成長する、ホームネットワーキング

デジタル家電の登場



PC以外のインターネット接続手段で,より簡単に,そして誰でもインターネットを利用できる環境作りを目指した「インフォメーション・アプライアンス」が、最近注目を集めている。

無料PCや、セガが発売しているドリームキャストでの接続、そしてNTTドコモのiモード のブレイクにより、シンプルで安価なネット端末は 従来のパソコンを使っている層以外にも受け入れられる事だろう。

しかし、「インフォメーション・アプライアンス」は単に安価でシンプルなネット端末ではない。それはすべての電子機器(例えば、携帯電話、家の固定電話、TV、ビデオ ゲーム機、PDA、洗濯機、電子レンジ、FAXなどのすべての電化製品)が相互通信できるような情報端末の集合体である。

「Comdex/Fall '99」基調講演でSun MicrosystemsのScott McNealy会長は、将来はTVセットトップボックスを中心としたホームネットワークが構築され、皿洗い機や冷蔵庫などの家電もJavaベースのインターネット機器になり、電球までがネットワークにつながれると予測した。同氏は「現在、General Electronicsでは、Javaベースの電球を開発している。この電球は切れる前に、新しい電球を配達するよう知らせてくれる」と語る。 (1)

電球や洗濯機までもがインターネットに接続すると、奇妙な感じがすると思うかもしれない。しかし、それらインターネットにつながったデジタル家電は今以上に便利な家電になるだろう。

たとえば、Scott McNealy会長が例に出した電球だが「電球が切れる前に、知らせてくれる」機能の他にも、「暗くなると自然に電球が明るくなったり、逆に明るくなると暗くなる」機能や、「帰宅すると、電気が勝手につく」機能なども考えられる。 また、目覚まし時計などの昔からある機器でも、それぞれが相互通信でつながっているデジタル家電なら、より協力になる。

なかなか起きれない人間でも、「朝6時45分に目覚まし時計が鳴り、TVのスイッチが入り、パソコンが起動してメールチェックして、電話にモーニングコールが入る、コーヒができあがり、ご飯が炊きあがる」とこれらの事が一斉におきれば、さすがに起きることができるだろう。

ところが、毎日TVや炊飯器のタイマーを合わせる事はとても大変だ、寝る前にすべての電化製品をまわって、それらを朝動くようにセットするのは現実的ではない しかし、相互通信ができるデシタル家電なら、それらを管理するホームサーバーやパソコンなどに命令を打ち込むだけだ。たったそれだけの事で、一度に家の電化製品ちを動かすようにセットできる。

また、電話などもデシタル家電になればさまざまなメリットがある。 たとえば、当然の事ながら外出中に誰かが訪ねてきても、外出している人間には わからないが、インターホンがインターネットにつながったデシタル家電なら インターホンがそのまま留守番電話になり、そのメッセージを携帯電話に転送すれば誰がどのような用件でいつ訪ねてきたかがわかる。 また、その人が緊急に話す必要がある人間ならインターホンがそのまま電話になり、 携帯電話で話す事もできるであろう。

また、外出先で相手の電話番号やメールアドレスを携帯電話の中に入力すれば、 インターネット経由で自宅の電話やパソコンに同期(その情報を追加し自分の持っているアドレスデータが同じにする事)するそも簡単だ。 このような機能があれば「携帯電話にはAさんの電話番号がなく、自宅の電話にはBさんの番号がない」という機器によって情報の欠落が生じない。

さらにスケジュール機能もこのような同期機能があれば、情報のブッキングがなくなる。 手帳とパソコンと携帯電話のスケジュールがバラバラではとても使い物にならない。

拡大するホームネットワーキング

このような、デジタル機器が相互通信する家庭内ホームネットワーキングの 動きは進んでいる。例えばYankee Groupは,「米国では2003年までに1000万世帯が家庭内ネットワークを構築して住居をディジタル化し,ネットワーク・ホームの時代を迎える」との調査結果を報告した。同社では,広帯域の高速インターネット・アクセスサービスが,「ネットワーク化したディジタル・ホームは,今や構想の段階から実現段階へと移行しつつある」と述べている。 (2)

  ホームネットワーキンク゛に取りくんでいるのは、ここだけではない Intelは自社のホームページの中で「ホームネットワーキングの時代がやってくる」と 題して、ホームネットワーキングのページをもうけている。(3)

このページでIntelはキッチンや、居間、子供部屋などがそれぞれに適した デバイスで結ばれ、インターネットをますます身近にしてくれる、と述べている また、このページの最後に「インテルと業界のトップ企業は、E ホームを実現するために協力しています。もうすぐやってくる E ホームの将来についての情報をお見逃しなく。」と書かれており、このような提案がIntelだけでは無いことを示している。

事実、ソフトウェアの巨人Microsoftもホームネットワーキングに興味を示している。 まず、Windows98の後継機(コードネームMillennium)では、家庭ネットワークのサポートを重点に置くとして、UPnPをサポートしているし、Windows2000の後継機(コードネームNeptune)でもUPnPをサポートしている。 (4)

UPnPとはUniversal Plag and Playの事で、あらゆるデバイスをネットワークに接続し,それらが協調して動作できるようにするための基盤技術の事。 この技術は、コンピューターを使わないでもデジタルカメラやプリンタ等の機器を自動的に接続することができるインターネット通信プロトコルを使用している。

さらに、Microsoftは9月下旬に3comと共同で、,“シンプルネットワーキング”を追求した共同ブランドによるホームネットワーキング製品の第一弾を出荷開始し、 (5) 近いうち規模事業や家庭で最高25台のパソコンを接続可能にするWindowsサーバー機器を近いうちに発表する予定だ。

もちろん、このようなホームネットワーキング産業に注目しているのは、ソフト産業だけではない。

アメリカにある、ガスと電気を供給する会社が、このホームネットワークの技術を使ったサービスを、600万世帯の顧客に対して提供しようとしているのだ。  テキサス州ではまもなく、エネルギー供給に関する規制が撤廃されることになっており、競争が激化する予定だ。これを受けて、ヒューストンにある米リライアント・エナジー・コミュニケーションズ・ネットワークスは、パートナー企業を探して、ガスと電気の供給サービスだけでなく、ケーブルテレビ、インターネット・アクセス、電話サービス、そしてホームネットワークまでも提供しようとしている。 (6)

日本でも広がるホームネットワーキング



アメリカがパソコン関連中心の動きに対して、 日本では、家電メーカーを中心にホームネットワーキングの規格作りの 動きは広まっている。特にその中で動きが活発になっているのが「HAVi」 という規格である。

HAVi(Home Audio/Video interoperability)はオーディオ機器やビデオ機器を相互に接続し、デジタルデータの転送や機器の制御などを行なえるようにするための規格で、ネットワークメディアにはi.LINK(IEEE-1394)を使用。その上で、実際にデバイスどうしがコミュニケーションを行なうためのプロトコルやAPIなどを規定している。 (7)

11月に松下電器産業、ソニー、ロイヤルフィリップスエレクトロニクスなど日欧の家電メーカー8社は、「HAVi推進協会」を設立したと発表した。 同協会では、来年1月にはライセンスプログラムを発表。準拠製品の開発・普及を図っていき、家電メーカーのほか、コンピュータ関連企業や研究機関などにも広く参加を呼びかける方針だ。 (8)

「HAVi」イメージとしては、DVカメラやDVデッキがサポートしているDV端子(メディアはi.LINKそのもの)を、AV機器全般に対応させたもので、i.LINKならではのプラグ&プレイ(ホットプラグを含む)をサポートする。DV端子の場合にはデータ転送と、再生や停止、早送りなどの基本的なデバイス制御を行なう、いわばリモコン兼データケーブルといった存在だ。

特に日本のメーカーの中で動きが活発なのはソニーだ。 ソニーは99年11月10日ソニーと米サン・マイクロシステムズは、一般向けのデジタル家電機器をインターネットに接続するために提携を行うと発表した。 (9)

 両社は協力して、セットトップボックスやデジタルテレビなどで使われている 『ホーム・ゲートウェイ』技術に取り組んでいるという。これは、インターネットのコンテンツやサービスを、家庭内の各種の家電機器やセットトップボックスに配信するための技術だ。両社によれば、これらの家電機器は、インターネット・ベースのコンテンツ・サーバーと通信できる以外に、ホームネットワーク能力もあるという。

また、sunとソニーは、99年1月には「jini」と「HAVi」の相互接続できる 「HAVi-Jiniブリッジ」技術をオランダPhilips社,ソニー,Sunが共同で開発していくとの発表を行っている。

「jini」は,Java技術に基づき構築した分散オブジェクト技術。米Sun Microsystems社が開発,ライセンス供与する。Jiniのポイントは,ハードウエアもソフトウエアも区別せず,共にオブジェクトとして扱う点と,互いの情報を持たない「初対面」のオブジェクトどうしが通信できる枠組みを提供することである。 具体的な利用方法としては、「講演のベンチに座ったまま、モバイル機器からスーパーコンピューターにアクセスして高度な演算を実行したり、ボイスメールに入ったメッセージを聞いたり、自宅セキュリティカメラをモニタしたり、保育所に預けてある娘の 様子をチェックする」といった事が可能となる。



ホームネットワーキングの今後



様々な電化製品の相互通信を可能にする、ホームネットワーキング。 その中でも特に重要になってくるのが、それらをコントロールする機器、 ホームゲートウェイとなるだろう。

前述したとおり、ホームネットワーキングに関連している会社は アメリカがパソコン関連会社中心なのに対し、日本は主に家電メーカー んが中心だ。

ホームサーバーという巨大な市場に対して、アメリカ側は現在好調な 「IT分野」を拡張する事で、パソコンとインターネットを拡張していく事で発展を目指しているのに対し 日本側は「パソコン」「インターネット」分野で大きくアメリカに引き離された 距離をTV、ビデオを拡張したホームサーバーで縮めようというのがねらいだろう。 ちょうど、「デシタル放送」という追い風もある。 さらに、「家電」「パソコン」といったアプローチの他にもプレイステーション2のような ゲーム機や、ホームネットワーキング専用の「セットトップボックス」といったアプローチもある。 さて、ホームネットワーキングに対する様々なアプローチがあるが、どのようにホームネットワーキングは発展していくのであろうか

まず、ソフト業界の巨人Microsoftは次期Windowsで家庭用ネットワークのサポートを 強化すると発表した。これは、現在のパソコンがそのままホームゲートウェイとなれば、使われるOSがWindowsとなる、そうなればMicrosoftは市場の主役がパソコンから ホームネットワーキング用のデジタル家電となっても強い影響力を残す事ができるからである。

一方、日本の家電メーカーはデジタル放送化に対しデジタルテレビやテレビ番組の録画、データ放送の受信などを集中的に行なう。ホームサーバーを用意している。

ホームサーバで提供される、デレビ番組の録画は従来のビデオ録画よりも、さらに使いやすく便利になっている。例えば、普通のテレビ放送でも一時停止や、巻き戻しが可能になったり、自動的に自分の好みの番組を録画できる。 将来には、このようなホームサーバはデシタル家電製品をコントロールする機能やインターネットに接続できる機能も当然考えられるだろう。 (10) (11)

最後に、専用のセットトップボックスやゲーム機が ホームゲートウェイ機能を持つ事が考えられる。

その中でも本命と考えられているのが、 ソニーが平成12年3月4日に発売する。プレイステーション2だ。 DVDを39800円と非常に安価で見れる事からゲーム以外の用途でも購入 する人も多いだろう。 さらに、ソニーはこのプレイステーション2をプラットフォームとしたコンテンツのビット配信ビジネスを2001年開始する。 (12)

SCEIのリリースによれば,「プレイステーション2」では,パッケージメディアによるコンテンツ流通を強化する同時に,ネットワークを利用したユーザーへのビットコンテンツの直接配信を新たにメディアとして加えるという。 プレイステーション2は初回出荷数が100万台に設定され、今後も売り上げが 見込まれる。2001年までにはかなりの数が普及しているのではないだろうか? 現在のゲーム機にはデジタル家電をコントロールする機能は無いが、 新しいゲーム機が今以上に普及すけば、新たなホームゲートウェイ機能が付くことも考えられる。そうなった場合パソコンやデジタル放送対応のテレビよりも速く普及 する可能性がある。

家電製品は5年から10年と寿命が長く、すぐに洗濯機や冷蔵庫のような ような家電製品がホームネットワークにつながるデシタル家電にはならないだろう。 しかし、第一段階としてビデオカメラやデジタル放送対応のテレビ、そしてパソコンや携帯電話PDAなど、AV製品や情報端末は急激にネットワークに対応すると考えられる。それは、各機器が相互的につながるだけでなくwebでも様々なサービスが提供されると考えられる。各メーカーはハードだけでなく買ってからのアフターサービスや WEBでの追加機能の提供も考えられる。

また次の段階では、寿命が長い冷蔵庫や洗濯機までがネットワークに接続されるだろう。従来の情報提供と直結した情報サービス(例えば、シャープのインターネットレンジの発展版)が不可欠となるだろう。




(1)COMDEX/Fall '99 基調講演レポート Sun Microsystemsのスコット・マクニーリ会長「ソフトウェア企業は消え去る運命に」

(2)2003年までに1000万の米国世帯が家庭内ネットワーク構築,Yankee Group

(3)ホームネットワークの時代が来る

(4)次世代Windows「Neptune」はホームハブになる

(5)3ComとMSの「ホームイーサネット」が始動

(6)ホームネットワーク市場が本格化

(7)鈴木直美の「PC Watch先週のキーワード」 ■ 第99回:11月15日〜11月19日

(8)日欧の家電メーカー8社、HAVi推進協会を設立

(9)ソニーとサンが提携してネット家電を製造へ

(10)団藤保晴の「インターネットで読み解く!」第61回「パソコンとテレビの明日は」 (98/12/03)

(11)【MBSメディアショーレポート Vol.1】デジタル放送がもたらすもの−−放送を軸にした新しい生活スタイル

(12)正式名称プレイステーション2

参考文献、西 正、野村敦子  「デジタル家電」(中央経済社 1999年)


1999/12/05

作成 横田真俊

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