ススキノハラ



「どうだ?」
自分の事のように、自慢げにその男は振り返りそう言った。
返って来るであろう賛辞の答えを期待する瞳が、周りに広がる黄金の景色に同調するように瞬いていた。
時折この男は子供じみた真似をして、此方の様子を伺って来る事がある。そしてその大概は、男の思惑道理に驚き、呆れ、こうして今のように感動させられるのだ。
「……凄い」
俺は素直にそう答えた。
目の前に広がるのは夕暮れ前の金色の景色。
暮れ行く日の光もまた金色であるなら、地面を繁るのも金色で一層に煌いたグラデーションを描かれたそこは。
「小麦ヶ原とは違う趣だろ?」
「ああ。何と言うか、小麦とは違う懐かしさを感じる」
そう答えると男は嬉しそうに目を細めて、そうだろそうだろと頷く。やはり、己が故郷の一部であるのだから嬉しくないはずがない。
良い物を見せてやる、といわれそれまで嫌々向かっていた書類から逃れんばかりにその言葉に飛びつき、連れて来られた場所は本拠地から程遠くない場所にあったそこは、俗にいうススキノハラだった。
金色の穂と金色の日が合い混じりあり、幻想的でいてそしてどこか懐かしい。
時折風で揺らぎ、瞬く光に思わず目を細める。
「心洗われるだろ」
「ずっと朝から篭りっぱなしだったからな、言い気分転換が出来たぜ。ってお前、書類ほっぽいて何処行ってたんだ!」
「あ〜、それはだな」
俺も色々と忙しかった訳よ、と言い訳しているが多分それは嘘だ。多分レオナのところで飲んだくれていたか、飲み仲間のタイ・ホーと所にいたのだろう。僅かながらその身体からアルコールの匂いがするのを俺が気が付かないと思っているのか。
「カナカンのワインで許してやる」
「1杯だけか?」
「何言ってやがる、1本に決まってんだろ」
「スミマセン、俺が悪かったです。サボっていたのを許して下さい」
「却下。というか、サボりを認めるんだな」
「うう」
一刀両断に言い捨てると、男はしょんぼりとその大きな身体を縮ませた。
悪いと思うなら、初めからサボるような真似はするなと言いたいところだが砦時代からこの男は良く職務をサボっていた。特に書類関係は全部という全部を此方に押し付けまともに仕事をしている姿を見かけたのは数える程度だったのを思い出す。サボり癖のある男に仕事をしろというのは無理なのか。
無理だろう。
ディスワークよりも力仕事、力仕事よりも本能で生きているような男だ。まして獣の別名をもっているのである。
「やはり、1本だな。帰りにレオナの所に寄って帰ろうぜ」
「カナカンのワイン高ぇのによ・・、一人で全部飲む気かよ」
「当たり前だ。サボったお前が悪いんだろうが」
「ちぇっ」
「―ああ、でも」
「?」
帰ろうとする背中を呼び止め、訝しげに男が振り返る。
結局は諦めている自分に内心苦笑する。そして甘い、と。
「此処を態々教えてくれたから、1杯くらいなら飲ませてやってもいい」
そう言うと、初め呆然としていた目が徐々に嬉しそうに細まっていった。
「やっぱお前って良いヤツ」
「惚れ直しただろ?」
「おう、益々好きになったぜ」
くしゃくしゃと大きなで手で俺の髪をかき上げた。
少しだけ赤くなった頬が黄金色に誤魔化されているのを願いながら、相棒と呼ぶ男の胸を叩き返した。

相棒と呼ぶ男の胸を叩き返した。


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恒例の季節絵。晩秋。

夕陽に輝くススキは本当に綺麗です。
そしてどこか懐かしく穏やかな気持ちになれるのです。
…か、描き表わせてない気がしますが(汗)
何かお話が浮かぶようなのを描きたかったんですが、難しいですねえ…
(2004.11.08)

わーわーわー!
オートさんが『イラストに触発されて』とお話を書いて下さいました〜!
思ってもみなかったんで、とてもとても嬉しかったです。
以前「幻水の小説は書かれないのですか?」とそれとなくお訊きしたのが、よもやこんな形で返ってくるとわああ!!
しかもフリックがこれまたオトコマエで…!(うちのフリックが元なのに?!)
凄く感激致しました。ほんとに有難う御座いましたですv
(2004.11.15)

下絵 タブレット直描き
着色 openCanvas


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