ホワイトクリスマス


































ここはマチルダ騎士領、ロックアックス城。
その門前に、うら若き騎士が二人。
日が暮れたと同時に雪がひらりと舞いはじめた。
今夜は奇しくもクリスマス・イブ。
誰もが、心待ちにする、ホワイトクリスマスの到来だった。





「う〜〜〜っ!寒いと思ったら雪だ…」
「毎年降ってるからな。そろそろだろうと思ったが…」
まだ、騎士になりたての二人は暮れて間もない空を見上げた。
「まったく、お互いついてないな…こんな日に門番の当番なんて。」
と、赤い騎士服のカミューがこぼした。
「こればかりは順番だから仕方ない。」
対照的な青い服のマイクロトフが応える。
二人は入団から一緒で、良き宿敵で良き友人だ。
「そうだけど…せめて時間がずれてればよかったのに。」
門番役は交代制で、今日の二人は夕方から夜10時頃までの割り振りだ。
誰かを誘うには中途半端な時間といえよう。
「まぁいいか。逆に非番だったらどのレディと過ごすかで悩むとこだったし。」
「お前はもてるから引く手数多なんだろうな。」
カミューは端正であるにも係わらず優しげな面持ちで、こぼれるような笑顔で誰をも魅了する。
その上礼儀正しく清潔な印象で、もてる事この上ない。
「何を言ってる。お前だって相当もてている事くらい知ってるんだぞ!」
カミューが笑って、揶揄うように反対側の門柱に立つ青年を覗き見た。
マイクロトフもまた、大変な男前で。
キリリとした立ち居振舞いとその真面目な性格は、誰もに好まれるものだった。
「そっちこそ今日は誘いが多かったんじゃないのかい?」
「……」
面白がって笑うカミューに、マイクロトフは顔を顰めた。
「俺は…好きな人とだけ過ごせればそれでいい…」
「へえ…いるのか?好きな人。」
「ああ…」
意外だったとばかりにカミューは驚いてみせた。
堅物の相棒に、そんな人がいたなどとは夢にも思ってなかったのだ。
そして恋愛事には聡い筈だったのに、思い当たる節が全然無かったとカミューは首を捻った。
「私の知ってる人?」
「ああ…」
興味深々、といった顔のカミューにマイクロトフは苦笑する。
けれどそれ以上の詮索は好まないとばかりにそっぽを向く。
「また…いつか話してくれるかい?」
「そうだな…」
機微を悟ったカミューは前を向いて少し控えめに訊く。
それにマイクロトフも前を見据えて、頷いた。
「でも…だったら余計に今日は残念だったな。」
その人と過ごしたかったのだろう、と。
カミューが呟くように言った。
「いいんだ。ちゃんと、過ごせてるからな。」
「え?」
いつもの固い表情が緩んで、とても柔らかなものになってマイクロトフは微笑んでいた。
とても幸せそうに。
その表情にカミューは酷く驚いていた。
この青年が、こんな表情も出来るのだと。
「そうか…じゃあ、もうここに来る前に逢って来てたのか。お前も隅に置けないな。」
「……」
それにはマイクロトフは答えないで。
ただ、肩を竦めただけだった。
闇が一層濃くなって、風が体に凍みる。
雪は本格的に降り出して目の前を白く染めていく。
高台にあるここからは、眼下に街の全貌が見渡せる。
あちこちでイブのお祝いをしているのだろうか、暖かそうな明かりが幾つも灯っていた。
「なあ、マイクロトフ…」
「ん?」
「今日はこの後予定は入ってないのかい?」
「ああ、特にはないが。」
「だったら、ちょっと付き合って欲しいんだけど…」
暖を取るのも兼ねた明り取りの松明が二人を赤く照らしていた。
それにカミューの悪戯っぽい笑顔が彩られる。
「知り合いの孤児院にサンタの役を仰せつかっていてね。」
無言のまま頷くマイクロトフの顔も炎で赤く浮かび上がっている。
「一人じゃ大変だから手伝って貰えないかと思って。」
「ああ、勿論だ。」
心温まる頼み事に、マイクロトフは笑顔で答えた。
一見ともすれば軽薄にも見えてしまうカミューが、実は情が深い事を自分は知っている。
そして、そんな一面を知るのは極僅かだという事も。
「しかしお前はこの後もレディとやらの相手で忙しいのかと思っていたぞ。」
先程揶揄われた仕返しとばかりにマイクロトフがにやりと笑った。
「何言ってる。10歳くらいだって、立派なレディには変わりないだろう。」
「確かに…」
「しかも将来楽しみなレディ達ばかりだ。」
「はははっ!」
何故か得意げになって胸を張るカミューに、マイクロトフは思わず吹き出した。
「それより、ほんとにいいのか?その…好きだって人にまた逢いたいんじゃないのかい?」
申し訳なさそうにカミューは尋ねる。
それに、マイクロトフは少し苦く笑って。
けれどきっぱりと言い切った。
「お前の頼みなら、いつだって、何だって、最優先できいてやるさ。」
「私に気なんか遣ってるんじゃないだろうね?」
「気なんか遣ってない。俺が、そうしたいと思ってるんだ。」
「そうか…ありがとう、マイクロトフ。」
「……」
綺麗な笑顔で礼を言うカミューから、マイクロトフは目を逸らして空を仰ぎ見た。
雪が、目に入って痛い。
胸を叩く激情を、どうにか静めて唇を噛み締める。
伸ばしてしまいそうになる腕を。
拳を結んで何とか押し留めた。
「早く…子供達の喜ぶ顔が見たい、な…」
「ああ、きっと楽しみに待ってるよ。」
サンタの格好をしたカミューと自分とが、子供達に囲まれる姿が目に浮かぶ。
それは何て温かで幸せな光景だろう。
それだけでは、どうして満足出来ないのだろう。
そう思って、マイクロトフは瞳を閉じた。



家族を、恋人達を、温かく包むホワイトクリスマス。

そして。

恋人未満をも、優しく包むホワイトクリスマス。


END 2002.11.29



サイト2周年おめでとうございますー!
これからも楽しくて甘くて幸せでちょっと切なくてえろな話を楽しみにさせて頂いておりますので!
オフも並行で大変だと思いますが、お体にお気を付けつつ頑張って下さいねー
精一杯応援、させて貰いますのでね!えへ
今後も変わらず仲良くして下さるととても嬉しいです。

で…彩子さんが事あるごとに「青赤書いて〜!」と言うので描いてみましたが…こんなんでいいの?
てかね、書いてて気付いたんですけど、私、カミュ様の口調が良く解ってないみたい…
どっかおかしかったらごめんです。
あ、一般の騎士服が解らなかったんで、適当です。そのヘンは突っ込まないで頂きたいと…
とりあえず季節に合わせてクリスマスネタです(笑)
しんみりでごめん。次回あるんだったら今度こそ甘甘なのに挑戦してみますー



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