私が考えるファイルシェアリングの現状と未来
前略 メールありがとうございます。横田真俊です。 さて、「著作権などから毛嫌いされている感のあるP2Pの未来とこれからの問題点についてご意見を伺いたい」ということでしたね。まずP2P=ファイル交換ではないということをはっきりさせておきたいと思います。P2Pはファイル交換以外の用途でもSETI@HOMEのように分散コンピューティングで使われていますし、GrooveのようにP2Pを利用したグループウェアもあります。決してP2P=違法ファイル交換ではありません。 ただ、今回は「ナップスター狂騒曲」を取り上げられるということもありますしファイル交換ソフトを中心にお話しさせていただきます。(私のWebページをご覧になっていただいるようなので、このような説明は不必要かと思いますが、説明したがりは知ったかぶりの悲しい性です。許してください。) まずは現状のファイル交換ソフトの状況は「訴訟」の一言につきると思います。米国では、現在ファイル交換ソフトの1位、2位、3位のファイル交換ネットワークが全て訴えられており(1)。さらに、先日はRIAAによる大規模の訴訟がありました(2)。この訴訟では12才の少女を含む261件もの大規模の訴訟になっています。この訴訟は様々な問題点がありますが(3)、KaZaAなどの人気があるファイル交換ソフトを利用すると訴訟を起こされるケースが出てきます。訴訟を始める前からファイル交換のユーザが減少しているという報告(4)はありましたが、今回の訴訟によって、さらにユーザが減少することは間違いがないでしょう。 では、日本のファイル交換の現状はどうでしょうか?ネットアーク社によると9月1日現在では1,184,873ノード(5)、またACCAの調査によるとファイル交換ソフトの利用者が185万6,000人(6)となっています。二つの調査には多少の数字が違っているものの、日本でもかなりの数のユーザがいることが伺えます。 日本ではこのような大規模なユーザに対してJASRAC等の音楽業界はどのような行動を取ったのでしょうか?訴訟・逮捕という点では日本ではかなり早い段階からWinMXユーザが逮捕されています。2001年11月には初の逮捕者が出たのは記憶に残っていると思いますが(7)、この件以外にも目立たない所で逮捕・訴訟が起こっているようです。日本ではRIAAのように大規模な訴訟は起こっていませんが、確実に逮捕者や訴えられている人間がいます。現在はこれらの「ファイル交換による逮捕者」は目立っていませんが、RIAAによる一斉訴訟によりファイル交換ユーザが大幅に減少すれば、日本でも個人ユーザを対象に一斉に訴訟を起こす可能性が出てくるでしょう。 「WinMXではなくWinnyにすれば訴えられないのではないか?」と思うかもしれません。確かにWinnyは匿名性が強いですが、やはり違法性が高いことには変わりません(8)。Winnyは送信時に暗号機能を搭載していることやファイル共有にFreenet形式を採用しているため使用者を特定しにくい性質があるものの(9)、JASRACやP2P FINDERを運用しているネットアークによると「技術的には、どんな種類のファイル交換ソフトでも、利用者を特定することは可能」としています(10)。WinMXユーザがWinnyに大量に乗り換えた場合は、あらゆる手を使ってユーザを特定しようとするでしょう。決して「Winnyだから安全」ということにはならないと思います。(Weave(-A-)Web:によると、先日慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパスで行われたシンポジウム「著作権とP2P」の中でACCSの久保田氏は「難しいが違法なファイル交換が多いのでwinnyでそろそろ一発やろうかな。二年経過したし。」といった趣旨の発言したとのこと 03/10/06 追加) このように提訴・逮捕による「見せしめ」はファイル交換ユーザに、「このような事をやると捕まる」という印象をユーザに教育し、ファイル交換ユーザは減少していくと思います。 また、ファイル交換ユーザが注意しなければならないのは「違法コンテンツ」の共有だけではなく、ファイル交換により「コスト」にも注意しなければならなくなります。以前より、ファイル交換によってISP側が多大なコストを払わせられるという指摘がありましたが(11)、日本でも一部のファイル交換ユーザーによってプロバイダのバックボーンが圧迫されている問題も出てきています(12)。また、日経コミュニケーション7/14に掲載されていた記事では個人ユーザの多い某プロバイダでは「上りのトラフィックの9割がP2Pを利用したファイルシェアリングソフト関連」という話が出ていたり、日経パソコンの8/18号では「ASAHIネットのBフレッツユーザによる全通信量のうち6割が、1%以下のユーザのファイル交換ソフトによる通信」などの話が出ています。 これは、日本だけの動きではなく米国ではブロードバンドユーザに対してこのような動きは始まっていますし(13)。 これらの流れが一般的になれば、大量のファイルを共有しているユーザほどISPから高額の料金を請求されるケースが手でくるでしょう。タダで動画やアプリケーションを入手するツールが月に数十万円の利用料金を請求されるものになれば、高速な帯域と大量のファイルを持っているユーザが少なります。そうなれば、自然とファイル交換のユーザは少なくなるでしょう。 ここまで、読んでいただければわかる通り、私は「違法ファイル交換の未来」にはそうとう厳しいものが待っていると思っています。RIAAやJASRACは相当な批判を受けながらも違法なファイル交換を潰していくはずです。 ただ、ファイル交換が潰れても現状のコンテンツビジネスが成り立っていくかどうかも疑問です。米国ではAppleのiTunes Music Storeを始めコンテンツ配信サイトが次々に登場しています。(14)これらのサービスの登場はWinMXなどのファィル交換などの影響を受けているのは確実です これらのコンテンツサービスによって、様々な影響が出てくるでしょう。使い勝手の良いコンテンツ配信サービスが受けいれられれば、ファイル交換の規模は小さくなっていくでしょう(15)ただし、ファイル交換サービス自体が小さくなってもその影響の連鎖はまだ続いています。個人的にはファイル交換を越えて次のコンテンツ流通を考えなければならないと思っています。 とりとめのない長文で文章で失礼しました。
・この文章は波頭海人さんに送ったメールに若干の修正を加えたものです。 (3)例えば「人違い」でRIAAに提訴されたというケースなどがある。 (5)P2P FINDER (6)ファイル交換ソフトの利用者が185万6,000人に〜ACCSが実態調査 (8)Winnyに違法性については「バーチャルネット法律娘 真紀奈17歳」さんの「Winnyと著作権」が詳しい (12)あなたの料金は“神”のために?著作権侵害だけではない、ファイル交換ソフトの弊害 (14)今年に入っての音楽配信サイトのサービス発表(もしくは動き)が目立つ ・[Apple]Apple、1曲99セントのネット音楽販売店とiPod新モデル発表 (15)iTunes Music Storeを発表した時にSteve Jobs氏はKaZaAなどのファイル交換と自社のiTunes
Music Storeを比較して「(KaZaAなどのファイル交換では)1時間かけて、せいぜい4曲ぐらいしか手に入れられないのが現状だ。iTunes
Music Storeでは4曲が4ドル以下。4ドル分の楽曲を手に入れるために1時間を費やしていたら、最低賃金以下で働いているようなものだ」と述べている
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