1月

『聯愁殺』
  西澤保彦著
 過去に起きた連続無差別殺人。被害者達は何故選ばれたのか?そして犯人の少年は今どこに?推理集団「恋謎会」が推理合戦を繰り広げる。日本版「毒入りチョコレート事件」とでも言うべき作品。妙に細かい設定がされているなーと思ったら、それが全部機能していて、まさに捨て設定なしの本格ミステリ。しかし「毒入り〜」よりもさらに驚愕のラスト。ああっこれ以上何を書いてもネタバレになりそうだ!ルールすれすれのところで勝負しているような、かなりきわどい本格ミステリだと思う。しかもかなり悪意に満ちたオチだ。これは恐いというかうすら寒いというか。

『黒の貴婦人』
  西澤保彦著
 お久しぶりのタック&タカチシリーズ最新作。短編集だが話の時系列はまちまちで、タックとタカチも学生だったり社会人だったりする。表題作は長編『依存』の前日嘆とでもいうべき話だ。小料理屋の奇妙な客を巡った、飲みの席での他愛ない推理合戦から、全く別の謎が浮かび上がり、最初の謎の真相は結局わからないまま、という奇妙な短編。久しぶりに昔の友人と会って、友人が今何をしているのかどういう生活をしているのか何も知らないが、元気でいてくれれば嬉しい、というような気持ちになるシリーズだ。

『象られた力』
  飛浩隆著

 うーん、これにはちょっとやられた。グロテスクさを孕んだみっしりとした世界観のSF中編集。様々な意味をもった図形に満ちた世界を舞台とした表題作を始め、一風変わった天才ピアニストを巡る「デュオ」も、臭いや温度・湿度まで立ち上ってきそうな「夜と泥」も、物質が、人格が、世界が立ち上がりそして溶解していく熱気と気持ち悪さに満ちている。それぞれの世界観が非常に濃密でちょっとむせ返りそうにもなるなのだが、やみつきになりそうだ。どの話も最後に大どんでん返し、というか話の軸をずるっと横にスライドさせられるような感じがする。

『名探偵は千秋楽に謎を解く』
  戸松淳体矩著
 弱小相撲部屋に大砲の弾が撃ちこまれる、牛乳屋の牛乳に毒が仕込まれる、神社に納められていた弓に血が塗りつけられるなど、奇妙な事件が相次ぎ、下町は大騒ぎに。高校生3人組が事件解決に挑むのだが、その事件の真相が「もっと簡単な方法があったんじゃ・・・」と思うようなものなので、事件自体がこじつけっぽく見えてしまう。色々と突っ込み所ありまくりでなんだか小中学生向けのライトミステリのようだなと思ったのだが、実際、本作は昭和54年にソノラマ文庫から若者向けに出版され、今回創元推理文庫から新版されたものなのだそうだ。

『報復』
  ジリアン・ホフマン著、吉田利子訳
 女性が書いた女性主人公の海外ミステリは、私にとってはあまり面白いと思えないものが多い。何でこんなに突っ張って頑張らなくてはならないのか(まあ男社会の中で生き残るにはそうせざるを得ないんだろうけど)とか、なぜお約束的にロマンスが挿入されるのかとか。が、本作は、主人公は頑張らざるを得ないだろうと納得させる。主人公の女検事補が担当することになった、連続殺人事件の容疑者は、過去に彼女をレイプした犯人だった。彼女は目前の容疑者とも過去の記憶とも戦わなくてはならない。彼女と警官とのロマンスも、彼女が前進する為に必要なステップなのだ。主人公の苦しみや恐怖に読んでいてどきどきした。誰が何にどういう形で報復するのか。ハラハラドキドキだった。

『アメリカの保守本流』
  広瀬隆著

 マイケル・ムーアの映画『華氏911』はズレていたということになるのか?本作によると、ブッシュがイラク侵攻を進めたのは石油利権の為ではなかった。アメリカにとって避けるべきことは石油価格の急激な変動だ。その為には戦争はしないにこしたことはない。イラク侵攻のファクターとして重要なのは、鉄道資本と石炭産業だと言う。アメリカの発電は石炭発電が主流だとは初めて知りました・・・ってのはともかく、主要産業界のトップと、大統領をはじめホワイトハウス関係者の殆どがどこかしらで縁戚関係にあるそうで、固有名詞がいっぱい出てきすぎて頭が混乱しそうに。しかし国の上層部がこういう状態というのは、やはりあまり健全とはいえないだろう。日本人にとってアメリカの「保守派」とはいまいちイメージしにくいので、その歴史を知るにはいい一冊かもしれない。ただ、著者は金融界人が心底嫌いらしく(笑)かなり言いたい放題なのには苦笑。

『無頼の掟』
  ジェイムズ・カルロス・ブレイク著、加賀山卓朗訳
 叔父達と企てた銀行強盗が失敗し、沼地の中の刑務所に送られたソニー。しかし一か八かで脱獄を狙う。1920年代のアメリカを舞台にしたクライムノベル。『明日に向かって撃て!』『俺達に明日はない』のような雰囲気と帯に書いてあったのだが、正にそんな感じ。ソニーには犯罪の天性があり、頭がよく教養もあるが犯罪者への道を進んでしまう。しかしカラっとしており痛快。ソニーと叔父2人の掛け合いが楽しい。終盤に向かうにつれ、伝説の鬼刑事の影が忍び寄り、雲行きが怪しくなるのだが・・・。何故か食事のシーンが記憶に残った。どうってことない(ベーコンエッグとか、フライドチキンとかサンドイッチとか)食事なのだが、美味しそう。

『イン・ザ・ペニー・アーケード』
  スティーブン・ミルハウザー著、柴田元幸訳

 子供の頃のおもちゃ箱を久しぶりにひっくり返してみたら、思いがけず古びた宝物が出てきたような味わい。表題作や「太陽に抗議する」「橇滑りパーティー」のように、ある事に気付いてしまった時の、もう元には戻れないという悲しみが滲む作品もいいが、からくり人形作りにはまってしまった青年が主人公の「アウグスト・エッシェンブルク」のような、おとぎ話的なものも良い。「東方の国」は、ある架空の王国を様々な項目で説明するという形式の作品だが、ちょっとクラフト・エヴィング商会の作品を思わせるところがあった(というか、クラフト・エヴィング商会がミルハウザーの影響を受けているのではないかと思う)。

『犬猫 36歳・女性・映画監督が出来るまで』
  井口奈巳著
 映画「犬猫」の監督が、8mm版を撮ってから35mm版のリメイクで正式にデビューするまでを綴ったエッセイ。決して上手い文ではないが、とても正直さの感じられるエッセイだった。初めての自主映画をびっくりするほど見切り発車で作り始めていて、素人目にも無茶なのがわかる。でも、慣れない撮影でOKが全く出せなくて辛くても「こんなに幸せで今死んでも後悔しない自信があった」なんて、本当に映画が好きなんだなぁ。色々不思議なめぐり合わせに助けられている人で、メインロケセットを偶然見つけた時とか、主題歌を担当した湯川潮音を発見した時とか、何より映画評論家・翻訳家の山田宏一との出会いが大きい。運も実力のうちとは言うけれど、やはり人の縁て大事だ。「映画の世界に関わるひとの中には素人っぽいことを言ったりやったりすることをバカにするひともいるのですが、ほんとうに能力のあるひとはバカにしたりせずに受け入れて試してくれることが多いようでした」とあったのだが、映画以外の世界でもそうだと思う。本当に一流の人は驕りがない。映画作りを目指す人はもちろん、普通に働いたりこれから働こうとしている女性達が読んでくれるといいなぁと思う。

『モンタナ・ジョー マフィアのドンになった日本人』
  村上早人著

 モンタナ・ジョーは、1950年代から80年代初頭まで、アメリカで活躍した日系マフィアのドンだ。こういう人がいたことは全く知らなかったのだが、まるで映画や小説のように波乱万丈な人生だ。ギャンブルの才能に恵まれていて嘘みたいな強運の持ち主。その運ゆえ暗殺からも生き延びることが出来た。しかしマフィアとしての活躍よりも、日系2世としての、アメリカの中での立居地のない辛さが心に残った。日本人としての意識の強い(しかもガチガチの明治生まれ)父親(なんと牧師)とは反りが合わずに家出。しかし自分の中のアイデンティティはアメリカ人としてのものなのに、周囲からは常に「ジャップ」として蔑まれる。成功してからもそれは変わらなかった。彼らが経済的に成功するには犯罪に走るしかなかったのだろう。また、自分の居場所を獲得する為に、マフィアとして群を作り、居場所のなさ故に結束が固まったのかなと思った。ノンフィクションなのだが、所々小説風のパートが入る。この部分がちょっと三文芝居的なのが残念。ルポに撤してほしかった。

『QED 鬼の城伝説』
  高田崇史著
 高田版裏日本史シリーズ、今回は岡山県の桃太郎伝説をぶった切る。毎回毎回、物語のフォーマットは全く同じで、それ故歴史解釈の着地点も大体見当がつくのに、読者を飽きさせないのは偉い。どうやら著者のライフワークとなりつつあるようだ。ちなみに今回の殺人事件は横溝正史小説みたいなのだが、殺人事件事態の解決はシリーズが進むにつれ、どんどん投げやりになっている気がする(と前作「鎌倉」の感想でも書いた気がする)。シリーズ内殺人事件がおきなくなる日も近かったりして。今作はこれまでのシリーズの流れも汲んでいるので、「竹取」あたりは読んでからの方がわかりやすいかもしれない。

『各務原氏の逆説 見えない人影』
  氷川透著
 氷川透は、どうやら本気で青春小説をやるつもりらしい。そして前作同様、それはそこそこ成功しているのではないかと思う。自称「無気力」だが、実は相当サッカー好きらしい今回の主人公(サッカー部マネージャー女子)の高校生らしい無力ぶり、私は結構好きだ。今回はそのサッカー部部員が変死体で発見されるという事件。「というより動機があるかなんて(中略)そんなことで犯人が誰決めようとするのは愚の骨頂だ―」とは、氷川らしい。チェスタトンへのオマージュであるこのシリーズだが、チェスタトンぽさは残念ながら前作の方が強かったかな。

『ネジ式ザゼツキー』
  島田荘司著
 記憶の一部を失った男が書いた童話「タンジール蜜柑共和国への帰還」。御手洗潔は、この童話は現実にあったことだと推理する。木の上の村、ネジ式関節の妖精、人工筋肉で飛ぶ飛行機。果たしてその真実とは?途中までは謎の見当がつく部分もあり、久々に島田節に引き込まれた・・・が。そ、それは無理です先生・・・。斜め屋敷やら水晶のピラミッドやらですっかり慣れたつもりだったが、今回は無理。無茶っすよ!!バカミスぎりぎりっすよ!!ついでに「タンジール〜」部分が下手に面白くできているので、謎解きするのも勿体無い気がしないでもない。

『方舟は冬の国へ』
  西澤保彦著

 監視カメラとマイクがはりめぐらされた別荘で、一ヶ月間家族の振りをして生活してほしいという依頼を受けた、見知らぬ男女と少女。果たして依頼の目的とは?主軸となる「何が起こっているのか」という謎の他に、各章ごとに思い出の中の謎や日常の謎など、小さなミステリが挿入される。ちょっと鬱陶しいなと思ったのだが、雑誌連載作品だった為らしい。著者のセンチメンタルな部分が炸裂した作品ともいえるが、実はこのテイストは私は得意ではなので、情緒過多で辟易するところも。そしてこのラストは、他人との境界が曖昧になるようで、ちょっと気持ち悪さも感じた。

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