iTunes Music Store、音楽サービスの新しい意味(2)

 

(2)ipodなどのシリコンオーディオプレーヤが与える影響

 前回は、iTunes Music Storeのビジネスモデルが(現状では)ヒットしている理由を解説したものだ。ここからは、ipodのようなシリコンオーディオプレーヤが与える影響を考えてみようと思う。

 従来はシリコンオーディオプレーヤを持っていても、オンラインミュージックストアで購入した音楽ファイルはシリコンオーディオプレーヤへの転送に制限が多いことや、CDから音楽データをリッピングするにしても、パソコンに音楽データを取り込めない音楽CDが増えてきたこともあり、シリコンオーディオプレーヤで聞ける音楽データも少なくなっていた。

 これに対して、音楽CDやMDは当たり前だが、記録した媒体(CDやMD)さえあれば家庭内のステレオやコンポでも再生できるし外出時でもウォークマンなどのポータブルオーディオプレーヤでも聞ける。また、パソコンに音楽データを取り込めないCDでも(当然のことだが)ポータブルCDプレーヤでは音楽が聞くことができる。一方、ipodのようなシリコンオーディオプレーヤは制限があるCDでは音楽を取り込めず、聞くことができないものもでてきている。

 しかし、iTunes Music Storeでは購入した音楽データをそのままシリコンオーデティオプレーヤ(ipod)無制限に転送することができる。つまり購入した音楽データを(ファイル変換や特別なプレミア料金などの)特別な操作を必要とせずに購入した音楽をシリコンオーディオプレーヤに転送して利用できる。

 このことは、ipodなどのシリコンオーディオプレーヤの普及にとって、非常に大きな要因となるだろう。なぜならば、ある音楽が「制限がかかった音楽CD」だけしか販売していなればシリコンオーディオプレーヤで聞くことはできないが、iTunes Music Storeのようなダウンロードサイトなどで販売が始まればシリコンオーディオプレーヤで聞くことができる。

 iTunes Music Storeのようなオンラインミュージックサイトが普及すれば、シリコンオーディオプレーヤで聞けない音楽データは少なくなるだろう。そうなれば、シリコンオーディオプレーヤが一気に普及する可能性も出てくる。

 シリコンオーデイオプレーヤが普及することによって、CD/MDプレーヤの販売やその記録媒体の販売にも影響がでてくるだろう。

 従来のCD/MDプレーヤはCDやMDに楽曲を保存するために、これらの記録媒体を購入しなければならなかった。媒体の容量の大きさにもよるが、一つのCDやMDに保存できる音楽データは10〜20曲程度だろう。そのため、音楽データを保存するには何十枚ものCDやMDが必要になってくる。

 しかし、ipodなどのハードディスクを内蔵したシリコンオーディオプレーヤは1台で何百曲も保存できる。 つまり、音楽データの保存のために購入していたCDやMDを何十枚も購入しなくともipodなどのハードディスクタイプのシリコンオーディオプレーヤが一台あれば新しい記憶媒体を買なくとも音楽データを何百曲も楽しめるようになるのだ。

 シリコンオーディオプレーヤが本格的に普及すれば、MDやCD-R/RWのような記録媒体の販売は当然少なる。CDやMDなど記憶の媒体を販売している業者にとって大きな打撃になるだろう。

(3)特定のファイルフォーマットによる差別化が始まる

 また、このようなシリコンオーディオプレーヤの普及は、今後増えていくだろう音楽のダウンロードサイト間の「競争」にも大きな影響を与えるだろう。

 現在では、AppleのiTunes Music Storeの成功をうけて、数多くの企業が音楽のダウンロードサービスの参入を検討している。例えば、Roxioは買収したNapsterを利用して今年のクリスマスに音楽配信サービスを立ち上げることを発表しているし(1)、BuyMusic.comはAppleの1曲99セントよりも安い、1曲79セントという戦略的な価格を打ち出してきている。(2)この他にも、RealNetworksに買収されたRhapsodyなどのコンテンツ販売業者などが音楽配信サービスの提供を開始しているほか、Microsoftも西ヨーロッパで音楽配信サービスの準備を進めていたり(3)、Amazonが音楽のダウンロード販売を開始するといった報道も聞こえてくる。

 問題はこれらの仮にこれらの販売する楽曲ほとんど変わらない場合は、楽曲販売サイトのブランド力やダウンロード料金によって差別化をするしかない。価格の場合は前章で説明した通り、今後音楽販売が増加するならば、差別化のため定額制を採用する販売サイトも出てくることが予想され、一曲あたりの音楽ファイルの価値は下がっていくだろう。

 ところが、販売する音楽ファイルがパソコン以外のテバイス、例えばシリコンオーディオフレーヤや音楽データが再生できるデジタル家電のようなもので再生できるようになれば話が違ってくる。

 当然のことながら、ダウンロードサイトから購入した音楽データはパソコンだけで聞くものではない。シリコンオーディオプレーヤや携帯電話、PDAなどの情報機器はもちろんのこと、今後はネット家電や携帯ゲーム機などでも音楽データを再生できるようになってくる。つまり、パソコンで購入した楽曲であったとしてもパソコンだけではなく他のデバイスでもその音楽データをサポートする必要がある。(4)

 そうなれば、自分の持っているシリコンオーディオプレーヤやネット家電で再生できる音楽データをダウンロードできるタウンロードサイトで音楽ファイルを購入するようになるだろう。そうなれば、どのようなテバイスが普及しているか考え、そのデバイスをサポートしている音楽ファイルを提供する必要が出てくるだろう。

 このようなことを考えると、非常に人気の高いシリコンオーディオプレーヤ「ipod」を持っているAppleは非常に有利なポジションにいることになる。ipodを持っているユーザが多ければ、当然ipodをサポートしている音楽配信サービス「iTunes Music Store」を選択する可能性が高くなるからだ。

 この点では、Microsoftも有利な立場にいると考えられる。Microsoftはビデオ画像を見られるシリコンオーディオプレーヤ「Media2Go」の投入しようとしている。(5)Media2Goは小型液晶ディスプレイとハードディスクを搭載。Windows CE.NETベースでWindows MediaやMP3、MPEG4などのメディア再生をサポートするという。  

 現状ではこのデバイスの詳細な情報は入ってきていないが、Microsoftは前述した通り、iTunes Music Storeのような音楽データダウンロード販売を計画しており、これらのサービスと「Media2Go」と連携させることが予想される。

 シリコンオーディオプレーヤや音楽データを再生できるネット家電はまだ少なく、パソコンで購入した音楽データはパソコン以外で再生する機会も少ないため、他のデバイスとの連携をあまり重視していない。

 しかし、ダウンロード料金の値下げ競争が一通り終わるころには、シリコンオーディオなどパソコン以外のデバイスも普及が進んでおり、どの音楽サービスがどのデバイスをサポートしているかが重要になってくるだろう。


(1) 米Roxioによる「Napster 2.0」はクリスマス前にデビュー予定
(impress)

(2)Windows向けの世界最大の音楽ダウンロードサービス「BuyMusic.com」
(impress)

(3)Microsoft、欧州でWMP 9を利用した音楽ダウンロードサービス
(impress)

(4)例えば、ヤマハが発表したホームミュージック・ネットワークシステム「MusicCAST」などの家庭用のデジタル家電も増えてくるだろう。

(5)「Media2Go」の仲間を増やすMS、携帯ビデオに需要あり?
(ZDNN)


作成・横田真俊

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