくりするくらいオーソドックスなハードボイルド小説になっている。こういうのも書ける人だったのか。しかもなかなか良いのよセンチメンタルだけど。バトーが姿を消した愛犬ガブを探しテロリストと戦う話で、基本的に『イノセンス』の世界観と違和感ないが、ミステリとしても一仕掛けあるところが著者ならではか。

『ドッペルゲンガー宮 《あかずの扉》研究会流氷館へ』
  霧舎巧著
 著者デビュー作。大学生サークル《あかずの扉》研究会は、高校教師に頼まれ、行方不明の女子高生を探しに「流氷館」なるゴシック様式の洋館へ向う。しかし既に奇妙な殺人が起こっていた。島田荘司が推薦したのがよくわかる派手な「館」もの。伏線も張りまくりで、いざ謎解きという時になると細部が思い出せない(笑)。後動と鳴海が別の場所で推理するというのは、このシリーズのお約束なのか。ただ、作品の精度は2作目の方が高いと思う。こちらは大掛かりすぎるかなーと。余談だが、利き手特定の方法は正しいのかな。私、記載されているのとは逆のやり方をすることがよくあるのだが。

『プラチナ・ビーズ』
  五條瑛著

 これがデビュー作だそうだが、えらくこなれている。冒頭の文章はこっ恥かしくて正直退くけどな!冗長すぎる所を除けば読みやすい。脱走した日本駐在中のアメリカ兵が、惨殺死体で発見されたことを発端に、北朝鮮の権力中枢でのある動きが浮かび上がる。スパイ小説との触込みだが、主人公は米国情報機関に所属するアナリスト・葉山なので、スパイに迫ろうとその周囲をぐるぐる回っているという方が正しいかも。それほどダイナミズムはないが、妙にリーダビリティが高い。スパイや諜報戦にとんと興味がない私でもぐいぐい引き込まれた。やっぱりあれか。キャラ萌えか。

『スリー・アゲーツ 三つの瑪瑙』
  五條瑛著
 お、前作より読みやすい。文章がくどくなくなってきている。『プラチナ・ビーズ』に続く鉱石シリーズ。今回は北朝鮮で作られたと見られる偽札が事件の発端。北朝鮮の1人の情報員の動きが(その目的は伏せたままで)結構描かれていて、ストーリーにメリハリがある。最後の攻防戦まで話がだれずスピーディー。そして親子の情が濃く、哀切。エンターテイメントとして上手いと思う。著者は防衛庁出身だそうだ。自分の専門分野を小説の題材にしただけのことはあると思う。2作目なのにこなれすぎ。

『映画から見えてくるアジア』
  佐藤忠男著
 70年代初頭からアジア、アフリカ等の映画を研究してきた著者が、アジアにおける映画を紹介する。映画を見ることでその国を知る、といっても、もちろん映画の中にはその国の一面しか現れていないし、美化されていることも多々(というか大抵そうだろう)ある。しかし、その国に対する先入観が壊されることもある。だから外国の映画を見るのは面白いのではないだろうか。これから益々、色々な国の映画を見ていかねばならないなと気持ちが改まった。「われわれはまず、彼らの手前味噌や自慢話にも耳を傾けなければならない。アメリカやフランスに対してそうしている以上は」。それがその国に関心を持つということなのかもしれない。

『現代日本のアニメ 「AKIRA」から「千と千尋の神隠し」まで』
  スーザン・J・ネイピア著、神山京子訳
 アメリカ人である著者による日本アニメ論。これは労作だなー。こんなものまで見てるの(セイバーマリオネットとか)?!という作品まで取上げていて幅広い。海外から見ると日本のアニメはどのように見えるのかという所が気になったのだが、文化背景によるギャップはそれほど感じなかった。むしろ非オタク(著者はアニメ好きではあるだろうが、それほどオタク度の高い人ではないと思う)から見たアニメ論という感があり、日本の論者よりも却ってニュートラルな視点が保たれているのではないかと思う。特に第二部「身体・変身・アイデンティティ」は腑に落ちる所が多かった。

『夢の中の魚』
  五條瑛著
 『プラチナ・ビーズ』『スリー・アゲーツ』にちょこっと登場した韓国の情報部員・洪敏成とその相棒・パクを主人公とした連作短編集。洪は葉山と違って行動的かつ迷いがないので、話がサクサク進む。短編向きのキャラクターかもしれない。目的の為には手段を選ばないえげつない性格なのに、彼なりに愛国心がしっかりとある所がちょっと意外でもある。それにしても日本はスパイ天国だな!あ、あと葉山もちらっと出てくるんだが、30過ぎた男が赤のダッフルコートってどうなんだろうと気にならずにいられません。

『犬は勘定に入れません あるいは消えたヴィクトリア朝花瓶の謎』
  コニー・ウィリス著、大森望訳

 むしろ「猫は勘定に入れません」じゃないの。タイムマシンによるタイムトラベルが成功している時代。上司の命令により19世紀のヴィクトリア朝へタイムトラベルした大学生が、歴史を修正しようと奔走しながら「主教の鳥株(これがどんなものかわからず悩んだよ・・・)」の行方を追う。うわー、疲れた・・・。がちゃがちゃしていて読みにくかったよー。あっちの時代に行ったりこっちの時代に戻ったり、大変慌しい。こういうドタバタコメディみたいのは、私は苦手らしいということがわかった。皆人の話をちゃんと聞こうよ!最後にいきなりスケールのでかいオチが出てくるのだが、このオチだったら彼らが右往左往する必要はなかったのでは?

『東京奇譚集』
  村上春樹著

 ちょっと不思議な話を集めた短編集・・・なのだが、だから何なんだよという読後感。「ちょっとした」話なんだけど、ちょっとしすぎてたか。いきなり猿出してこられてもね・・・。もっと輪郭のくっきりとした小説が読みたい。村上春樹はしばらくこういう路線で行くのだろうか。だとしたら、もう触手が動かないかも。

『魔王』
  伊坂幸太郎著
 タイムリーな題材だし、言いたいことはよーくわかるし、著者が感じているであろう不安感は私も感じているものなのだが、言いたいことをそのままぼん、と出すことは小説としてははたしてどうなのだろうという点でひっかかる。切実さはわかるのだが、もうちょっとじっくり料理してほしかった。それにしても、読んでいる間中、ずっと気持ち悪かった。小説自体がどうこうというより、題材が孕む気持ち悪さなのだが。

『No6(2)』
  あさのあつこ著

 わー、なんだよこの口説き文句の嵐は!紫苑を天然天然言ってるけど本当に天然(多分)なのはあさの先生ですから!確信犯だったらむしろ恐いわ!2巻でもあまり話が進んでいたないので、若干心配になってきた。

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