「ったく…参るよな、ニナのヤツ…」 今日、3度目にしつこく追い回すニナを撒いて、フリックが溜息を吐いた。 「まあ…しょうがねぇだろ、今日は。」 今日はクリスマス・イブだ。 この同盟軍の城内にも赤と緑と金と銀の飾りが見た目も鮮やかに煌いている。 子供達ばかりでなく、大人達もみな、どことなく浮かれて楽しそうだ。 温かい、優しい雰囲気。 居心地のいいそれは、とても自分の好きなものだ。 この、仏頂面をした隣の相棒もそれは同じ筈で。 大きな靴下を持って走り去る幼子を見ると、途端に優しい目になって柔らかく微笑んだ。 「みんな、楽しそうだな。」 「ああ。お前だって楽しいだろ?」 「まあな。」 少し揶揄う色を混ぜて返すと、ぷいと視線を逸らせてしまった。 子ども扱いするなという事だろう。 しかしそんな反応を見せるから子供なのだと本人は気付いてない。 そこが可愛いところではあるのだが。 「…あとはニナさえ大人しくしてくれればな。」 「はははっ!」 吹き出すと睨まれた。 その視線が怖いので、取り繕って神妙な顔をしてみせる。 「まあ、”特別な日”ってなぁ誰しも好きな奴と過ごしたいもんだからな。」 「そんなもんか?」 「そうじゃねぇのか?」 てっきり同意が得られると思っていたのに、意外にも訊き返された。 なのでこちらも疑問形で返す形になった。 フリックは質問に質問で返されて一瞬眉を寄せる。 が、すぐに口を開いた。 「俺は”特別”じゃない沢山の普通の日を好きな奴と過ごしたいと思うけどな…」 その答えはフリックらしいと言えばらしいと言えた。 それに。 目の裏で赤い髪の女の姿が浮かんで消えた。 戦争中に失くしたフリックの大事な恋人。 解放軍での”特別”な日々。 その中で一体どれほど恋人として過ごす事が出来ただろう。 早く戦いを終わらせて、”普通”の日を二人して共に過ごす事を望んでいたのではないか。 常に共にあることが出来なかった恋を知る者だからこその、その言葉なのだろう。 「だからってそーゆー意味でいつもお前と一緒にいる訳じゃないからなっ!」 オデッサの事を思い出しているんだろう、と見詰める自分に真っ赤になったフリックが怒鳴りつけた。 「はあ?俺は何も言って…」 そこで気付く。 自ら墓穴を掘るのはフリックの悪い癖だ。 自分にとっては嬉しい限りなのだが。 「そうか…じゃあ出来るだけ普段は一緒にいてやる事にするかぁ!」 「だから違うって言ってるだろ!!」 「はっはっはっはっは!照れんなって!!」 「…っ!!」 どん、と眼前に雷が落ちて来て慌てて飛び退いた。 当然このくらいは予測済みだ。 怒り…というより羞恥で逆立ったフリックを捕まえて耳を寄せる。 「”特別”な今日も明日も”なんでもない”明後日も…ずっと一緒にいてくれよな。」 「……」 返事はない。 けれど大人しくなって腕に納まったのを了承の合図ととる。 唇を押し付けると、やはり大人しく受け入れてくれた。 今日がクリスマスでもそうじゃなくても。 一緒にいられますよう。 いたいと想ってくれますよう。 腕の中の笑顔は穏やかで優しくて。 この願いは叶うのだと。 もう一度キスを交わしながら、この恵みに感謝した。 |
クリスマス突発。 今年もやってしまいましたが…ほんとに時間なくってこんなんですみませんです… 皆さんが楽しいクリスマスを送られますように。 |
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