1月

『試験に出ないパズル』
  高田崇史著
 パズルが至って苦手な私だが、なぜかこのシリーズが好き。著者のメインシリーズである「QED」シリーズにしてもそうなのだが、ミステリの中で社会や思想や歴史を語るのではなく、あくまで知的遊戯として楽しむ姿勢のクールさが好ましい(そういえばこの著者、本職は薬剤師で作家業は副業だ)。それにしても今回は挿入されたパズルがレベルアップしていて難しかった・・・!数学の知識を使う問題が多くて、もう全滅だった。

『卵の緒』
  瀬尾まいこ著
 高橋源一郎が推薦文を書いていただけある。最近は日本の小説にしても映画にしても、家族の新しい形の可能性を描こうとする作家が増えていると思う。表題作では、若い母親と小学生男子(このお母さんもお母さんの彼氏もいい感じだ)、『7’s blood』では突然同居することになった異母姉弟の日々が描かれている。2作とも、読んでいて嬉しくなるような、掘り出し物的良い小説。

『ブラッシュ オフ』
  シェイン・マローニ著、浜野アキオ訳
 行政アドバイザーが主人公という変り種ミステリ。贋作絵画疑惑を巡って、ボスと自分の保身の為に右往左往する。・・・この小説、どうもさっぱり面白くない。ネタやオチ自体は決して悪くはないと思うのだが。主人公があまり魅力的でないのが敗因か。文章もちょっとごちゃごちゃしている感じで、ストーリーに対して全体的に長すぎると思う。「豪州のE.レナード」という触込みだが、そりゃレナードに対して失礼ってものでは。

『カメレオンの為の音楽』
  トルーマン・カポーティ著、野坂昭如訳

 野坂昭如の訳だったのにちょっとびっくり。カポーティ最後の短編集だそうだ。クール・シニカル・時々グロテスクだが、たまに繊細な優しさが垣間見られる。インタビュー形式の短編も多く、実在の人物の名前も。特にマリリン・モンローとの会話「うつくしい子供」では、カポーティのモンローに対する優しさが覘いており、彼女のその後を思うとちょっと切ない。

『シネマと書店とスタジアム』
  沢木耕太郎著
 タイトルの通り、映画、本、スポーツに関するコラム集。特に、朝日新聞に連載されていた映画評、「銀の森へ」が良い。映画好きとしては、著者が映画評を書いてくれるとは嬉しい限り。それに比べると、スポーツコラムは今ひとつ冴えない(長野冬季五輪や、Wカップもあったのに!)。スポーツ自体が面白くなかったのか、著者のスポーツに対する関心が薄くなっているのか。

『彼女は存在しない』
  浦賀和宏著

 実は途中でオチが半分分かってしまったが、かなり面白いミステリ。「彼女」とは誰なのか、読んでのお楽しみ。オチを読むと、このタイトルはちょっと切なく感じた。ちなみにこの著者、相当テクノミュージック好きらしく、ミュージシャン名がボロボロ出てきて楽しかった。

『パーク・ライフ』
  吉田修一著

 芥川賞受賞作。表題作は、何かが起こりそうだが多分このまま変わり映えのない日常が続くんじゃないかという雰囲気、もう一編の『flowers』は、日常が破綻しそうでしないという微妙な感じだった。受賞当時、箱庭的という批判も聞かれたが、その箱庭っぽさこそが、現代のリアリティを感じさせるのではないかと思う。

『ジャンピング・ジェニイ』
  アントニイ・バークリー著、狩野一郎訳

 4つの名義を持つミステリー作家の、中期(1933年)の作品。仮装パーティーで女性の死体が発見されるのだが、実は犯人と思しき人物についての情報が、話の始めにある程度明かされてしまう。そして探偵はある事情により、死亡原因が自殺であることを証明(もしくは捏造)しなくてはならない。ミステリなのに真相解明からは遠ざかる、逆向きミステリとでも言おうか?果たして探偵は上手いことはったりをかませるのか?ミステリーにおける探偵の役割を考えさせられた1冊。近年はこういうテーマの小説が多くなってきているが、この時代に既にこういうミステリがあったんだなぁ。

『琥珀の望遠鏡』
  フィリップ・プルマン著、大久保寛訳

 現代の傑作ファンタジーと言って良いだろう、ライラの冒険シリーズ完結編。あっちの世界とこっちの世界だけでなく、更に他の平行世界を、更に死者をも巻き込んで、そりゃあもうえらいことになっている。風呂敷広げすぎて「ねえ大丈夫!?大丈夫なの!?」と著者に問い掛けたくなること数回。神さえ否定してしまうのだから、もう恐いものなんてないですね(笑)。読後は「すごい!」という興奮と「はぁッ?!」という虚脱感が半々。正直文章の上手い作品ではないのだが、読ませようという情熱がばしばし伝わってしまった。
 ライラ以外のキャラが良かった(笑)。個人的には「おれの種族は神も幽霊もダイモンも持たない。生きて死ぬ、それだけだ」という熊の王・イオレクと、身体は小さいがプロ根性を見せてくれたスパイ・ガスペリアン達がお気に入り。

『拷問と暗殺』
  デイヴィッド・L・リンジー著、菊池光訳

 内容は正にこのタイトルのまんま。拷問シーンが妙に具体的で恐い。元メキシコの政治家と、彼を暗殺しようとする狂信的集団「テコス」、「テコス」に相棒を殺された刑事ヘイドンの攻防が描かれる。ラストの無力感は強烈。主人公であるヘイドンはちょっと癖のあるキャラクター。父親の遺産を受け継いで裕福なのだが、何故か現場の刑事であることにこだわっている。独特の陰があり、気難しい。今作では相棒を殺されたことで精神的にも追い詰められ、神経衰弱気味で暴走しそうになることも。彼を支える妻・ニーナが美人で賢くて優しくて、と出来すぎな気がする(笑)。

『フレームアウト』
  生垣真太郎著
 第27回メフィスト賞受賞作。’79年のNYで、1本のフィルムに映画編集者デイヴィッドが振り回される。これは本当にスナッフフィルム(出演者が実際に殺害されるフィルム)なのか?
 映画を巡るミステリなので、映画好きの私にとってはニヤリとさせられる固有名詞がちらほら出てきた。こんな所でジョン・ウォーターズの名を見るとは。話の中盤を過ぎても実際の殺人は起こらず、フィルムの正体を探る不思議なミステリ。幻想小説のような雰囲気もある。デビュー作としてはかなり良く出来ているが、本格ミステリを読み込んでいる読者にはトリックがわかってしまうのでは?私でさえなんとなく分かったから。

『夜明けの挽歌』
  レナード・チャン著、三川基好訳

 ボディーガードのアレンは仕事中に、クライアントは守ったものの、相棒のポールを銃撃で死なせてしまう。生前のポールの動向を探るうち、事件は元々ポールを狙ったものではないかと疑うようになる。そして事件はアレンの死んだ父親とのつながりまで匂わせてきた・・・。
 アレンの両親は彼が子供の頃に死んだ。彼は伯母のもとで育ったが、伯母とはそりが合わず何年も会っていない。「家族というものがどうしても理解できない」と彼は語る。家族の絆を知らないからこそ、ポールの家族にほのかに憧れ、父の記憶を追って事件の真相を追ってしまったのか。しかし、世の中には知らない方が幸せなこともある。特に家族に関することは。「アジアン・ノワール」と銘うってあるのにあまりノワールっぽくないと思っていたら、オチはしっかり黒かった。読後はやりきれない気持ちになった。
 ストーリーはアレンの一人称なのだが、事件への巻き込まれ方が本人にも見えていないので、一体何が起こっているのか読んでいる方にもわからない。終盤で一気に畳み掛けてくる感じだった。一人称なので、アレンがコリアン系アメリカ人であることもしばらくわからない。周囲の反応から分かってくるのだ。このあたり、上手い。そして翻訳がとても上手くいっており、不自然さがなく、とても良い。(と思ったらこの訳者、ジム・トンプスンやエリオット・パティスン等の難物を訳していた人だった。そりゃ上手いわ。)

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