[この記事の視点]

・[昨日の敵は今日の友]

今週初め、Vivendi UniversalがMP3.comを買収すると発表した。(1)Vivendi Universalはソニーとの共同事業のDuet(2)にMP3.comの技術を採用していきたい考えだという。

今まで、大手レーベルはNapsterのようなP2P技術のサービスはもちろんのこと、EMusicやMP3.comなどのダウンロードサイトさえ「敵」として攻撃を行っており、MP3.comは大手レーベルからも訴訟されていた。(3)結局この訴訟は和解したがその後も独立系レーベルやアーティスト個人から訴えられている。一方のMP3.comも「敵」である大手レーベルやRIAAに公の場で批判するなど(4)大手レーベルを挑発していた。

しかし、昨年の終わりから大手レーベルはMP3.comを始めかつての「敵」であるは新興音楽サービスに急接近している。NapsterとBertelsmannとの提携を始め、UniversalによるEmusic買収(5)そして今回のMp3.comの買収と以前の「敵」だった両者は急速に接近しつつある。

・[オンラインミュージックに本気になった大手レーベル]

ではこれらの敵同士を結びつけたものは何だったのだろうか? もちろん、ネットバブルが崩壊した現在の状況でMP3.comなどのネット企業が生き残るため大手レーベルに身売りしたいうこともあるが、これらの敵同士を結びつけたのはNapsterの存在が大きい。

Napsterは大手企業がオンラインミュージックについて四苦八苦している中、あっという間に6000万人以上の人間を集めてしまった。オンラインミュージックは時期尚早と考えていた大手レーベルなどの業者にとって、この事実は大きな衝撃になったはずだ。そのことは去年の夏頃の音楽業界の発言を思い出すとよくわかるだろう、このころからTIME Warnerの幹部やRealNetworksなどがNapsterなどの新興勢力に対して自分達の業界のスピードが遅いと警告する場面がたびたび見られるようになっている。(6)

去年の夏以降、大手レーベルはNapsterとの距離を埋めるべく、オンラインミュージックに対して本気で取り組むようになった。まず、ネットバブル崩壊と相次ぐ訴訟により資金繰りが苦しくなってきた音楽関連の企業に目をつけ始め、(7)この時期から現在まで大手レーベルやMicrosoftを含むポータルが音楽関連の企業と提携したり、買収を始めている。(8)BertelsmannによりCDNOW買収やNapsterとの提携、またMicrosoftが音楽検索技術会社を買収しているのもこの時期である。

その後、楽曲確保のため大手レーベル同士が手を組み始めた。まず今年の2月にソニーとVivendi Universalによる「Duet」が設立され、4月にはRealNetworksとAOL Time Warner,Bertelsmann,EMI Groupが手を組み「Music net」(9)が設立している。 両社とまだ、サービスの全て公開されていないため料金徴収の詳細な方法は不明だが、どちらも会員から料金を徴収するサービスになり、ユーザーは中央サーバーから音楽を有料でダウンロードもしくはストリーミング再生で音楽を楽しめる。ここまでは従来の音楽ダウンロードと変わらないが、両社ともNapsterのようにユーザーから直接音楽をダウンロードできるサービスも始めるという。

・[なぜ、大手レーベルがP2Pなのか?]

5月17日、米連邦議会の公聴会でRealNetworksのCEO、Rob Glaser氏はMusicNetのサービスの一部を披露し、MusicNetは楽曲は中央のサーバに加えて,他のMusicNetのメンバーからもP2P方式でダウンロード可能になるということを発表しており。また、当初はP2P方式の採用に慎重だったDuet(10)もP2P型のサービスも提供すると話している。

もちろん、今までファイルシェアリングシステムのように違法コピーを交換するのではなく、交換対象はレーベルが認可した楽曲だけに限られ、ダウンロードしたデータをPC以外のデバイス(MP3プレーヤー等)に移すことはできない。また、ダウンロードした曲を聴くためには毎月の料金を払わなければならないこともある。

このような制限が付いているとはいえ、なぜ大手レーベルは今まで「悪魔」と呼んでいたNapsterと同じ方式を採用したのだろうか?もちろん、楽曲をクチコミで広めて欲しいということもあるのだろうが、一番の目的は配信コストの削減だろう。従来からのサーバーから音楽データをダウンロード・ストリーミングする形式ではストレージやネットワーク帯域幅に対して大きなコストがかかるが、P2P方式を採用すればストレージは利用者が、またネットワーク帯域幅の費用をISPが自動的に負担することになる。この二つのコストを削減できるようになればコンテンツ配信業者にとって大きなメリットとなる。後は著作権と認証の問題さえクリアできればDuetなどのコンテンツ配信技術にとってP2Pベースの技術を採用するのはむしろ自然なことだろう。

・[今日の友は明日の敵]

しかし、DuetやMusicNetがP2P技術や豊富な楽曲を提供していくのにはいくつかの障害がある。まずは無料のファイルシェアリングサービスを提供しているメーカーと戦わなければならない。ピーク時には6000万人近くの人間が利用していたNapsterだが、現在では強力なフィルタリングにより利用ユーザーは急速に減少し、NapsterユーザーはGnutellaなどの他のサービスに乗り換えている。DuetとMusicnetはしばらくの間、「無料」を売り物にしているソフトと戦わなければならない。

しかし、当面の「敵」となるのは今まで味方であった「作詞・作曲家や音楽出版関係者」になるだろう。MusicNetやDuetは既に作詞・作曲家たちから版権をめぐる反対運動に直面しており既に訴訟も起こっている。このような問題は音楽だけで終わらずに様々なコンテンツ配信についても問題になっていくだろう、既に新聞のコラム(11)や映画など音楽以外のデジタル著作権に対する裁判も続々と始まってきている。現在は音楽だけだが、映画やTVなどをネットで流す計画も本格的になってきくるだろう。DuetやMusiccityはこのような著作権の問題に対してどのような行動をとるか、今後の動向に注目したい。  

---------------------------------------------------------------- (1)Vivendi Universal,MP3.com買収を発表 http://www.zdnet.co.jp/news/0105/21/mp3_vivendi.html

(2) Sony MusicとVivendi,オンライン音楽事業で合弁 http://www.zdnet.co.jp/news/0102/23/b_0222_04.html

(3)MP3.comの新サービスが著作権侵害? 全米レコード業界が提訴 http://www.zdnet.co.jp/news/0001/24/mp3.html

(4)デジタル音楽配信の米MP3.comが米レコード協会を反訴 http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2000/0209/mp3com.htm

(5)Universal,EMusic買収で合意
http://www.zdnet.co.jp/news/0104/10/b_0409_04.html

(6)電子音楽を取り巻く状況は「まるで禁酒法時代」――RealNetworksのGlaser氏 http://www.zdnet.co.jp/news/0005/25/real2.html

Napsterは「悪魔」とTime Warner社長――だが業界に警告も http://www.zdnet.co.jp/news/0007/25/parsons.html

(7)この時期開かれた、ニューメディア業界のコンファレンス「ウェブノイズ2000」の中で、出席したオンライン音楽配信業界の複数の幹部は、業界の現状について、米Napsterの訴訟などの影響で、数少ない投資家が中小の業者から手を引いており、業界統合の機が熟している、との見方を示している。

(8)Microsoftは2000年9月に音楽検索機能を持つサイトの運営企業モンゴミュージックやデジタル音楽ソフトウェアのメーカーであるパシフィック・マイクロソニックスを買収している。
http://japan.cnet.com/News/2000/Item/000919-5.html http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2000/0914/msmm.htm

(9)RealNetworksと大手レーベル3社が「MusicNet」で合意 http://www.zdnet.co.jp/news/0104/03/b_0402_04.html

(10)当初Duetは「ナップスターのようなユーザー間での音楽交換サービスは実施せず、音楽会社から有料加入者に楽曲を配信する事業モデルを採用する」と話していた。

(11)デジタル著作権論争に一石を投じる連邦最高裁 http://www.zdnet.co.jp/news/0103/28/e_digitalrights.html


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