1 GPSによる新しいサービス 今年9月、「NTTドコモ」は「GPS(グローバル・ポジショニング・システム) を使った位置情報サービス 「DLP(ドコモ・ロケーション・プラットフォーム)」を 12月に開始する事を発表した。(1) 営業担当者などに端末を持たせて、センター側で各端末の位置を 把握できるようにしたり、 営業担当者が自分の位置を高い精度で測定することもできるという。 また 2000年4月にはインタ-ネットを利用した、サービスを行うという。 現状では、携帯電話のプロバイダーは、基地局の位置と 、電話をかけている人に一番近いアンテナの位置を三角法で測定して、 位置情報を得ている。この方法では、数百平方メートルから、 地方になると約15平方キロメートルまでの精度にしかならないが GPSを使えばミリ単位以下の誤差まで位置が特定できるという。、 今のところGPSを使った位置情報サービスといえば、カーナビに使われる ぐらいで、私たちの生活の中であまり馴染みのあるものとは言えない。 しかし、今、このGPSとネットを結びつけてさまざまなサービスが 動きだそうとしている。 まず、一番最初に思い浮かべる事が出来るのは、GPSを使って、自分の 位置情報を調べる事ができるサービスがある。 もちろん、このサービスはインターネットと結びつけば ただの位置情報以上のサービスを受ける事が可能である。 たとえば、アメリカでは携帯電話で自分のいる町の情報 を引き出す事ができるサービスが実験段階にはいっている。(2) このサービスでは、自分がいる地域のレストランや 事務用品販売店などの情報を提供したり、 また、携帯電話でモーテルを予約し、代金は電話代と一緒に請求するという 具合に、 顧客が携帯電話を通じて取引を行なうことも可能にしたいと計画している。 さらに、携帯電話を使って商品の割引クーポン券や広告を送る事も 計画されている。 この計画では、 携帯電話やその他のワイヤレス機器に直接、広告を発信する見返りとして、 消費者は、低価格あるいは無料で地図、カレンダー、パーソナル・ メッセージ・システム、さらにホロスコープやチャットのような 娯楽機能にアクセスできることになり。 レストランなどの店の評価や値段など比較検討できる。 ただ、常に広告を受け入れられる状態になると、ユーザーにとって 不要の情報やスパムメールを受け取ってしまう事があるため、 あらがしめ、ユーザー側で登録した情報のみ受け付けたり 店側はユーザーがショッピング区域に入ってきた時のみ、 広告を発信することができるようなるかもしれない。 また、GPSがついた携帯電話は人と人とのコミュニケーションにも 役立つかもしれない。 GPS付きの携帯電話をお互いに持っていれば、町の中を歩いていたり 電車に乗っていたりした時、自分の近く友人がいるか、またそれが誰かを 知る事ができる。もし、相手が近くにいたら、電話をしたり、メールを 送り、相手に会う事もできる。 電話をする時、相手が電話に出られる状態であるか調べる事もできる。 「まず電話をかけてみる」という従来のやり方だと、話し中で通じなかったり、 大事な用件の最中で相手に嫌な思いをさせたり、というケースがあるが、 このような、サービスによりそういった煩わしさからも解放される。 2 GPSとプライバシーに関わる問題。 ただ、このようなGPS付きの携帯電話に何も問題がないわけではない。 コストやバッテリィの問題や GPSは室内では完全に動作しないという点もあるが、 やはり、最大の問題点はプライバシーの問題だ。 『電子プライバシー情報センター』の総合顧問、デビッド・ソベル氏は、 位置情報技術全般に関するプライバシーの問題を、次のように概説する(4) 「われわれは、携帯電話網に位置追跡情報が配備され、 要求されることを非常に憂慮している」 「問題は、いったんこの能力が開発され、 位置追跡用のアーキテクチャーが配備されると、 その能力の使用を緊急事態だけに制限するのは非常に 困難になるだろうということだ」 ソベル氏によると、この機能が実現すれば、 携帯電話会社に対して、ユーザーの位置を定期的に追跡して 携帯電話を使うたびにそれを記録するように、 商業界と政府の両方から圧力がかかるだろうという。 一方、 GPSシステムの擁護者は、 GPS装置のスイッチを切っておけば監視を回避できる、と主張している。 この位置把握技術を携帯電話に組み込めば, ユーザーは好きな時にその機能をオンまたはオフできるという(5) アメリカでは米連邦通信委員会が携帯電話の位置追跡を承認(6)したが 日本では、このような位置情報によるプライバシーの問題は どうなっているのであろうか? 郵政省は、「電気通信サービスにおけるプライバシーを めぐる諸問題」(7)の中で、 「位置情報サービスは、位置情報サービス提供者が、端末(主にPHS端末) の所持者の所在地情報又は所在地に関連するその他の情報を依頼者に開示する サービスであり、例えば、保護者が徘徊老人の所在地を容易に知ることができ るサービス、配達員や旅行者が所在地周辺の地図情報を入手できるサービス 等、移動体通信、特にPHS(8)の特徴を有効に活用した有望なサービスとして、 その普及・進展が見込まれている。 しかしながら、一方で、位置情報サービスは、端末所持者の所在地というプ ライバシーの中でも特に保護の必要性の高い情報を取り扱うサービスであるこ とから、プライバシー保護のための適切な措置を講じておく必要がある。」 と書かれており。 位置情報サービスに係る利用者保護のための措置として、 1) 端末所持者の範囲を限定して運用することを約款に規定すること 2) 加入者の義務として端末所持者の同意を求めるよう約款に規定すること 3) 前二項に反したために問題が発生したとき、事業者が当該サービスの提供を停止する旨を約款に規定すること 4) 端末に、任意に位置情報の送出の可否を選択できる機能を有しない場合には、当該サービスを提供しない旨を約款に規定すること の4つを郵政省は、事業者に講じるよう指導している。 また、「郵政省個人情報保護ガイドラインの改訂」の中で 「位置情報」以下のように扱っている。 第11条 電気通信事業者は、情報主体の同意がある場合、裁判官の発付した令状に従う場合、 前条第2項(9)に規定する逆探知の一環として提供する場合その他の 違法性阻却事由がある場合を除いては、位置情報(移動体端末を所持する者の 位置を示す情報をいう。以下同じ。)を他人に提供しないものとする。 2 電気通信事業者が、位置情報を加入者又はその指示する者に通知するサービ スを提供し、又は第三者に提供させる場合には、当該移動体端末の所持者の権 利が不当に侵害されることを防止するため必要な措置を講ずるものとする。 上記の文章を見る限りでは、アメリカのようにGPS機能が付いた 携帯電話を使い、発信者の位置情報を特定するような動きは今の ところないようである。 また、位置情報をどのように扱うかについては 「電気通信事業者が保有する位置情報は、個々の通話に関係する場合は、 どこから発信したかということも通信の構成要素であるから電気通信事業法第 4条第1項の「通信の秘密」として保護されると解される。 これに対し、通話時以外に移動体端末の所持者がエリアを移動するごとに基地局 に送られる位置登録情報は通話を成立させる前提として電気通信事業者に機械的 に送られる情報に過ぎないことから、サービス制御局に蓄積されたこれらの情報 は「通信の秘密」ではなく、プライバシーとして保護されるべき事項と考えられる。 位置情報を「通信の秘密」に該当しないと解する場合であっても、 ある人がどこに所在するかということはプライバシーの中でも特に保護の必要性が 高いと上に、通信とも密接に関係する事項であるから、「通信の秘密」に準じて 強く保護することが適当である。したがって、外部提供できる場合も「通信の秘密」の場合に準ずることとした。」 とある。位置情報は重要な個人情報と認識されていると言っていいだろう。 GPSによる、位置情報システムを使ったサービスはまだ始まったばかり で、まだどのようなサービスが現れるか予想するのは難しいが、位置情報 の取り扱い方は非常に難しい。位置情報をめぐるプライバシーについては いずれ、考えなければならない事が山のように現れるだろう。 |
1 NTTドコモが位置情報サービスを12月開始--ネット上の情報とも連動へ
8 ここではGPSによる位置情報ではなく、PHS等の端末を利用 した。位置情報サービスの事を言っている。
(9)第10条 電気通信事業者は、発信者情報通知サービス(発信電話番号等発信者
に関する個人情報を受信者に通知する電話サービスをいう。以下同じ。)を提
供する場合には、通信ごと又は回線ごとに、発信電話番号等発信者に関する個
人情報の通知を阻止する機能を設けるものとする。
2 電気通信事業者は、発信者情報通知サービスその他のサービスの提供に必要
な場合を除いては、発信者個人情報を他人に提供しないものとする。ただし、
情報主体の同意がある場合、電話を利用して脅迫の罪を現に犯している者があ
る場合において被害者及び捜査機関からの要請により逆探知を行う場合、人の
生命、身体等に差し迫った危険がある旨の緊急通報がある場合において当該通
報先からの要請により逆探知を行う場合その他の違法性阻却事由がある場合は
この限りでない