携帯電話がウォークマンになるための条件。

はじめに



去年の後半以降、携帯電話を用いた情報配信に大きな関心が 集まっている。 携帯電話でインターネットに接続できるサービスは携帯電話大手3グループで 開始されており。もはや、パソコンだけがインターネットに接続できる手段だった のは過去の事となりつつある。

また、来年以降は64k〜2Mまでの従来のより大量に情報を扱えるようになる IMT−2000のサービスも始まり、携帯電話によるネット接続で 音声や動画などのリッチコンテンツを扱えるようになると予想されている。

さらに、携帯電話でメールやHPを閲覧できるとなると、今以上に 情報を容易に入手する事もできる。 携帯電話からでも今のパソコン以上のコンテンツ を配給する事も可能になってくる。

しかし、携帯電話がいきなり音楽を配信機能やTV電話、万能メモ帳 になるわけではない。 携帯電話が真の「情報端末」になるためには様々な問題点が残っている

まずは動画や音楽などのリッチメディアの配信、再生などの問題だ 後で詳しく述べるが、最近大きな注目を集めている「携帯電話による音楽配信」 は価格や標準化などの問題があり少なくとも今年の後半以降にならなければ盛り上がらないと考えられる。

また、テキストや簡単な静止画像情報系といった「軽い」 コンテンツにも問題が生じてくる。 以前から言われていたとおり、携帯電話は小さくすると持ちやすくなるが その分液晶画面で表示される情報が少なくなる、 しかし液晶画面を大きくすると画面で表示する情報が小さくなるといった問題 が生じてくる。 携帯電話で見る情報なのだから、少なくても良いし、 文字を入力するわけではないのだから画面が小さくとも構わない。 という意見が出てくると思うが、重たいノートパソコンを持ち歩かなくとも 情報を作成・編集するのは魅力的だし、携帯電話向けのゲームなど のコンテンツも一般的になってくるだろう。 そうなれば携帯電話のジレンマはます々問題となってくる。

今回の小レポートは携帯電話の「リッチコンテンツ」 の問題点を取り上げながら、2000年以降のモバイルシーンを 個人的に予想してみようと思う。

リッチコンテンツの問題点

携帯電話で音楽配信をしたり、携帯電話を音楽再生プレーヤーとして 利用する構想は最近になって活発化してきた おそらく来年以降は音楽再生機能や音楽配信機能 がついた携帯電話や情報端末が次々と売り出される事だろう。

携帯電話から音楽などのリッチコンテンツがいつでも受信できれば、 いつでも音楽が購入できるし、膨大な音楽CDの中から容易に検索ができ 便利になる。いつでも、どんな曲でも試聴して即購入が可能にもなる。

しかし、このような事が現実になるためには、クリアしなければならない 課題が少なくとも4つはある。
その4つとは

1 フラシュメモリーの価格と標準化
2 バッテリーの持続時間
3 音楽フォーマットの標準化 
4 情報の価格
である。

まず、音楽を記録するフラッシュメモリーだが、 現時点で、フラッシュメモリーを使って音楽配信を行うには問題が多すぎる。 まずは価格である。代表的なフラッシュメモリーである、ソニーの「メモリースティック」 は標準価格は2万円、とても気軽に買える値段ではない。 もちろん、価格はだんだんと安くなっていくだろうが、 今年中は気軽に買える価格になるのは難しいと思われる。

さらに問題なのは、フラッシュメモリーが各社独自の規格で フラッシュメモリー間でほとんど互換性がない事だ。 このままでは、せっかくデータを記録しても情報端末や携帯電話によっては 使えなくなる恐れが出てくる。

今までのMDやカセットテープと違い、フラッシュメモリーは 「音楽」だけでなく、ビデオカメラやデジタルカメラにも画像を保存 するのにも使われている。 携帯電話が情報端末化するにつれ、「音楽」だけでなく 簡易的なデジタルカメラのように画像を扱えるようになる機種 も出てくるだろう。 携帯電話で様々なデータを扱えるようになった時フラッシュメモリー同士に互換性が無いことは、かなりのマイナス面だ。

2番目の問題点はバッテリィの持続時間だ。 現在の携帯電話の連続待ち受け時間は200時間程度と かなり長いが、通話に使用すると2時間程度しか通話ができない。 今のような状況で携帯電話を再生機能をつけても長時間の使用には 耐えられないだろう。

昨年の8月に発表されたサムスン・エレクトロニクス社 のMP3が再生できる携帯電話は1回の充電で、音楽再生なら4時間、 通話で160分もつが、音楽再生やメールなどのデータ通信、そして音声通話などを行えばバッテリィの減りも早くなる。

現在の性能では音楽を聞いていたら バッテリィが切れて 電話ができなくなるような状況も出てくる。 携帯電話がいままでのように電話だけの機能ならば現在のバッテリィ の容量でも十分だったかもしれないが、様々なデータを扱うようになれば 今以上に携帯電話を利用するようになる、そうなれば、今以上の性能を持つ バッテリィは必要不可欠になってくる。

現在、ほとんどの携帯電話で使用さているリチウムイオンバッテリィが使われている が、リチウムイオンよりも型化が可能なリチウムポリマーという新しいバッテリィが 登場している。

リチウムポリマー電池は電解質にゲル状のポリマーを使っていることが従来のリチウムイオン電池との相違点で,バッテリー形状の自由度が高く,極薄化できるのが最大のポイントだ。

リチウムポリマー電池には低温に弱い、充放電を繰り返した場合の劣化スピード が早い、価格が2〜3割ほど従来のリチウムイオンよりも高いなどの問題が あるが、これらは量産化と共に解決できるだろう。 2000年にはノートパソコンや携帯情報機器のバッテリーが,リチウムイオンからリチウムポリマーへの世代交代が進むと予想されている。

3番目の問題は音楽フォーマットが統一されていない点だ、 現在音楽フォーマットは様々な種類があり、情報端末によっては再生できない物も登場してくるだろう。そうなれば、同じフラッシュメモリーを使っていても音楽データのフォーマットが異なればその音楽データは使えないということこにもなる。

音楽フォーマットは様々な種類があり、このまま複数の音楽フォーマットが共存するようになるどの音楽がどのアォーマットに対応しているかが非常にわかりにくくなる。フラッシュメモリーでさえ標準化が進んでいない状況で我々はさらに音楽テデータのフォーマットを選ばなければいけない2重の選択をしなければならなくなる。

そんな中で、各社の音楽フォーマット同士の提携も進んでいる。特にソニーは去年から今年にかけて様々な会社と提携を結んでいる。

去年の11月、ソニーは同社の持つ音楽著作権保護技術「OpenMG」に関して米InterTrust Technologies Corporation、米Liquid Audio、米Microsoft、米Preview Systems、米RealNetworks、米Reciprocalなど6社と提携を結んだ、これにより「OpenMG」をインストールしたパソコンやオーディオ機器でネットワークを通じて配信される音楽コンテンツが利用できるようになる。さらに、今年の初めLiquid Audio、RealNetworksなどと音楽配信システムで提携したこれによりソニーの独自音楽圧縮形式「ATRAC3」と著作権保護技術「Open MG」に対応することになる。

今後のこのような音楽フォーマット同士の提携は自然と進むと予想され、どの音楽フォーマットでも聞ける事ができるかもしれないが、少なくとも今年はどの音楽フォーマットが何と互換性があるかどうかを考えなければならなくなるだろう。

最後に携帯電話から音楽をダウンロードする価格だ。

マイボイスコム株式会社が行った調査によると「インターネットでの音楽配信で、一曲の値段はいくらくらいが適当だと思いますか?」という問いに対し、約8割の人間が「CDより安い値段と答え」。「インターネットでの音楽配信を利用する条件は何だと思いますか?」という問いに対し、44パーセントの人間が「曲が安いこと」と答えている。

実際、 ソニーが始めた音楽配信サービスは350円で始またり、 ソフトバンクがインターネット上で音楽配信サービスを提供する新会社「イーズ・ミュージック(eS! Music)」は100円などと通常のCDよりもかなり安い値段で提供されている。

しかし、携帯電話での音楽データをダウンロート゛するとパソコンでデータをダウンロードする以上の価格を払わなければならなくなる。

たとえは、現在iモードで提供されている1パケット(128バイト)0.3円の課金プランでそのまま音楽データのダウンロードすると、8000円もかかる。(3パケットを1円として考えた場合、1kが2.6円となる、1メガは1024kなので2.6×1024=2662.4円。3メガのデータをダウンロードする場合7987.2円となる。)

100円のデータをダウンロードするのに8000円もかかるような、今の料金体系では誰も携帯電話で音楽データをダウンロードしないであろう。

 

まとめと今後の予想

携帯電話の普及率は6割に達成し今後は音声通話だけでなく、様々なコンテンツが携帯電話向けに提供される、携帯電話による音楽配信だけでなく、携帯電話でゲームや電子アルバム、TV電話なども日常的に利用できるできるようになるだろう。しかし、前述した通り携帯電話によるリッチコンテンツ提供には様々な問題がある。そのため音楽配信などのリッチコンテンツを本格的に扱えるようになるのは来年になり、今年は携帯電話を初めとした情報端末はこの問題を解決するための年になるだろう。では前にあげた問題はどのようにして解決されていくのだろうか?

まず、「情報の価格」の問題だが、今はiモードでMP3などの音楽データをダウンロードするような人はいないと思うが。携帯電話にも音楽などのリッチコンテンツを使用できるようになるだろう。その時あまりにも高い通信料金はコンテンツ普及の大きな妨げになる。

去年から今年にかけて従来のパソコンによるインターネットは、ADSLやCATVなど広帯域が大きな盛り上がりを見せており、携帯電話にもIMT−2000ベースのサービスが待っている。諸般の事情により当初は2Mベースのサービスはできないらしいが、それでも従来の携帯電話よりもはるかに大きい容量が扱える。後は料金がどの程度になるかが勝負になる。今年から急に携帯電話のデータ通信の需要が大きくなり、データ料金が急激に下がってもおかしくない。

次に音楽フォーマットの問題だが、これは各社が提携を繰り返しどの音楽フォーマットでも使えるようになってもおかしくない。孤立した音楽フォーマットなど誰にも相手にされない、これからはどのような音楽フォーマットでも使えるようになってくるだろう。

バッテリーの持続時間の問題はリチウムポリマーが今年中にはリチウムイオンとの世代交代が完了する事と、以前のように携帯電話が音声通話だけでなくメールなどの情報を見たり入力するようになったため、携帯電話が大きくなった事でバッテリーを十分に確保できるようになり今までよりもバッテリーを十分に確保できるようになるだろう。去年はただ電話できるだけでなく「音質の良さ」が大きなポイントとなったが、今年は以前のヘッドホンステレオのようにバッテリーの持ち時間もポイントになってくるだろう。

だか問題があるのはフラッシュメモリーの問題だ。値段のほうは時間が解決してくれるだろうが、問題は互換性が無い事だ、せっかく音楽が再生できる情報端末を買っても自分が使っている規格がすたれてしまったら、こちらにとっては大損害だが、これは「衝撃と電磁波に強い交換可能な超小型の低価格ハードディスク」のような夢のようなメディアが登場しないかぎり、この問題は市場にまかせるしかない。

今年から来年にかけて携帯電話など情報端末にとっては様々な問題を解決し、様々なコンテンツが生まれる年になる。その準備を今年中にできるかどうかで今後の情報産業やエンタティメント市場は大きくかわっていくだろうと思われる。

 


00/01/16

作成・横田真俊

作成協力・松島和彦

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