嘘を見破る達人、演説の名人、スリの天才、寸分なき体内時計の持ち主。彼らは、四人組の銀行強盗。完璧な段取りで失敗などありえなかった彼らだったが、その日の「仕事」を終えて逃走中、別口の現金輸送車襲撃犯と遭遇してしまったことから、妙な事態が次々と襲い出す。
いきなりですが、映像化されたものが観たい作品です。
それぞれの役割と特性がくっきり立ってる四人組、その会話の軽妙なやりとり、シンプルな展開のなかになにげなくいくつも隠された伏線。どれもがそのまんまトレースするだけで楽しいエンタティメントになりそうです。
といいつつ初読の段階では会話の面白さはあるものの、話そのものがもうひとつかなと思えてたんですが、再読してみると、こんなところにまでと思うところにまで大なり小なりの伏線がばら撒かれていて、その細かさや巧さに改めて感心しました。そしてキャラクタにも馴染みと親しみが出てきだして、そうなるとささやかな会話の受け答えにも楽しくなってくる。で、映像としてのイメージも湧き出てきて、「映像化されたのが観たいな」っていう感想が固まってきた、というわけです。
四人組の絆の持ちようや、作品全体の雰囲気そのものだとかがすごくあっさりサバサバしてて軽くさらっと読めてしまうせいか、どこか物足りなさも残りました。けれどこれだけ軽いノリをずっと保ったままで、強盗なんて題材を楽しく面白く描けてる話って貴重じゃないかと思います。ぜひ続編で、またこの四人組のふざけたやりとりと真剣な遊戯を楽しみたいです。
大学に進学した僕が一人暮らしを始めるアパートで最初に出会った隣の住人は、ロクな挨拶もしないままに、突然にとんでもない話をもちかけてきた。「一緒に本屋を襲わないか」、と。一冊の広辞苑を盗むためだという彼のその話に乗る気などなかったはずなのに、決行日の夜、僕は気づけばモデルガンを抱えて本屋の裏に立っていた――。
読んでいくのがだんだん辛くなってくる話でした。といっても、それはつまらないからじゃなくて、だんだん、ぼんやりと、けれど確信をもって、わかってきたからです。ただ能天気なような会話の繰り返しと、合間合間に潜む暗い意思と、ふたつの視点から見えてくる「違い」が指し示す結果が、どういう種類のものなのか、ということが。そして改めてその結果を突きつけられ、わきあがってくるのはただ胸苦しさばかりで、ミステリとしてうんぬんよりも、まず哀しい話だなと思わずにいられませんでした。いろんなところのなにげないやりとりが示す登場人物たちの本意がまたやりきれないったらない。彼らが信じた「生まれ変わり」を、本当にそうであればいい、と思いました。
それでもこの話をそんなに湿っぽく重い印象にはさせてないのは一重に軽妙な語り口のおかげなんでしょうが、それすらもこの話の場合ある意味、「騙された」って感じにもさせられました。
コンビニ強盗に失敗して逃走していた僕が眼を覚ますと、そこは見知らぬ島だった。外の世界と交流を断っているというその島ではどこか奇妙な人間ばかりに出会う。そして島には、未来が見える、喋るカカシがいた。しかしそのカカシが殺されるという事件が起こる。未来がわかるはずのカカシが何故それを阻止できなかったのか――。
現実と非現実が同居したような、不思議な読感が残る話でした。
設定こそ「カカシが喋る、そしてそれを皆受け入れている」というリアリティの感じようもないもので、どこかほのぼのとした空気を感じさせます。けれど、登場人物たちは、リアルというか、汚い部分嫌らしい部分を隠し持っていたりあらわにしていたりする人々も多くて、かなり毒を含んだ描写が目立ちます。そのギャップが、おとぎ話のようだけれどまったく違う、現実に近いようだけれどやっぱり少し違う、そんなどっちつかずの独特な世界を創り出し、物語に奇妙な面白さを生んでいるように思いました。
カカシを主軸に、純粋な「らしい」島の人物たちの醸しだすやさしげな空気、純粋な思いと、一部の島の人物たちと本土の人物のどぎつい悪意。そのどちらもの描写にそれぞれ引き込まれるものがあり、なかでも、「桜」と「城山」の造形がとくに際立ってると思いました。その存在の美しさと醜さのくっきりとした描かれかたが強く印象に残ったので。それから、真相で明らかになる皮肉のこもったあの真意には、重さはそれほどでもないけれど、抜けない棘を刺されたような後味が残りました。終わりかたはあんなに寓話的で綺麗なのに、そういう部分があるから、なおさらなんとも言いにくい「不思議な読感」、になるのかな、なんて思いました。
閉店間際に駆け込んだ銀行で遭遇した銀行強盗。その原因をつくった陣内とともに人質になった鴨居は同じ立場になった永瀬と出会う「バンク」。そしてそれから、彼らがそれぞれに出会う人のさまざまな側面に触れていくささやかな話が五つ収められた連作短編集。
大きな驚きが隠されているわけではなく、描かれているのはどれもがとても身近な善意、あるいは悪意。そのどちらも、当たりまえに存在しているのだとさらりと触れていくだけかのようで、大きく問題提起するわけでもない。だからここが強く印象に残ったとか凄かった、と力んで話せるところはさほどない。けれど、漠然とした言い方になるけれど、毒を含んでいるのに作品それぞれを包んでいる空気、あるいは陣内や永瀬という主軸のキャラから伝わってくるものが、すごくやさしくて柔らかくて、読後感をふわりと暖かくしてくれました。そういう意味で、とても気に入った小説になりました。といっても短編それぞれには大なり小なり仕掛けがあるし細かい伏線も全体を通して見えてくるものもあるしで、小技はちゃんと利かせてあるのでなかなか手抜かりはないです。
「奇跡」に関する台詞が心地よかった、かなりのクセ者な陣内についてはまだ語られない部分が多いし、なにより面白すぎるキャラなんで、永瀬とともに是非続編での活躍を見てみたいです。
市内で連続する放火事件と、その近辺で必ず発見される意味不明なアルファベットが記されたグラフィティアート。遺伝子関連の会社に勤める主人公が、血の繋がらない弟と、癌に冒されて余命いくばくもない父親とで、軽い気持ちで追い出したその事件は、思いがけず自分たち家族の忌まわしい過去を否応なく浮かびあがらせていく――。
軽妙に繰り返される、ほのぼのという形容も合うくらいになごやかで仲の良さがうらやましく感じられる会話の応酬と、その合間合間に隠された、兄と弟と父親、それぞれの過去の事件に対する強く激しい思いと決意。どちらの描写にしても、亡くなった母親を含めて家族の強い絆がしっかりと伝わってきて、ひたすらに切なく、またうらやましいばかりでした。ミステリとしての謎はあるていどは読めてしまえるものなのですが、それを差し引いても、描かれる人々の確固とした生きかたに強く惹かれて、読後に強い余韻が残りました。ラスト近くに書かれる「なんでもない台詞」には、本当になんでもない言葉なのに、知らず涙が出てきてしまうくらい、どっぷり作品世界に浸かっていました。といっても感動優先の単純に良い話、でもなく、他の作品同様、善はあるけど悪もかなりはびこってますよ、とさりげにあるいは残酷に書かれてもいて、そういう少し突き放したところに、作者らしさを感じました。
繁華街の交差点で、ひとりの男が突然飛び出してきて車に轢かれた。その事件が、無関係だった三人の人生にやがてそれぞれ違ったかたちで影響を及ぼしてくる。妻の復讐のためにその轢かれた男が所属する会社へ潜り込んでいた鈴木。「自殺屋」として何十人もを葬り、その亡霊の幻覚を頻繁に見出した鯨。罪の意識の欠片もなくどんな殺人の依頼をも請け負う蝉。――彼らが巻き込まれあるいは自ら飛び込んでいった事件の中心には「押し屋」という存在があった――
一言でいうと面白かったです。容赦のない現実と、やっぱり容赦のない幻想が、嘘くさすぎない絶妙の程度に混ざり合い、おかしいような哀しいようなそしてむごいような展開がどんどんくるくる現れてきて、飽きずにページをめくらされてしまいました。現実と幻想の描写それぞれにそれはありえないだろうとうっすら感じつつも、とりあえずなんだか面白いからまあいいか、とそれが良いのかどうかはわかりませんが、そういうふうな「ノリ」でもって、とにかく先を負わされる、そんな作品でした。だからかどうか、どうもすっきりとはいかない読後感が残り、一言でいうと面白い、それは確かなんだけれど、けれど、消化しきれないなにかが残ってもいて、その感覚がどうにも微妙でした。登場人物たちと物語の語り口
の軽妙さは作者の十八番ともいうべきものでしょうが、それに関しては期待通りいつもどおり、文句なく楽しめました。
個人で仕事を行うのを好むプロの泥棒、憧れの人物を神とすがり心の拠り所とする青年、不倫相手と邪魔な障害を潰そうとする女医、再就職先が一向に見つからないリストラされた中年男。その四つの人生が多数の妙な人々とともに並走し、さらにバラバラな死体と交錯した先に待つ、奇妙な未来の姿とは――
これはこういう話です、という説明のつけにくい、なんとも奇妙な話でした。少しヘンな人たちがそれぞれ勝手に好き放題に生きていく姿が、面白くあるいは哀しく、そしてなにより魅力的に、さらさらと描かれているだけです。その描きかた、構成の具合が絶妙に思いました。ここがこうなっていたのか、こういうことだったのか、とひとつずつわかっていくことの心地よさをすごく感じたからです。終わってみれば意味のわかることが、そのまんまの表現であんな堂々と書かれていたことには大胆だなあと思いました。群像劇、といえばひとつどころにまとまっていく収束感、というのが大きくひとつ挙げられると思います。この話の場合はそれはそれほどでもなく、あくまで人々は好き勝手に己の人生を走っているだけで、少しだけその影が重なる部分がある、という程度に過ぎなかったりします。けれどそのわずかな重なりあうところ、共有するほんの一部分に、粋というか、あざといと洒落てるのあいだをいく旨さを、強く感じたのでした。
同じ年頃の子供たちよりもずっと並外れた身長の「ぼく」は、今は小学校で教鞭を取る
偏屈な数学者の父親と、町の倉庫で楽団を指導する祖父と三人で暮らしていた。水夫の
喧嘩は耐えないけれど穏やかなその町に、奇妙な雨をきっかけに、次々に不思議な出来事が起こる。そしてそのときどきに、「ぼく」は彼にだけ見える少年クーツェのたてる、とん、たたん、という足ぶみの音を聞いていた。
とん、たたん
読み進めるうちに、作中で繰り返し随所で使われるこの単純な短いフレーズが、だんだんと確かに音楽のひとつとして心地よく響いてくるようになっていました。そしてそのリズムを根底にして、「ぼく」を囲むさまざまな人々の種々のエピソードを、どれも楽しく読めました。中にはひどく哀しかったり容赦のないものもあるのだけれど、それでも後に残るのは爽やかな、と言い換えても良いくらいなさっぱりとした読後感でした。それは優しい視線での描きかたのおかげでもあるし、ちょっと変わった登場人物たちの明るさのおかげでもあるし、いつのまにかに物語全体を優しく揺らす、とん、たたん、というリズムのおかげでもある。つまり色んな要素が上手く噛み合っている、ということですけれど。とくに登場人物たちのユニークさが良かったです。それぞれてんでばらばらな個性でしたが、皆必ず、それぞれのやりかたできっぱりと前を向いているところが、すごく好ましく、また、うらやましくも思いました。
テレビドラマにはハマったものの、小説とは違うだろうと読んでなかったんですが、
文庫化と小説自体の評判の良さから、買って読んでみました。
とつとつ読むうちに、だんだんとドラマの内容を思い出してきて懐かしくなり、ダブってきました。
つまり私にとっては小説とドラマの雰囲気、というか世界の色、のようなものは十分重なった
ものに思えました。もちろんキャラクタの設定から細かいところはいろいろ違うけれど、
どちらも伝える「池袋」という街(実際がどうとではなくここに作り上げられた街としての)
のまっとうではないところも含んだ熱のあるエネルギーの力をひしひしと感じました。
登場しているのは実際無軌道だったりとんでもないことをしているヤツラばかりだったりするけれど、
彼らにある一本の侵せない硬い筋のたくましさがうらやましくも思えたりしました。
正しいとか間違ってるとかではなく、心に自分という塊を持ってることが。
主人公の吐き出すような本音の文章がとてもスマートに読めて、すらすらっと読み終えられました。
大学を卒業しても定職につかず、親からの仕送りとパチンコで日々の生活を
送っていた白戸は、ある日不思議な老人に出会う。身なりがよく、見たことのない印象の強い目をした彼は、
騒ぎを起こしていた右翼を姿を現しただけで立ち退かせた。その老人が、のちに白戸にコンタクトをとってきて自分の仕事の協力をしてほしいと持ちかけてくる。その「仕事」は、毎朝経済面のひとつの銘柄の価格を毎日チェックすること、それだけから始まった。
それから経済の世界に入りこんでいった白戸と、手練の個人投資家の老人は、半年のちにある「勝負」を仕掛ける……。
あの新聞一面を埋め尽くす(ぱっと見ただけで関係ないとすぐ目をそらす人も多いはずな)細かな数字の毎日の揺れを「波」と表現して、培った勘を精一杯に駆使してそのなかを泳ぐ人々の話。本文中に散らばっている経済用語は、私にはちんぷんかんぷんなのも多くて、やさしく書かれているのはわかっていても理解しきることは無理だったけれど、それでもかなり楽しめました。それは、それこそ「波」のような、フィーリングで感じられる盛りあがりが、あくまで等身大に近い身近な文章のおかげですんなり伝わってきたからだと思います。何円、と時折それだけぽんと出てくる数字には確かに「お」とか思わされましたし、悲惨なバブル期の挿話などのエピソードも上手く利いていました。
「池袋…」と同じように一人称で描かれていて、展開が素早く無駄がないです。そのためか、のめりこむ彼の心中が少しわかりにくかったところもあったものの、知識があらかじめないと小説としてはどうしてもとっつきにくい分野を、本当にスマートに描けていると思いました。
池袋の混濁する「現在」を、トラブルシューターで果物屋の店番でもあるマコトの視点から描くシリーズの第二弾。ネットアイドルの中年ストーカーの顛末を描く「妖精の庭」、すべてのものを数えて生きる少年の登場する表題作「少年計数機」、変わり者の老人ふたりと連続ひったくり犯を追う「銀十字」、そして表沙汰にできない強盗事件に過去の凶悪事件が絡んでくる「水のなかの目」、を収録。
どの短編にも、事件のもとにははっきり簡単に解決はできない暗く難しい側面が含まれてはいるけれど、このシリーズにはそればかりではない「明るさ」が含まれていて、この世の中もそう悪いものじゃない、そう思わせてくれる前向きなところがあります。それを感じるのは登場する人物の明るさそのものだったり、生きかたからだったり、さまざまだけれど、共通しているのは描かれる視点の身近さからにあると思います。なに考えてるんだか全然わからないイマドキの若者、といった新聞であるような突き放した視線じゃなく、同じ場所で生きてる同じひとなんだと意識させてくれるように描かれる、他愛ない言葉やささいな行動がすごく近しく感じられました。そればかりでは性善説すぎでしょうが、理解できない、したくはない闇のほうも深く鋭く描かれているので、そういう意味ではバランスはとれてるのではと思います。
まだシリーズはつづいているらしいですので、これからも、妙な事件ばかり起こるこの頃に、世の中悪いことばかりではない、良いこともたくさん身近にあるんだよ、とさりげなく呼びかけてくれるような話を期待したいと思います。
IWGPシリーズ第三弾。ホームレスの連続襲撃事件の謎を追うマコトが、とあるバンドのライブで異常な速さの不気味な音と出会う「骨音」、夜のショッピングセンターで知り合った少女を介抱したことから、その母親の遭遇しているトラブルに巻き込まれる「西一番街テイクアウト」、池袋に浸透しはじめた地域通貨に紛れ込んだ偽札に潜む悪意「キミドリの神様」、レイヴと呼ばれるライブイベントに蔓延するドラッグが巻き起こす悲劇と恋愛「西口ミッドサマー狂乱」、の四本を収録。
あいもかわらず、強烈な個性を放つ登場人物と、その人物達が巻き起こす奇妙だったり残酷だったりする事件ばかり。いつもどおりの、といえるほどに馴染みが出てきて、もうすっかり安定してるシリーズになってきたように思えました。そういう意味ではどうしても当初の目新しさは薄くなりましたが、ここに描かれる人々には変わらず惹かれます。その考えかたや行動に理解も共感もできないのに、時折すごく眩しく感じます。善悪を通り越したまっすぐな生きかたが、ひどく自由なように、うらやましくも思えるのです。
この短編集のなかでは、ふたりの母親のエネルギッシュさが面白かった「西一番街テイクアウト」が好きですね。ドラマでこそ強烈なキャラだったけれど原作ではあまり活躍の機会のなかったマコトの母親が大活躍。……素敵でした。あと、「西口ミッドサマー狂乱」は、このシリーズらしさにあふれる一作。狂気と正気、善と悪、憎悪と愛情。色んな要素が絡み合う濃い世界に身を浸しながらも自分を貫きつづけるキャラたちの生きざまに、色んな意味で「すごいなあ」と感心すらしてしまいました。表題作「骨音」はこのあいだドラマ化されたものの原作で、だいぶ筋も違うしドラマはおふざけな要素もかなり多かったんだけれど、それでも両方に流れる空気は似通ってるように思いました。
借金が積み重なって崖っぷちに立たされた男が物静かな老人に案内された先で突きつけられた選択「ラストライド」、仕事をサボってふらりと立ち寄った閉店間際のテレクラで男が出会った少女の秘密「ラストコール」、他、人々のさまざまな意味での「最後」のときを描いた短編集。
鉛筆の芯が折れるように簡単に呆気なく、転落していく人生、あるいは変貌する現実。それらを乾ききった冷静な視点で描く話はどれもが自分と無関係とは言いきれないリアルさを含んでいて、重たい余韻を後に残します。けれど、容赦なく人間や社会の暗闇を暴きつつも、人々の感情のあたたかな動きもあわせて描いてもいるので、「それでも人間捨てたものじゃない」とも思わせてくれました。それを感じたのが「ラストバトル」、そして「ラストライド」です。救いがあまりにない話なのに、どこかほっと息をつけるものを少しですが、感じされてくれました。一方ただ怖かった(という感想そのものがネタバレっぽいのですが)のが、「ラストコール」・「ラストシュート」。どちらもそのクライマックスの鮮烈な情景を想像して……息が詰まりました。
少しずつちょっとした個性はあるものの、いたって平凡で普通な生活を送る中学生四人組。彼らのなんてことのない、けれどかけがえのない日々を、彼らと関わる人々との出来事を絡めて描いた短編集。
現代っ子というくくりで語っちゃいけないんでしょうが、そういうイメージを持たせるどこか冷めた一面のある彼らと、それぞれに事情を持つ人々とのやりとりがとてもやさしく描かれていて、読んでいて暖かな気持ちにさせられたりしました。中学生だから自分の直情そのまんまをぶつけたりしてるわけですが、その剥き出しの感情の熱さが、普段の一面とのギャップもあってどこか新鮮に思えました。とはいえ、実を言えば四人組の彼らよりゲスト的な一話ごとのキャラクタのほうが印象は強く残っていますが。もっと描写が欲しいぐらいでした。
ただ、全体的な作品のトーンとしては、「中学生が主人公の小説」というより「ある程度年を加えた人物が中学時代を回顧として語る小説」のように感じました。描かれる姿がどこか美しすぎているような、さっぱりとしすぎているような、そんなふうに思えたのです。
脳を破壊する、つまりは精神攻撃を専門にする、考えればおぞましい職業の「解体屋」の話なんだけれど、
その解体作業の表現方法や、脳へ入っていくことがどういうことかということの視的な描写が
面白い。ユニークで独特だけれど、観念的すぎず、わりときちんと豊かなイメージを抱けました。
作中のセリフの「暗示の外に出ろ」、まさにそのコトバに思わされる現実があり、
色々と考えずにはいられませんでした。自分が自分であることを知ること、いつづけること、
それを確信できていることがどれだけ大事なのか。(見当ハズレな感想かもしれないですが)
あとノリのいい会話やジョークが真剣なシーン
におかしいくらいにハマってて、思わず笑えてしかたなかった。エンターテイメントとして
これは必読だと思います。図書館で見つけられたのは幸運でした。
一応日本を基調とした舞台でありながら混沌とした独自の秩序を持っている町、という設定自体が
好みなので、その町がどういうふうにできあがっているものなのか、どんな支配がされてるものなのか、それに対する興味だけでもけっこう面白く読めました。実際、興味に応えてくれるだけのユニークさがあります。
また、話の進むうちに、それがじわじわと崩壊していくさまも乾いた描写で読ませてくれる。
けれど
自己とはなにか、ということを問い詰めていく中で、追い詰められてしまったような
主人公の姿はただ辛く、結果それがわたしにとっては物語にぼんやりとしたぬめりを残す後味が
生まれてしまったようで、読後感はすっきりしませんでした。
たったひとりの男の
予言に翻弄され、さまざまに分裂していく若者たちのストレートなむきだしの
感情は今とリンクしてリアルに思えた。どれもこれもが自分自身にたいして素直で直情で、なのにこれだけ刃向かい合うっていうのがけっこう鋭く痛い。
ゲスト出演?(書かれた順番からは逆ですが)の解体屋がここでもいい味出してました。
すべての始まりは、ある春の土曜日の昼下がりのことだった。親友の高橋とふたり、
「カメラ・オブスキュラ」という見世物を見に行ったぼくたちは、風変わりなその出し物の
見せる光景のなかに、見慣れた水族館から覗く地下への階段を見つけた。それは、存在するはずの
ない階段だった。
その日を境に知らずに訪れていた日常からの逸脱は、女友達を加えて「こっくりさん」を軽い気持ちで
行ったことをもうひとつの契機に、親友の変貌とともにやがて明らかになっていき……。
ただ当たり前の日常のなかの、ちょっと変わった出来事にすぎなかった体験。それだけだったはずなのに、普通に下らない会話を交わし、組んだバンド名でささやかに意地悪な教師への復讐をしたり、そんな日々を一緒に送っていたはずの友達が、その日からどんどんタガを外していく。その身近な怖さが、素朴な文章でじわじわ伝わってきた。その感覚はぜんぜん派手なものではなく、肌をざわざわ粟立てるような、ささやかだけどものすごく気持ち悪い、そういう感覚。正直、味わいたくはない感覚です。けれど、だんだん読んでるうちに、ああ嫌だな、嫌だな、と思う方向へ展開していっているのにそれでも、なんかやめられない、最後まで
読んでおかないと、と思わされました。ものすごくタチの悪い蟻地獄かもしれません。けれど、そう
思わせるだけの引力があるというのは、作品として良いところなんだろうなと思います。ただ、やっぱり
読んでて楽しくないというかひたすら辛くて、人に薦めたい方向の本ではないです。
正直に言うと、口絵イラストの雰囲気が好きでなんとなく衝動買いした本で、内容をほとんど知らずに
買いました。だから今思うと、感想とかでこの「怖さ」を知ってたら買わなかったかも……とか思います。そう思ってみると、それはそれでちょっと惜しいかもな、とも思えたりするんで、はっきり損だけをした作品では
なかったかもしれないです。この類の終わり方は、とても後味が残って好きではないはずなんですが。
そう思うと少し不思議です。
高校生の「私」は、ある夜目覚めたら自分の身体が動かせなくなっていた。意志もだれにも
伝えることができない。けれど、身体は勝手に動いていて、だれかが代わりに動かしている
ようだ。一体だれがそんなことをしてるのかと思ったら、憧れの先輩がどうやら自分の身体の
持ち主になっているらしい。しかも先輩は、毒殺されていた……。
メフィスト賞作家のコメディというギャップの興味と、見るからにライトな話の筋と本のつくりに
軽い気持ちで読んでみたのですが。感想というかつくづく思ったのは、さすがにクセのあるメフィスト賞作家
の書く話だよこれは、ということです。後半の「設定」あたりは面白いな、と思うんですけれど、
後味がこれはちょっとどうなんでしょう。さくさく読める、ちょっとエッチっぽい(設定な)コメディを
期待すると、複雑な気持ちになると思います。正直それは自分の素直に思うことなのですが。
文章も崩しきっていて、ある意味親近感あるというか「ライトノベルっぽい」とは思うんですが、
ちょっと自分にはそれをやりすぎな気もしました。そこでてへ、とか言われても。
たぶん、十年の時を超えて出版されるだけのことはある、そう思わされた心地よいSFでした。
突然空から降ってきて、額にとりついた「星虫」という小さな菱形のモノ。それは、
人間の能力を広げ高め、そのため最初は尊ばれるけれど、やがてそれが巨大化していく…。
そんなイントロから、話は広がっていきます。そのなかで、宇宙から降ってきたものに対する優しさや戸惑いが細かく描かれ、導かれるそれらがなんなのか、という結論がとても良かった。
ネタバレになるけれど、宇宙へ進化していくしか方法がなくなった人間たちを、地球が否定しない、
見守っているんだという視点には読んだことのないものを覚えました。だから、
安心して別のところへ地球を作りだしていこう、という書き方がなんだか優しい
し安心させられます。地球を破壊しつくしておいて宇宙まで侵略するのか、みたいなトーンが
多いだけに。
ほんの一週間のあいだに星虫は人間のこれまでの歴史を試し
て、あやうくはあったけれど、その試みは悪くはない結果に終われた。彼らが
親元に帰ってくる日がいつか来るように、この話の人間たちも進化しても、いつか
地球へ帰ってこれると、思いたい。ひとつきりの故郷だから。
いきなりネタバラシ話で、なんですが。
あ、時系列をずらした話だったんだと遅い感嘆をさせられる、終盤の「ネタバラシ」にはすっきり一本決められてしまいました。これがもうただすごく意外だったんで、負けました、って素直に白旗を振りたいような気分です。上手く決まってましたし。
その展開には、多少頭の中がぐるぐるするような推論や経過を理解しなくちゃいけないのに、その仕掛けのあざとさとか全然感じさせないあたりは、ストレートに、細かく描いていける巧さがあるんだなと思う。
キャラクタはあるいは典型的すぎるかもしれないけれど、皆しっかり息づいて動いているから、
どこか懐かしさを伴った感情移入をさせられました。
「星虫」「鵺姫真話」につづく三部作最終巻にして、これはそれらの世界の一種「はじまり」の物語になります。だからこの話を読むと、前の二作品を思わず読み返してみて、そのちょっとした記述に作者のもくろみ通り思わずニヤリとすること請け合いです。もちろん話的にも三部作それぞれにリンクして繋がりがあり、細かくて用意周到な伏線を改めて感じます。
この話は、「妖怪」の話。
強面で超がつく貧乏青年である年輝は、「入らずの山」にある廃棄物処理施設予定地で出会った和美の頼みごとを聞いた結果、奇妙な生き物に憑かれてしまう。どうやら天邪鬼らしいその生き物を育てていくことになるのだが、その天邪鬼が出てきた池から、とんでもないものが発掘されて、……。
この天邪鬼とのやりとりがほほえましくて、ところどころかなり暴力的だったりするんだけれど、それもまたなんだかおかしい。また前二作品と同じように、登場する人たちが憎めない奴ばかりで親しめるし、なんかほのぼのできる。そしてこれまた同じように、すごく真っ直ぐで純な恋愛話もあって、これはどっちかっていうと、あまりにも純情一直線でちょっと照れくさい感じもしました。まぶしいんですね……。気の強い者同士のほうはこういうの好きなんで楽しめたんですけど。
三部作通して、この世界の地球はきっと大丈夫だろうという気持ちにさせられる、明るさと前向きな意思をたくさん感じられました。それはけれど、あんまり押しつけがましくないし、本当に爽やか。多分そんなだから、ずっと残れる話になれるんだろうな、とか思います。