「邪魔してもいいか?」 後ろから声を掛けられ振り向くと、脇に酒瓶を抱えてこちらを伺う様に見るフリックが居た。 「お前が邪魔な訳ねぇだろ。」 そう言って手を挙げると、彼は少し笑ってこちらに向かって歩き出した。 「珍しいな。お前が宴会を抜け出すなんて・・・」 「まぁ、俺だってたまには、なぁ。」 何となく歯切れ悪く応えて、眼下を見下ろした。 城の屋上であるここからは、階下にある庭園や中庭が綺麗に見渡せる造りになっている。 今は夜中でそれらは暗がりの中であったが、所々で灯る灯りに、並ばれたテーブルやそれに集う人々が照らし出されていた。 また城内からは、歌声や演奏される楽曲、楽しげな笑い声などが微かに流れ出している。 今日はクリスマス・イブだ。 お祭り好きのここの城主や住人のたっての希望で、今晩は盛大なクリスマスパーティーが催されていた。 本来ならば、ここにいる自分もまたお祭り好きなそのメンバーの最たる一員で。隣の相棒とは違い、大抵は人の輪の中で、大いに飲み食いや談笑に余念はないのである。 しかし、今日は少しそんな気分にはなれないでいて。 ひっそりと姿を消しにここへやって来た。 そんな自分の心中を察してかどうか。 フリックは隣に並ぶと、無言のまま酒瓶を差し出す。 受け取ったそれは、自分の好きな酒だった。 「・・・実は、俺は子供の頃、クリスマスなんて知らなかったんだ。」 戦士の村では聖クリフトに纏わる祭りが殆どだったしな、と続けて 「初めて知った時は、子供の頃に知りたかったと思ったもんだよ。」 「ははは・・・何かお前らしいな。」 プレゼントが貰えない大人になってから知るなんて運が悪いところが。 そう言って笑ったら、ちょっとむっとして睨まれてしまった。 ので、慌てて話題を変える。 「俺が子供ん時は、そりゃあ大騒ぎだったな・・・近所のガキ供で集まって、今日みたいにパーティーやったり・・・」 自分としては、何ともない思い出話のつもりだった。 しかしフリックは「しまった」とゆー表情をして、俯いてしまった。 実に彼らしい。 きっと、彼は彼なりに自分に気を遣って話し掛けてくれていたのだろう。 十数年前、この村は死んだ。 もう二度と、ここでこんな風に過ごす事が出来るなんて思いもしなかった。 自分の目に残るこの村の最期は、限り無く灰色で、限りなく冷たかった。 「もう二度と、ここにサンタは来ねぇと、思ってたんだがな。」 見下ろす人々があまりに楽しそうで。 かつてここにあった、小さいけれど温かで素朴な街が記憶に蘇る。 ここでまた、こんな光景が見られるなんて。 「サ、サンタなら、ここにもいるじゃないか。」 「はあぁ?!」 唐突に、フリックに訳の解らない言葉を投げ掛けられて、思わず辺りを見回してみる。 しかし、この寒空の下、こんな所にいる物好きは自分達だけで。 どう応えていいものやら困り果てて、フリックの顔を覗き込んだ。 「昔、オデッサが言ってたんだ。大人は、恋人がサンタクロースなんだそうだ。」 そう言ったフリックの顔が見る間に赤くなっていく。 「・・・は・・・」 「笑いたけりゃ、好きなだけ笑えっ!」 飲み掛けの酒瓶を俺から引っ手繰ったフリックは、それを煽るとそっぽを向いた。 「はっはっはっはっはっはっは・・・っ!!!」 言われた通りに好きなだけ笑う事にした。 どうやら、俺は慰められてるらしい。 本当に、実に彼らしくて、笑いが止まらなかった。 言いたい事がうまく言え無い不器用なところや、それでも一生懸命気を遣ってくれるところ。 この村で。 こんな風に、穏やかな気持ちで過ごす事が出来るのは。 多分に、この愛しい目の前の彼のお陰であるに違いない。 笑いすぎて、涙が出そうになった。 「・・・で、俺のサンタはプレゼントに、何をくれるんだ?」 「えっ?!プレゼント?!」 問い掛けに慌てて振り向いたフリックは、目を丸くした。 きっと、いつもの様に思いついたままを言葉にして、後先の事は考えてなかったのだろう。 「まぁ、プレゼントがサンタ自身ってのも、いいもんだがな。」 言いながら、腕を引いて抱き留めると、思っていたよりも簡単に胸の中に納まった。 フリックの冷え切った髪が、少し酔って熱い頬に気持ち良い。 首筋に鼻を擦り付けると、冷たい感触のせいか、少し抵抗があったが直ぐにフリックの腕が背中に回された。 十数年振りに迎えた故郷でのクリスマスは。 思っていたよりも、遥かに幸せで温かかった。 終劇。2001.12.24 |
ぎりぎりまで粘って、クリスマスネタ、書いてみました〜! やはし何もないとゆーのも寂しいものですので。 しかし突貫で書き上げたので、いつもに増して何だか解り難いお話になってしまいました(汗) 時期的には、本拠地出来て初めてのクリスマスって事で。 暗い話になってしまいましたが、皆さんは楽しいクリスマスを送って下さいまし〜! |
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