10月

『ゆき』
  斎藤隆介著
 雪ん子のゆきは天から地上に降り、下界を「掃除」する為、百姓の味方になって地主や侍と戦う。小学校の時に学級文庫にあったのだが、当時は斜め読みする程度だった。先日文庫版を古本屋で見かけて購入。当時だったら素直に読めたと思うが、百姓一揆で倒される侍たちの妻子はどうなるのだろうと思うと、どうどう巡りな気がして釈然とせず。

『壁のなかで眠る男』
  トニー・フェンリー著、川副智子訳
 ミステリとしては犯人解明が唐突な感じがするが、キャラクターの軽快さで読ませる。主人公マーゴはストリッパー出身のゴシップ記者。マーゴの夫・ジュリアンは、名門一族の出ながら隠れゲイで、マーゴとの結婚もカモフラージュの為。そんな2人だが、友情はしっかりとある。時代背景は湾岸戦争中。マーゴもジュリアンもベトナム戦争中に青春時代を送った世代なので、そういう人達が湾岸戦争をどう見ていたのかということが随所に出てくる。著者はマーゴと同年代らしく、このあたりの描写には熱が入っている。

『人形の記憶』
  マーティン・J・スミス著、幾野宏訳

 いくらレイプ被害のショックにより記憶喪失だったからといって、8年前の記憶がいきなり蘇るか?という疑問はあるものの、なかなか面白い記憶ミステリ。自分の記憶を信じられない、その為周囲の人が言うことも信じられないという不安定さがスリリング。記憶喪失とその改竄というネタゆえ、真犯人がある程度絞られてしまう所が難点か。

『ダブ(エ)ストン街道』
  朝暮三文著

 幻の第8回メフィスト賞受賞作。世界から隔絶された奇妙な島に辿り付いた主人公、というと伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』を連想するが、本作はミステリではなくファンタジー。と言っても、各エピソードにちゃんとオチをつけるあたりはミステリ的か。ダブ(エ)ストンという島自体が主人公という感じで、物語というよりも、物語の形をとった島の博物誌という感じもする。各章の扉ページに、ダブ(エ)ストンのミニ知識が載っているのも楽しい。読後感は良い。

『暗闇にひと突き』
  
ローレンス・ブロック著、田口俊樹訳

 ミステリとしては正直苦しい(あの程度の事柄から犯人が推理できるか?)が、その他の部分で読ませる。探偵マット・スカダーは、この頃はまだアル中。だが、自分ではそれを認めていない。「やめようと思えばやめられる」なんて思うことこそ、アル中の証拠だと思うのだが。本当は自分でも分かっていること、事実を認めたくないという心理が、スカダーにも依頼人にも共通し、作品全体のモチーフとなっている。

『漫画原論』
  四方田犬彦著

 漫画を作品論・作家論としてではなく、その構成要素を分析した漫画表原論。漫画を読みなれている人には今更感もあるが、改めてなるほどと再認識する所も。’94発行の本だが、既に古さを感じる所も。漫画というジャンルの変化スピードの早さを感じる。

『ハーメルンの笛吹き男 伝説とその世界』
  阿部謹也著

 「ハーメルンの笛吹き男」伝説は何故生まれたのか。13世紀ドイツで実際に起きた事件から伝説化したらしい。今まで論じられた様々な説を取り上げ、検証する。中世の身分差別が非常に厳しいことや、未亡人には全く職がなかったということには驚いた。また、それぞれの論が、その論者が生きていた時代背景、更にはその論者個人の背景に影響されているのが興味深い。

『池袋ウエストゲートパークV 骨音』
  石田良衣著

 シリーズ3作目ともなると、語り手マコトの文体がやや鼻につく。文の最後に必ず一オチつけるところとか。でもマコトがキングやサルとつるんで活躍する姿は、やはり楽しい。「骨音」はドラマ化もされたが、ドラマの方がインパクトあったかな。マコトがチャンドラーを読んでいるらしいあたり(卑しき町を行く孤独な騎士、って言ってるし)、ちょっと微笑ましい。

 

 

乱雑読書TOP  HOME