今年に入ってからまだ一週間も経っていないが、たまたま何人の人たちからP2Pについて話す機会があり色々と情報交換を行った。どの人たちとも非常に参考になるお話を聞くことができとても良かったのだが、何人かの人たちから共通して気になる質問いただいた。その質問とは「P2Pの動きは3年前と同じように感じられるのだけど、何か新しい動きはある?」という質問だ。 この質問に答える前に3年前のP2Pをとりまく状況を少し振り返ってみよう。まず、一般にP2P技術という言葉がIt業界に認知されたのは、Napsterが爆発的な勢いで普及をはじめた2000年頃だろう。P2P技術はKaZaAやWinMXなどの後継ソフトを生む一方で、SETI@HOMEの流れを受けた「分散コンピューティング」、AIM、ICQに続く「IM(インスタントメッセジング)」、Microsoftも出資して話題を集めたGrooveをはじめとした「グループウェア技術」、導入事例もいくつか出てきた「コンテンツ配信・ストリーミング技術」などが続々と登場した。そう、この時はP2Pはまさに「次世代のネット技術」とと大きな注目を集めた時期だった。 それでは、P2Pブームから3年経った現在の状況はどうだろうか?。まずはNapsterの流れ受ける「ファイル共有・交換ツール」だ。日本ではご存じの通りWinMXやWinnyなどの「ファイル共有・交換ツール」が受け入れられ、多くのユーサが利用している。しかし、Napsterが登場してから言われてきた問題点、すなわち「著作権」と「帯域」の問題は現在も解決していない。特に著作権の問題は、いつまでたっても解決しない問題だ。最近ではファイル共有・交換網を使った合法的なコンテンツ流通の方法もいくつか出てきているが、まだいくつか問題があり、ファイル共有・交換ソフトを使った合法的な方法は普及しておらず、ファイル共有・交換ソフトを使ってやりとりされているコンテンツの多くは違法コンテンツと考えられる。 次に「分散コンピューティング」はどうか? なるほど、SETI@HOMEは順調に人数を増やしているし、素数の発見や炭疽菌の解析など医療分野にはすばらしい貢献を行っている。しかし、巨大な演算能力の一部を提供した我々に一体、どんなメリットがあっただろう? 現状の分散コンピューティングは、我々が集めた処理能力を我々が自由に使うことはできないし、複数の分散コンピューティングに自分の処理能力を提供するのも難しい。そもそも、マニアはともかく普通のインターネットユーザが「素数の発見」にどれほど興味があるのか疑問だ。 IMはどうだろうか?IMの利用者だけ見れば、ものすごい勢いで成長しているように見える。なんといっても、利用者は世界に1億人以上いるし、日本でもIMの利用者は着実に増えている。しかしIMの機能に注目した場合はどうだろうか?依然としてテキストベースのチャット機能しか利用していないユーザがほとんどであろう。Windows XPの発売時はビデオチャット機能がずいぶんと話題になったが、CMのようにWindows XPに付属していたWindows Messengerで会話を行ったユーザがどれほどいただろうか…。またIMのステータス機能を様々な情報と連動させたり、PC以外の機器でのIMの可能性もずいぶんと議論になったが、過去3年間でIMの進化はほとんど無かったように思う。 最後にP2P型のグループウェアはどうだろう?Groove等のP2Pコラボレーション機能は従来のグループウェアよりも優れている点が多いが、それでも現状のグループウェアを全廃し、すべてをP2P技術を利用したグループウェアにするほどの魅力があるだろうか?P2Pに興味を持っている数人が「お遊び」で利用していて終わってしまうケースが多いのではないか?華々しい「事例」以外にどれだけのユーザがいるのだろうか? このように3年間のP2Pの動きを振り返ってみると、P2Pは「次世代インターネット技術」と言われながら、Napster以上のものを作りあげることはできかったように見える。IT技術を定期的に見ている人たちにとっては、基本的に「P2Pの動きは3年前と同じ」と考えてしまうのも無理がない。 しかし、本当にP2Pの進化は止まったのだろうか? 次回は、P2Pの進化が止まったかのように見える理由を考えていきたい。
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