「歌 姫 降 臨」



「……久しぶりね。まさかこんなところで、あなたに会うなんて」


 そういうあんたこそ、今ごろは都で一、二の人気者だと思ってたが。


 「歌姫の称号はもらったわ。場末の居酒屋まわりだけど」


 ああ。あいかわらず、あんたの歌は最高だったよ。


 「ありがとう。お世辞でもうれしいわ。だけど自分でもわかってるの。
声のつやも張りも、昔にはおよばない。いまはただ、テクニックで誤魔化してるだけ」




 ところで、あんたがここで歌うようになったのは、ニックに逃げられたってことなのか?
 

 「逃げられたんじゃないわ。追いかえしてやったのよ。
女の稼ぎをあてにして飲んだくれる男なんか、こっちからお断りだもの」


 あんたが出来すぎだったのさ。
できすぎの女は時に男を追いつめる。そいつの性根が弱けりゃなおさらだ。


 「要は運がなかったのよ、ただそれだけ。男にも。人生にも」




 ……、ロージー……。もし、もう一度中央で歌いたいと思っているのなら。


 「よしてよ。お固くて窮屈なのはもう沢山。籠に入るのはごめんだわ。
大丈夫、食べてくだけなら何とかなってる。それに……」






 「どこで歌おうと、あたしは歌姫、歌姫ローズよ」





掲載 02/10/1