first kiss



キスをした。



正確には、酔ったビクトールにキスをされた。
ビクトールは相棒だ。
こんな時、普通はどんな反応を返すのだろうか?

「やめろ」と言って、突き飛ばすとか。
自分も酔っているからと、それに応えて冗談で済ませてしまうとか。

けれど。

自分はビクトールが好きだったので。
酔っていたせいか、つい、背中に手を廻してしまった。
そして、気がつけば。
ビクトールは幾度も自分の名を呼んで。
自分はといえば、熱に浮かされながら、背に廻した腕を更に強くしていた。





朝。
ベッドで目が覚めると、裸のビクトールに腕枕をされていた。

最低だ。
いくら酔っていたからといって、男に手を出すビクトールも。
いくら好きだからといって、簡単に受け入れてしまった自分も。
その上、あんな−−−



「・・・・・・」
とにかく、今はビクトールを起こさない様にここを出よう。
そのあと、これからの事をゆっくり考えよう。

そう思って、身動ぎをした拍子。
「・・・フリック?」
「−−−?!」
突然声を掛けられ、心臓が止まるかと思った。
「もう起きんのか?もうちっと、ゆっくりしてようぜ?」
「いや、俺は・・・」
出した声が掠れているのに自分でも驚く。
そしてその原因に思い当たって言葉を失くした。
ので、黙ったまま起き上がると、とんでもない所が痛んで、動きまで止まってしまった。
「おい、大丈夫か?」
ビクトールの手が、肩に触れる。
大丈夫もなにも。
「お前のせいだろうが・・・」
「ははは」
「大体、お前、酔った勢いなんて最低最悪もいいとこだぞ?!」
「まぁ、そーゆーなよ。いいじゃねぇか。愛はあるんだからよ。」
「あい?」
「酔ってたんは認めるけどよぉ。好きだからこそ抑えがきかんかったっつーか。」
「すき?」
「・・・・・・」
何だか聞き慣れない言葉に頭が真っ白だ。
「・・・お前。まさか俺が誰彼構わず相手にしたとか思ってんじゃねぇだろうな?」
「そ、そうじゃない・・・のか?」
「そうじゃねぇからっ!俺はっ!今迄っっ・・・!」
「ビクトール?」
「いや、まぁ、何だ。とにかく、そーゆーこった。」
ガリガリと頭を掻いて、ビクトールがそっぽを向く。
やめろ、馬鹿。
そーゆー顔されるとこっちまで恥ずかしくなるじゃないかっ。
「で?」
「えっ?」
「お前は、どうなんだよ。」
「どうって・・・」

顔が熱い。
頭の中がぐるぐるしててよく考える事が出来ない。
「めし」
「は??」
「めし、食ってくるっ!」
慌ててズボンを履いて、上着を引っ掴んで部屋を飛び出した。



心臓がばくばくいって、胸が苦しい。
順番が逆になってしまったが。
どうやら自分は、晴れて両想いになれたのらしい。
嬉しい反面、ビクトールにどう対応していいのかよく解らなくて、困る。

「おい、待てよフリック!俺も一緒に行くからよー」
上着を羽織っていると、どたどたと喧しい足音が追い掛けてきた。


ビクトールのことが好きだったけど。
想いが通じ合ったらとかそんなことは考えなかった。
ただただ、隣に在り続けたいと、そう願うばかりだった。

この先これから。
今迄と何がどう変わるのかさえも解らないけれど。



追い着いたビクトールの腕が伸ばされる。
その掌が、頬に触れて。





キスをした。
想いが通じ合ってから、初めての、キスを。



終。2002.05.09



はずかちー!程の甘甘なお話ですみません。
何だか唐突に思い立って、紙にだかだか書いたシロモノでした。
熊に『愛があるから〜』のくだりを言わせたかった模様です。
うちの話らしーと言えば、らしーんでしょうけども。



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