同盟軍本拠地にある酒場は今日も盛況だ。 気風もよけりゃ見目もいいと評判の女将は馴染みの客と談笑していた。 カウンタ越しに話しているのは二人の女剣士、アニタとバレリア。 どちらも女将に引けを取らぬ麗しさだ。 その、華たちに囲まれるのは熊に似た大男。 まさしく正しく『美女と野獣』の様相である。 気のいい飲み仲間、といった風情で和気藹々とした雰囲気。 そこに、一人の若者が現れた。 フリック。 そこにいる熊、もといビクトールの相棒である。 このフリックもまたちょっとその辺ではお目にかかれないような美青年で。 こちらでも『美女と野獣』と称されているのだった。 「あ、ほら、嫁さんのお出ましだよ!」 「よお、フリック!遅かったじゃねえか。」 「ああ…シュウとの話が長引いてしまってな…」 「すまないねーフリック、ちょいと旦那借りてたよー」 「誰が嫁さんで旦那なんだよ…」 「やーねーもーそんな照れなさんなって!」 「照れてなんかいない!!」 「そうだぜ、フリック。何も恥ずかしがる事ねえじゃねえか。」 「お前が…っ!そーやって悪ふざけしやがるから、有らぬ疑いを掛けられるんだろ?!!!」 「悪ふざけなんかじゃねえって!俺は本っ…ごがっ?!」 「〜〜〜っ!一人で飲む!!」 「っててててて…ちょ、待てって!フリック!!」 「ついて来んな!!!!!」 勢い良くその場を離れたフリックの後を、ビクトールが慌てて追う。 嵐のような出来事に。 その成り行きを呆然と見守っていた美女三人だったが。 暫くしてアニタがぽつりと一言洩らした。 「まったく…あれじゃあホント旦那も諦めがつかないわよねえ…」 「まったくだねえ…」 レオナが相槌を打つ。 そしてバレリアが。 「まあ、奴もその内に諦めるだろう。あんなに嫌がられてはな…」 「えっ?!」 「は?!」 「ん?」 「……」 「……」 「な、何だ?」 「…あんた、本気でそう思ってんのかい?」 「ああ、そうだが?」 「何言ってんだい?!フリックなんて、あんな見るからに脈アリじゃないか!」 「で、でも凄く否定して怒ってたじゃ」 「バカだねえ、あれは『いやよいやよも〜』の典型的パターンじゃないか!」 「そ、そうなのか?」 もの凄い剣幕の二人に気圧されて、バレリアはあ然と頷いた。 「そーそー」 「ったく、あの二人も早いトコくっ付いちまえばいいのにねえ…」 「仕方ないよ、あのフリックじゃさあ。」 「だねえ。」 「…しっかし、あんたもフリック並に鈍いんだね…」 「……(むっ)」 「あんた程の美人にどうして男が出来ないのかと不思議に思ってたんだけどね…やっとその謎が解けたよ。」 「あたしには負けるけど、あんたもそこそこの美人なんだけどね〜やっぱり鈍いともてないものなんだねえ。」 「……(むかむか)」 「何なら、誰か紹介してあげよーか?」 「(ぶちっ!!!)」 「何か今…聞きなれた嫌な音がしたね…」 「年中ふられっぱなしのお前の何処に、紹介する男なんているんだ?!!!」 「なっ…!ふられてなんかいないわよ!こっちからふってやってんのよー!!」 「こらあんた達!騒ぐんなら他所行ってやんな!!!」 目の前で剣に手をやる二人を見て、レオナは叫んだ後やれやれと肩を竦めた。 「まったくどいつもこいつも…もうちょっとマシな客は来ないもんかねえ…」 その呟きに。 「はっはっは!そいつは無理じゃねーの?!類友っつーくらいだから、まずはレオナさんが気のつえーの直さなきゃなー!} 「おだまり!!」 脇から飛んだ声に、レオナが一喝する。 そして。 酒場は笑いの渦に飲み込まれた。 あなたもここに、来てみるがいいよ。 ここはのんだくれの酔っ払いや気の荒いやつばかりだけれど。 とても楽しくて。 そして、不思議とあったかいところなんだからさ。 |