それは誤解なんかじゃなくて、






「わりぃーけど、俺、今アメフトしか興味ねえんだわ。」



これでダメなら。

「それに、筧といるよりキミといるほーが楽しいなんて、絶対有り得ねーと思うし。」



まだここで食い下がる娘もたまにいるんだよな。
そしたら、もう。
正直に言っちまう。

「つうかさ、俺ね、筧の事が好きなんだよね。」










「水町っっっ!!!」
部室に向かう途中。
後ろから筧の怒鳴り声が聞こえた。
振り向いたら、むこーの方から筧が走って来てた。
段々と近付く筧。
怒ってんな。
それはもーぷりぷり怒ってる。
「おー筧も今行くトコ?」
目の前に来た筧の頬と目元がちょっと赤い。
普段から『無愛想』『無表情』って良く言われてるけど、俺にはそう見えない。
筧はすごく、表情豊かだと思う。
それに意外と熱血で、すぐに頭に血が上ったりするんだよな。
まあ、そんな風に怒ってる顔もビジンで俺は好きなんだけど。
「どったの?ナニ怒ってんの??」
「どしたの、っじゃねーよ!」
あ、ますますビジンに…
つか、それよりも筧サン?
そんなに顔近付けてきたらさ、ちゅーされちゃいますよ?
いやしねーけどさ。
「お前っ、またオンナ振るのに俺をダシに使ったそうじゃねえか?!!」
「あー…そーねー」
「まえにも『するな』っつったよな?!」
「うん。でもさー…」
オンナノコ同士のネットワークってのは、それはすげーらしくてさ。
そーゆー話って、次の日どころかその日のうちに広まっちまうんだよなあ。
きっとそれが筧の耳にも入ったに違いない。
「そやって言うのがさあ、一番効果あるんだよなー」
大概のコは『他に好きな人がいるのなら諦める』とか、『筧君と比べられたら敵わない』って言ってくれる。
中には『信じられない!このホモ!ヘンタイ!!』って言うコもいるけど。
そんなの俺は気にしない。
「それとも、筧は俺が女の子とオツキアイして、練習オロソカにしちゃったりとか、アメフト部やめちゃってもいいっつーの?」
「そんな事言ってねえだろ!」
「じゃあ協力くらいしてくれてもいーじゃん。名前くらい貸してよー」
「貸すのはいいけどよ…でもだからって、そんな風に言ったりすんなよ。」
「なんで?」
「…誤解、するだろ。」
「あー!ゴカイ?!誤解ねえ〜」
誤解じゃねえんだけど。
いや誤解かな?
別に俺が筧を一方的に好きなだけで、筧と付き合ってるわけじゃない。
「いーじゃん!周りのヤツが別に何言ってもさー」
「……」
「……」
睨まれた・・・
あ、ヤバ、なんかマズイ?
「あー…それとも、ナニ?筧、何かめーわくしてる?」
だっらたらやだよなあ。
俺は別に胸を張って誰にでも『筧が好き』って言えるけど。
でもそれが筧に迷惑掛けてるんなら、言わない方がいいのかも。
「…別に、迷惑とかは掛かってねえけど。」
「そっか!ならいーじゃん?」
よかった!
…あれ?まてよ。
なら、どうしてそんなに怒んだろ?
不思議に思って筧を見詰める。
と、いつもはまっすぐ人を見るのに、すっと視線を逸らされた。
ん?
なんか顔、赤い??
「でもよ…俺が、誤解する。」
「ふん?」
言って、筧はそのまま歩き出した。
背中がどんどん小さくなる。



『俺が誤解する』

誤解ってーのは、つまり。
周りの皆が俺達が付き合ってるって思うこと?
いやそれは『周りが』だから違くて。

『俺が』ってことは、『俺が、俺達が付き合ってるって誤解する』てことだよな?
でもそれだったらおかしいよな。
じゃあ『付き合ってる』じゃなくて『俺が筧を好き』の方かな?
『俺が、水町が俺の事を好きだと誤解する』
だよな、うん。

て、あれ?

ええと…

『俺が、水町が俺の事を好きだと誤解する』で。
怒ってるんだよな。
誤解して怒ってるんなら、誤解したくないってこと…でいいのか?
つまり、なんだそれ?

あー…

あ。

あああ?!!



「あーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
もう、筧の背中は豆粒くらいになってた!
「ちっ、ちげーよ!!!かけい〜〜〜〜っ!」
慌てて追いかける。



『水町が俺の事を好き』
なのが誤解だと嫌なんだよな?
つまり、それって、
『水町が俺の事を好き』
がホントならいいって事なんだよな?!



背を向ける前に、ほんの一瞬見えただけだったけど。
その、思ったよりもずっと表情豊かな。
筧の顔はどうだった?


思い出して、ひどく顔が緩む。





「かけい!誤解なんかじゃねーって!!」
掴まえて。
精一杯の想いを込めた言葉を告げたなら。
今度はどんな顔をしてくれるんだろう。
なあ、筧。
きっと、笑ってくれるよな?








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えーと…(笑)
いや、書き易かったです。
水町はあほだけど馬鹿じゃない方向で。ぜひ。
2004.12.17