iTunes Music Store、音楽サービスの新しい意味(1)Appleの音楽配信サービス「iTunes Music Store」が好調だ。サービスが開始されてから1週間で100万曲のダウンロードが行われている(1)、そして17日で200万曲のダウンロードを達成した。(2) この数字は「シェアがわずか3%程度のMacというプラットフォーム」上で、しかもKaZaAやMorpheusなどの無料のファイルシェアリングサービスが存在していることを考えると驚異的な数字と考えて良いだろう。 このAppleの音楽配信サービスについては、正式にApple(というよりSteve Jobs氏)が発表する前から多くのニュースサイトに掲載されており、発表前から大手ニュースサイトや個人サイト、Blogで様々な意見が出てきている。今回のレポートは、これらの意見をふまえてAppleの音楽配信サービス「iTunes Music Store」次の3点、既存の音楽業界への影響、ipodが与える影響、最後にAppleが音楽ファイルにAACを採用したことにより、どのような影響をどのような場所に与えていくかを考えていきたい。 1 音楽業界に与える影響iTunes Music Storeの登場は現行の音楽業界に与える影響については、既に様々なニュースサイトやBlogで解説されている、それらをまとめてみると、iTunes Music Storeが(現段階で)成功しているのは、以下のようなポイントがあるという。 まずは、ダウンロードできる音楽ファイルの制限が非常に少ないこと。次に、合法であること、最後に既存のCDなどに比べて非常に安いということだ。 まず、音楽ファイルの制限の少なさだ。pressplayやMusicNetなどで利用できる音楽ファイルは、CDの焼き付けやシリコンオーディオプレーヤへの転送はもちろん、音楽の再生についてもかなりの制限があった。(3) しかし、iTunes Music Storeで購入した音楽ファイルについてはかなり制限が緩くなっている。ipodの転送やCDへの焼き付けに多少の制限はあるが。他のサービスと比較すると特別なプレミア料金を必要とせずに、CDの焼き付けやipodへの転送ができる。 このことは、使い勝手の悪さから有料の音楽ファイルを敬遠していたユーザを、使わせる気にさせるだろう。 次にAppleのiTunes Music Storeは合法であるということだ。提供されるサービスが合法なのは当然のことと感じるかもしれないが、現在のインターネットでは、ファイルシェアリングツールを利用すれば、無料で音楽ファイルがダウンロードできる。しかもファイルシェアリングを利用した しかし、無料のファイルシェアリングサービスを利用して、音楽データをダウンロードすることは基本的に「違法」となってしまう(5)。日本ではファイルシェアリングソフトを利用してファイルを配っていた個人ユーザが何人も逮捕されているし、米国でもファイルシェアリングソフトを提供していた業者だけでなく個人ユーザも訴訟も対象となっている。(6) 現在では、質の良いオンラインコンテンツを安価で入手する土壌は(特に日本では)整っていないが、仮に日本でもiTunes Music Storeのような合法で音楽を入手できるようになれば、訴訟・逮捕という危険を犯してまでファイルシェアリングツールで音楽ファイルをダウンロードするユーザは少なくなるだろう。 また、ファイルシェアリングで入手するファイルには音楽データの「質」が一定ではなかったり、ダウンロードに時間がかかる場合もある。Steve Jobs氏はiTunes Music Storeの発表時に、KaZaAのようなファイルシェアリングツールのことに触れ「1時間かけて、せいぜい4曲ぐらいしか手に入れられないのが現状だ。iTunes Music Storeでは4曲が4ドル以下。4ドル分の楽曲を手に入れるために1時間を費やしていたら、最低賃金以下で働いているようなものだ」と語っている。(7)「それでも無料で音楽ファイルをダウンロードしたい」というユーザもいるかもしれないが、低料金かつ合法で音楽ファイルを購入できるようになれば、ユーザはファイルシェアリングサービスではなく、iTunes Music Storeのようなサービスを選択するユーザも増加していくだろう。 また、iTunes Music Storeは、無料のファイルシェアリングツールだけでなく、以前から音楽ファイルのダウンロードを販売していた業者にも影響を与えるだろう。 iTunes Music Storeが登場する前は、ユーザから毎月一定料金を徴収する定額制度(サブスクリプション制)が主流になると考えられていた。現にMusicNetやpressplayは定額制を導入しており、楽曲を聴くだけであるならば1曲ずつに課金されなかった。 なぜ、音楽ファイルを1曲々ダウンロードする形式ではなく、定額制度の採用が進んだ理由としてはサービス運営者が毎月安定した収入が得られることや、曲ごとに課金するよりも、定額制度の方がユーザに色々な曲を聞いてもらえるとユーザの利便性を考えた上で定額制を採用したと考えられる。 しかし、これらの理由よりも音楽ファイルの販売によって、従来から販売している音楽CDの販売との影響を考えたものだと思われる。従来のオンライン楽曲販売は定額制により様々な曲をパソコン上で聞けても、CDへの書き込みやシリコンオーディオプレーヤに転送するのにはいくつかの制限があった。 これは、従来のサービスはパソコン上から有料で「試聴」サービスを行っているのと考えれば理解できる。今までのCD販売とバッティングせずにオンライン上で配信サービスを行うのであれば、オンラインからの楽曲の保持はできるだけ認めず、オンラインから「試聴」した楽曲を従来のCDで購入してもらえば良いからだ。 しかし、Appleやロキシオのような音楽配信ビジネスに参入する(しようとし ている)企業は音楽CDを販売していた企業ではない。音楽CDの販売量のことをあまり意識せずに事業を行える。こういう背景もあり、AppleはiTunes Music Storeで購入した音楽ファイルには事実上の音楽ファイルの保持を認め、1曲ごとの課金に踏み切ったのではないかと思われる。 現在のiTunes Music Storeのダウンロード数を見ると「定額制の試聴サービス」よりも「1曲ずつの課金であるが制限が少ない」方がユーザに受けいれられるようだ、見事AppleとSteve Jobs氏の読みは当たったことになる。 だがAppleの成功を見て、他のコンテンツ配信事業者が多数参入すれば、音楽ファイルの価格競争が起きる可能性が高い。そうなれば、Appleが行っているような1曲ごとの課金のほかにも(購入した楽曲の制限が少ない)定額制を料金メニューを料金プランに加え、それが成功する可能性もあるだろう。 AppleのiTunes Music Storeの成功によって、他の企業も本格的にコンテンツ配信事業にのりだすだろう。その時に中心となるサービスは、従来のような音楽CDに縛られたサービスではなく、オンラインから本当に楽曲を手に入れられるサービスになるはずだ。
(1)米Apple、iTunes
Music Storeでの販売曲数が100万件を突破 (3)pressplayなどの音楽サービスに関する制約はサービス開始時と比較すると、かなり緩くなってきてはいるが、CDの焼き付けやオーディオプレーヤへの転送には特別なプレミア料金が発生する
(5)米Apple音楽製品発表会(2) --- 1曲わずか99セント、iPodへの転送は無制限 参考リンク Apple、Windows版の「iTunes」開発へ http://www.zdnet.co.jp/news/0305/01/nebt_14.html iTunes Music Store:売れてます http://slashdot.jp/mac/03/05/02/0635236.shtml?topic=52 「モノ」が消えればすべてが変わる――米Appleが始めた音楽配信ビジネスの衝撃 http://itpro.nikkeibp.co.jp/members/ITPro/USIT/20030505/1/ iTunes Music Storeに関して http://netry.no-ip.com/yuichi/archives/001174.html さっそく試してみた,Appleの音楽配信サービス http://itpro.nikkeibp.co.jp/members/ITPro/USURA/20030508/1/ ポストPC企業に変身するアップルコンピュータ http://blog.cnetnetworks.jp/umeda/archives/000322.html 速攻レビュー:iTunes4はデジタル音楽の革命児となるか?(1) http://pcweb.mycom.co.jp/news/2003/05/01/06.html “Appleらしい”新サービスに業界の反応は? http://www.zdnet.co.jp/news/0304/30/ne00_apple2.html 作成・横田真俊 |