おそらくはそれすらも平穏な日々。



07:55
「うー…頭痛てぇ…」
フリック体を起こして頭を押さえる。
「昨夜どうしてたんだっけ…?何か、あんまり憶えてないなぁ…」
「憶えてねぇだぁあ〜〜〜〜?!」
「っ?!」
「昨夜あんなにあんだけ悦ばせてやったのに、憶えてねぇだとぉ?」
「お、驚かすなよっ!」
ビクトールゆらりと起き上がってフリックを押し倒す。
「あっ!馬鹿!何やってんだ?!」
「思い出させてやる…」
「やめろって!!俺、今日、カミューんトコと合同演習するんだぞ?!」
「遅れて行きゃあいいだろーが。」
「馬鹿言え!!と、とにかくどけって…っ!ビクトー…っ!!!」
じたばた暴れるフリックにビクトール覆い被る。
「やっ…やめ…っ…」
「んー?」
「っ!…!!!!!」
いつもの朝の光景である。



09:45
「…確か集合は8:30でしたよね?」
「あ、ああ…」
「一時間以上も遅れるって、一体どういう事なんですっ…?!」
「えぇ〜と…そのー」
赤騎士引きつった笑顔でフリックに詰め寄る。
「わっ?!何すんだよ?!」
赤騎士フリックの襟を引っ張って中を覗き込む。
白い肌に赤い痕がよく映えている。
「ご盛んなのは大変結構ですが、平日の朝からはどうかと思いますがね。」
「?!!」
「それにその体力は是非訓練に回して欲しいものです。」
「ぐっ……」
赤騎士踵を返して訓練中の兵に呼び掛ける。
「騎馬兵の諸君!フリック隊長は恋人とヤリまくったせいで腰が使い物にならなくて馬に乗れないそうだから、引き続き私が指揮を…」
「わぁあああああああああああ!!!!!!!!!」
しかし今更赤騎士の言葉に驚く者もいない。



11:30
「カミュー!軍師殿から今度の隊の編成について三人で良く話し合えと言われたのだが…!」
青騎士巻紙を持って走り寄る。
「急ぎなのかい?」
「今直ぐとの言付けだ!」
三人広げた巻紙を覗き込む。
「仕方ない。さっさと片付けて早く昼飯食いに行こうぜ…」
そう言って本当に早く終わった試しは未だ嘗て一度もない。



12:40
「くそぉっ!!何で俺が!!!!」
フリック独り兵舎の道場で遅刻の罰の拭き掃除をする。
「大体、俺が悪いんじゃなくって、あの!馬鹿熊が!!全部悪いんじゃねーのか?!!」
フリック壁で折り返して叫ぶ。
まだ当分終わりそうに無い。



14:05
「あいやー!来るの遅いよー!」
ハイ・ヨーランチ売り切れの札を指す。
「…そうか…じゃあ、何か別のにするよ…」
フリック心の声(今日は月に一度の『ランチスペシャルサービスデー(半額割引しかもデザート付き)』だったのにな…)
とても残念そうだ。



15:20
「フリックさぁ〜〜〜〜〜ん!!」
フリック手を挙げて走り寄るニナを発見する。
「げっ!ニナっ…!」
「ナナミちゃんとケーキ作ったんですけど、一緒に食べませんか〜?」
「??!!」
フリック心の声(その上ナナミのケーキだと?!こ、殺される!!)
「あっ!!どこ行くんですかぁー!!フリックさぁ〜〜ん!!!」
フリック後ろを向いて勢い良く逃げ出した。
まだ命は惜しいらしい。



16:40
フリック廊下でばったり鬼軍師に出くわす。
「丁度いい。」
「……」
フリックちょっと嫌そうだ。
「今直ぐあの頭空っぽの熊男を私の部屋に連れて来い!!」
鬼軍師言い捨てるとそのまま言ってしまう。
また何か良からぬ事を熊がしたらしい。
フリック溜息をついて歩き出す。
熊のとばっちりが来るのは今に始まった事じゃない。


17:50
「こんなトコに居やがったのか…っ!!」
フリック洗濯場で熊を見つける。
「いや〜いいところに来たな!フリック!」
「…?」
フリック満面の笑みの熊を見て嫌な予感に見舞われる。
「これがなかなか取れなくてよー」
熊『きこりの結び目』の景品『潤滑油』を出す。
「?!」
「いいもんも手に入ったし、夕飯の腹ごしらえにちょっくら運動といこうや!!」
「ふっ…ふざけんな!!!」
「まーまーまーまー」
熊フリックを担いで楽しそうに駆け出した。
傍から見たら猟師が逆に熊に捕らえられたみたいだ。
まさしくフリックはこれから熊に食われてしまうだろう。



19:35
「お昼は済まなかったアルね!晩御飯に新作料理なんかどうアルか?!サービスするよー!」
「え…と、じゃあそれ。お前はどうする?」
「あぁ?俺はいいや…肉が食いたいしなぁ。」
新作料理は『スズキのパイ包み』だ。
「あれ?フリックさんの美味しそう〜!」
「あ、ほんとだ!ちょっと一口ちょうだい〜!!」
「私も私もー!」
「ゲンゲンも貰うぞ!」
「じゃあオイラも…」
「え?!おいっ…ちょっとっ…!」
わらわらと何処からともなく子供達が現れる。
「あれ?もう無くなっちゃったよ?」
「美味しかった〜♪」
「今度頼むぞ!」
「もうちょっと食べたかったなー!」
フリック綺麗になった皿を見て肩を落とす。
「俺…ちっとも食ってなかったのに…」
「がははははははは!!!」
「何が可笑しいっ?!!!」
どがしゃあああん!!!
フリック熊に八つ当たりの雷を落とす。
飛んできたハイ・ヨーにこっ酷く叱られて、また焦げた熊に笑われた。
レストランを壊したのも一度や二度じゃない。



21:00
「フリック…『今直ぐ』と俺は言わなかったか…?」
「?!!」
フリック食堂から酒場に向う途中鬼軍師に捕まる。
「いやっ!これはそのっ…!」
フリックすっかり忘れていた事を思い出して青ざめる。
「そ、そうだ!ビクトールならここにっ…て、あれ?!!」
フリック振り返る。
しかしそこには誰もいない。
「…解った。もうお前でいい…」
鬼軍師フリックの腕を取って歩き出す。
「お、お、お、俺はイヤだぁあ〜〜!!」
嫌がるフリックを鬼軍師は凄い力で引き摺って行った。
逃げた熊に復讐が誓われた。



21:25
「大体だな、あの脳味噌筋肉男はだな!ろくに報告はしないわ勝手な行動はするわ無駄金は使い捲くるわすぐさぼりたがるわ働かんわ呑んだくれるわ…」
鬼軍師酸欠になるのではと思うほどに息つく間もなく熊の悪態を吐く。
「あー…まぁ、あんたの気持ちは解らんでもないけど、そんな事は直接あいつに言ってくれよ。」
「あの熊をここへ連れて来なかったのはお前だろう?」
「だってそれはあいつが…!」
フリック心の声(見付けたから連れて行こうとしたのに、あの馬鹿が急に襲ってきやがって嫌だって言うのにあれやこれやしてきて気持ちよくて訳が解らなくなってすっかり忘れてました…なんて言えるか!!馬鹿野郎〜〜〜っ!!!!)
「とにかく、あの熊が何かやらかしたらお前の責任だからな。フリック。」
「なっ!何で俺が?!!」
「あの熊の飼い主はお前だろう?」
「そんなものになった憶えはねー!!」
鬼軍師叫ぶフリックに構わず巻紙を取り出して広げる。
「それよりフリック、昼間お前達に検討させた隊の編成なんだが…」
フリック心の声(俺は一体いつ帰れるんだ…?)
しかもその上フリックは明日の仕事も増やされた。
過労死で死んだら真っ先に熊が呪われるだろう。



23:50
「あー間に合ってよかった!」
フリック風呂に駆け込んでほっと一息つく。
「おうよ!入室は零時までだからな!」
テツ夜中でも威勢のいい声を上ける。
フリック急いで風呂に入る。
「あ、切れてたんだった…」
フリックシャンプーの入れ物を逆さに振る。
しかし何も出てこない。
夜中の今売店はどこも店じまいだ。
仕方なく石鹸で洗う。
洗い流した髪がごわごわする。
「あてててててて!!!」
「?」
フリック振り返ると床をブラシで擦っていたテツが転んでいるのを目撃する。
「大丈夫か?」
「く〜!歳には勝てねぇやねぇ〜!」
「一応診て貰った方がいいかもな。」
フリック手早く体を洗って風呂を出る。
テツフリックに付き添われて医務室へ。
「もしかして俺の石鹸で転んだんじゃあ…?」
フリック帰りがけにふと疑惑が生まれる。
その可能性は十分だ。



01:30
フリック酒場に向う。
「……」
閉まっていた。
フリック仕方なく部屋にとぼとぼ戻る。
その後姿は哀愁で一杯だ。



01:40
「よぉ!お帰り〜♪」
「ビクトール!貴様ぁ〜〜〜!!!」
フリック恐ろしい形相でビクトールに詰め寄る。
「何で!俺が!!あんな言われなくちゃあいけないんだよっ??!!」
「悪かった!悪かったって!!」
熊平謝りでフリックに手を合わせる。
「どうも俺、あいつ苦手なんだよ・・・」
「俺だって得意なんかじゃねぇ!!!」
熊激昂するフリックに酒瓶を差し出す。
「お前の好きな酒貰って来たからよ。な、これでちゃらにしてくれや。」
「冗談じゃねー!こんなんで足りるかっ!」
フリックそれでも酒を奪い取って席に着く。
何だかんだ言っても結局は熊に甘い。
フリックぶつぶつ言いながら酒瓶を煽って喉を潤す。
「あーでも、あれだな。」
「ん…?」
フリック少し気が紛れて一息つく。
「今日も平穏に一日が過ぎて良かったよな。」
「……そおぉか?」
「…?」
熊呆れてポカンと口を開ける。
フリックの最大の不幸。
それはあまりにも連発する不運に慣れきってそれを不幸と思わない事かもしれない。
しかしそうでなくてはとても生きてはいられまい。



02:50
「馬鹿、てめぇっ、昨夜も朝も夕方もヤったじゃねーか!!」
「あーそんな昔の事は忘れたなぁ〜」
「だから、明日の朝も仕事入れられてんだって!!!」
「まーまーまーまー」
「嫌、だって…っ…あっ…あっ…!」
フリック熊に触り捲くられて声が途切れる。
結局そのままなし崩しに朝を迎える。
フリックの不幸の半分以上は熊により起因しているようだ。
しかしそれでもフリックは熊と共に在る。



観察終了 2002.07.18



最近暗いお話が続いたんで、ちょっとした馬鹿話を。
果てしなく不運なフリックさんがそりゃーもお大好きです!!!(笑)
強くて美人で格好いいのに、日常で限りなく間抜けなフリックが溜まりませんとも!!
いや〜フリック可愛いよねーv
…かなりフリック曲解してますかね?



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