あの時。



「お前には世話になった。その借りを返したい。」
フリックがそう言ったから。
その時からビクトールとフリックの旅は始まったのだ。





崩れ落ちる、嘗ては栄華を極めた城の中からフリックを担ぎ出したビクトールの耳に、風に乗った遠くで響く勝鬨の声が届く。
肩に担いだフリックの体が熱い。脇腹に受けた矢傷のせいで発熱しているのかもしれなかった。意識もない。


どうしてなのか。今だにビクトールには解らなかった。
あの時。まだ仲間の元に戻ろうと思えばそう出来た筈なのだ。

けれど、自分のとった行動は。
彼らに背を向け、そのまま歩き出した。近くの村に医者を求めて。仲間の解放軍の中には、とても良く効く薬師もいたというのに。
すぐ近くの小さな村で宿を取り医者を呼んで。数日間意識の戻らなかったフリックが目覚めた時には、もう解放軍はトラン湖の城に完全に引き上げた後だった。



フリックが一人でも歩ける様になるまでの約1ヶ月、ビクトールは献身的にその看病をした。小さな仕事を引き受けては、その稼ぎを宿代薬代に費やす。
ビクトールにとって、そんな日々は煩わしいどころか楽しいものであった。
最初は目を開けてもすぐまた眠りに落ちてしまっていたのが、日を追う事に覚醒している時間が増え、言葉を話し、怒り、笑う。
日増しに良くなっていくフリックを見ているのは、とても気分が良かった。
そしてそれを自分が助けているという事実も、より拍車を掛けていたのかもしれない。

けれどフリックが良くなるという事は、別れの日が近付いているという事で。
この先どうやって彼と共にいられるのかを考えあぐねていたビクトールにとって、フリックからの言葉は願ったり叶ったりのものであった。

借りを返すと言われても、今直ぐどうとは言え無い。
暫く一緒にいてくれたなら、その内に何か考えられるかも。
取り敢えず自分は故郷のノースウィンドウに帰ろうと思っているのだが。

曖昧な物言いで様子を探ってみればフリックは。
なら、自分もトランには戻りたくはないのでその旅に同行しよう、と。

その返事にビクトールは内心小躍りするくらいに喜びながら、平静を装ってフリックに「じゃあよろしくな」と手を差し出したのだった。
それを握り返すフリックには、只の純粋な恩返しの思いだけしかなかっただろう。そして、ビクトールの気持ちになど、微塵も気付きもしていなかっただろう。
それでもいいとビクトールは思っていた。
その時までは。





砂漠を越えた所にある、小さな街。
そこでビクトール達は暫く宿に篭る事となった。まだ本調子でなかったフリックには、過酷な砂漠越えは相当にきつかったらしい。街に辿り着くなり寝込んでしまったのだ。
けれどそれも5日目を過ぎる頃には、フリックの調子も殆ど元に戻っていた。

「明日にはここを発とう。」
体調の戻ったフリックから今日の昼に申し出があった。
1週間以上も足止めをさせてしまった事を気にしているのだろう。それに「また世話を掛けてしまってすまなかった」と、申し訳なさそうに付け加えられていた。きっと、いや間違い無く自分を責めているのだろう事も伺えた。

『自分が好きでやっている事だから、お前が謝る事はない。』
そう、言ってやれば良かったのだ。本当は。

けれどそう告げる事は出来なかった。何故ならフリックが引け目を感じれば自分の元を離れ難くなるのではないか、という思いからで。




ここまでの道中、それは楽しいものだった。
戦争中は決して自分には見せてくれなかった、心の底からの笑顔や、安らいだ表情や、気の緩んだ所などを。ほんの少しずつではあったが自分の前で晒す様になっていた。
一緒に酒を飲んで、他愛の無い冗談にも応じる様になって。
本当に少しずつではあったが、フリックとの距離が縮んでいく様な気がしていた。
けれど、楽しければ楽しいほど、嬉しければ嬉しいほど。
ビクトールに落ちる影がある。
その凛とした出で立ちが、空元気であると気付く時。遠くをもの寂しい表情で見詰めているのを見つけた時。眠れぬ夜を膝を抱えて過ごす時。
それらは亡くした女を想っての事なのかも知れないが。
もしかすると。強引に旅の道連れとしてしまっている、自分のせいもあるのかも知れない。
まだ傷が癒え無いのを隠し通してまで砂漠を越えた彼。それに気付かず、無理をさせた自分。万事においてそんな調子の自分に愛想を尽かしても、それは仕方のない事ではないのか。

それに。
本当は何処か行きたい所があって、遣りたい事があるのでないか。
「借りを返す」という言葉だけの誓約に、縛られているのではないか。



自分が、こんな風に他人の事を想う日が来ようとは。
幸せを願いながらも、相手を縛りつけ自分の元で不幸でも側にいさせたい、などと。

フリックは己の存在が自分の足枷になっているのだと、そう思っているらしかった。しかし、実際はその逆で。フリックに重い鎖を科しているのは、この自分なのだ。
潮時なのだと思う。お互いの為に。
自分が力任せに掴んでいる彼の腕を、放せば彼は自分の行きたいところへ行ける。それが、彼の幸せではないのだろうか。
そして、自分はそれを願っているのではなかったか。
そうするべきなんだと、もう一人の自分が告げる。
それが彼の幸せであるのならば。
二度と、自分の元には戻らないのだとしても。
この数日、熱に浮かされるフリックの顔を見ながら、ビクトールはそんな事ばかりを考えていたのだった。





ランプの炎が揺れる部屋で。
フリックは穏やかに寝息を立てて眠っている。そしてそれを食い入る様にビクトールは見詰めていた。
「う・・・ん・・・」
フリックが身捩いだ。しかし目は覚めていない。ビクトールはそっと手を伸ばすとその白い頬に触れた。手を滑らせて髪を梳く。それでも、目覚める気配はみえなかった。

今は見えない、真っ直ぐな青い瞳が好きだった。
それを思って吸い寄せられる様に。ビクトールは身を乗り出して唇を寄せた。
ギシリとベッドが軋んで乾いた音を立てる。
目蓋に触れて、頬を滑り、唇に触れる。
軽く押し付けて、反応がない事を確かめて、もう一度口付けた。
完全にベッドの上に乗り上げて、掛布を剥いだ。夜具の前を開くと、白い肌が露になる。
また、少し痩せた様に思う。
浮き出た鎖骨に沿って、唇を落としながら、掌で胸を撫で上げた。フリックの首が仰け反って腕が上がる。無意識にビクトールを除け様とするのを押さえ込んで、また、舌を這わした。
「ん・・・あ?・・・っな、何、何やってんだっ?!」
流石に目が覚めたフリックが、圧し掛かるビクトールに驚いて声を上げる。
状況が掴めていないのだろう。困惑した瞳が、ビクトールを凝視していた。
ビクトールはそれには応えず、ただ口元を歪ませただけだった。
それは、フリックには笑った様に見えて。
何も言わずまた自分の体に触れてくるビクトールに、慌てながらフリックは引き剥がそうと躍起になった。
「何してるっ!やめろ、ビクトールっ?!」
肩を押し、足をばたつかせても重い体はビクとも動きはしない。寝込みを襲われた事は元より、病み上がりで体力が落ちているせいもあるかも知れない。
暴れるフリックの手首を掴んで、ビクトールは頭の上に纏めて捻りあげた。力で押さえ込まれたフリックの瞳が屈辱に燃えている。その瞳から目を逸らさずに、ビクトールは噛み付くように口付けた。
息も出来ぬくらい、何もかもを奪う様な。貪る様な口付けを、した。





「あああああっ!」
自分とは一回り以上体格の違う体躯に圧し掛かられ、フリックから悲痛な呻きが洩れる。体を二つに割られる様な痛みのせいなのか、それともビクトールの裏切りとも取れるこの行為のせいなのか。フリックの瞳からは涙が溢れては流れ落ちてゆく。
「あっ・・・あっ・・・」
ビクトールの腰が揺らぐ度、フリックは声を洩らす。その音は快楽などとは程遠いもので。苦痛に歪められた表情は、酷く痛々しいものであった。
それでもビクトールは動く事を止めず。その代わりに、フリックにも少しでもの快感を呼び起こそうとするかの様に、互いの腹の間にあるフリックのものを扱いた。そうするとそれは質量を増し、熱く息付き始める。
「いやっ・・・いやっ、だ・・・っ」
ビクトールの肩にフリックの指が痛いほど食い込む。また、新しい雫が頬を伝った。けれど。上下するビクトールの手が、フリックの先端から零れる液で淫らな音を立てる頃になると、上がる声が甘い色を含み出した。
「感じてんのか・・・?」
「ちがっ・・・う・・・」
腰を押し付け、中を擦るように揺するとフリックが仰け反って震える。
そうだ。これは感じている訳ではない。
ただ生理的な快感を、一方的に押し付けてるだけなのだ。
ビクトールはそう思って、自嘲的に笑うとフリックの脚を抱え直し、激しく穿ち出した。

そして、フリックが意識を失うまで。その暴力とも言える営みは続けられた。





窓の下の方からから白い色が見え、部屋が蒼い空気に満たされる頃。
ビクトールは静かな部屋で、ベッドの端に腰掛けていた。
その後ろには白い顔で横たわったフリックがいる。その頬にはさっきまでの行為で、流された涙の後が微かに残っていた。
思い出されるのは。
驚愕に満ちた表情に、理不尽な仕打ちに対する怒りと困惑の瞳。
苦しげに洩らされる声と、痛みに歪められた顔。

ずっと、触れたいと思っていた。けれど、あんな風にしたかった訳ではない。
本当は、もっと。

「う・・・」
不意に背後から布団の擦れる音と、微かに洩れた声が聞えてビクトールは息を殺した。しかし規則的に聞えていた寝息が途切れ、フリックが目覚めた事が伝わって来る。
多分自分を見てるだろうフリックに、声を掛けるどころか、振り返りさえも出来なかった。
フリックの顔を見るのが恐かったのだ。
先の戦争で、フリックは酷く傷付いていていた。
大事な女の死。信頼していた仲間の裏切り。
それを一番間近で見て来た自分は、心に誓った筈だったのに。
決して自分だけは、彼を裏切るまい傷付けまいと。
しかしその自分が、彼に一番酷くしたのではないのか。そう思って。
「・・・ビクトール・・・」
「・・・・・・」
返事など出来ない。身動きひとつ、出来ないのだから。
「どういう、つもり・・・なんだ・・・」
「・・・・・・」
「言え、ビクトール・・・どうして、なのか。」
酷く、フリックの声が掠れて聞える。そうさせたのが、自分だと知っているビクトールの胸がちりりと痛む。

あんな風に酷く、したかった訳ではない。
本当は。
雨の様にキスを降らせて、何度も何度も名前を呼んで。
うんと優しく、してやりたかったのに。

「・・・・・・だ。」
「何・・・?」
「お前は・・・これで自由だ。」
「・・・言ってる、意味が解らない。何が言いたいんだ?」
「お前は、俺に『借りを返したい』と言ったが・・・そんな必要なんて、初めからなかったんだ。」

あの時。そうフリックに言われた時に。
初めから自分の気持ちを言えていれば。

「あん時、お前を助けたのは、ちっともお前の為なんかじゃねぇ・・・さっきみてぇな事を、やりてぇと思って助けたんだ。」
「・・・・・・」
「だから、恩なんて感じなくていい。もう俺なんかの側にいなくていいから、何処でも好きな所へ行って、好きな事やってくれ。」
「・・・随分、勝手な言い分だな。」
静かな物言いであったが、フリックの声は怒気で満たされている。当然の事だろう。
「すまねぇと、思ってる。俺の我が侭で、お前を縛りつけてた事は謝る・・・さっきのが許せねぇなら、この場で殺されても文句は言わねぇよ。」
初めから、旅の別れを告げるだけなら、話し合いで充分だった筈なのだ。
それを。わざと傷付ける様な真似をした。
離別の理由にしたのは只のこじつけだ。ただ、フリックを抱きたいという欲望に勝てなかったのだ。組み敷いて泣かせてやりたいという、とても甘美で凶悪な欲に。
そして、それがたとえ憎しみであろうとも、多分一生フリックの心の内に自分が住み続けるだろう事に。
「・・・それでお前は、1回やっちまったから、それで気が済んだとでも、言いたいのか・・・?」
「・・・・・・」
気が済む、筈がない。
無理矢理に犯した。それでも。フリックの体は蕩ける様に甘く。
この先、何度も何度でも、泣かせて、またあの声を聞きたいと恫喝する自分がいる。
出来るのなら、無理矢理ではなく、傷付けるのではなく。
「・・・だったら、よかったんだがな・・・」
「・・・・・・」
ここで「そうだ」と答えていたならば。
間違い無くフリックは即座にこの部屋を出て行っただろう。そして、二度と自分と会う事もない。
自分でも未練がましい、とは思う。ほんの少しでも、別れの時を引き伸ばしたいなどと。自分からそう仕向けておきながら。それでも、ビクトールはそうせずにはいられなかったのだ。
「俺は・・・お前と一緒にいたら、また襲っちまう。でも、それはお前だからで、誰でもって訳じゃねぇんだけどよ・・・」
この期に及んで言い訳がましいと思い、ビクトールは苦笑して溜息をついた。
すると、その後に続いて背後からも溜息の音が聞えてきた。衣擦れの音がして、フリックが起き上がる気配がする。
そのまま、出て行くのかと。
ビクトールは息を呑んで拳を固く握り締めた。ぎりりと奥歯を強く噛んで「行くな」と言い出しそうになるのを必死に堪える。

フリックが踏み出したのであろう、ぎっとスプリングが悲鳴を上げた。

今迄。一人旅を続けていた頃は、数え切れない程の人達と出逢い別れて来た。
中には情を交わした女もいた。けれど。
未だ嘗て、これ程までに辛い別れがあっただろうか―――?
どんな人とも笑って別れる事が出来た自分。しかしそんな自分が今、笑うどころか涙が出そうになるのを堪えている。
背を向け扉を出て行く彼の姿を思って、その腕を引きこの胸に強く抱いて引き留めようとばかり考える自分。
こんなにも失い難い存在に、もう二度と出逢う事はないかも知れない。
そんな彼を失って、この未来どうやって自分は生きていくつもりなのか。

まんじりと身動きすら侭ならず、意識を集中していたビクトールの背に、不意に重い衝撃が与えられた。
「・・・って!」
始め、蹴られでもしたのかと思ったビクトールは、状況を理解すると激しく困惑した。
背中に伝わる温かい体温。首元には後ろから回された腕が。そして首筋には柔らかい髪が当ってくすぐったい。
どうやら、フリックがしがみ付いてるらしい。
「なっ・・・!お前・・・何してんだ?!」
フリックの意図が解らず、ビクトールはうろたえた。
ビクトールに巻き付いたフリックの腕に力が篭る。
「お前が、俺の好きにしろと言ったから、そうしてる。」
「――――――っ?!」
どくんとビクトールの胸が鳴る。
有らぬ期待に全身が熱くなるのを宥めるように。ビクトールは低く、声を絞り出した。
「お前、ちゃんと俺の話を聞いてたか・・・?」
「・・・今度は、俺がお前に借りを返して貰う番だ。」
「何だって?」
「助けて貰ったのは、ちゃらなんだよな。だったら、さっきのは、お前に貸しといてやる。だから、今度はお前に借りを返して貰う。」
返して貰うまでは、いつまでも付き纏ってやる。とまで言った。
「解ってんのか・・・?」
「・・・・・・」
「俺といるって事は、さっきみたいな事に、またなっちまうって事だぞ・・・」
声が、震えていると思う。突き放す言葉を発しながら、期待に胸がうち震えている。
「・・・さっきみたいのは、ごめんだ。」
「だったら・・・」
「あんな、酷くされたんじゃ、体が持たない。もっと、その・・・」
「・・・・・・?」
「・・・しく、してくれたら、きょ、協力しない、でも、ない・・・」
声が小さくて、しどろもどろだったので、良くは聞き取れなかったが。
自分に都合の良い幻聴でないのであれば。
「フリック・・・?」
首に回されたフリックの腕が絞まって、苦しいくらいだった。それを無理矢理引き剥がして、初めて後ろを振り返った。

フリックの顔が、見たい。
今の台詞を、一体どんな顔をして言ったのか。
どうしても、その、表情が見たい。

両の手首を掴んで逃げられない様に。
ぐいと引き寄せれば、顔を逸らして俯いてしまった。
唇を噛み締めて。微かに見える頬は赤い気が、する。
「嫌じゃ、ねぇ、のか・・・?」
「俺はっ!嫌な奴となんか、旅なんて、しないっ!」
答えが、微妙に質問と違っていたが、ビクトールは黙っている事にした。
「・・・・・・」
「それでも借りがあったとしたら、とっとと金でも何でも渡して、とっくの昔に別行動だ!」
早口に捲くし立てるフリックを、信じられない思いで見るビクトール。
つまり、それは。
「そうしなかったのはっ・・・俺だって、お前と・・・」
腕を振り払おうともがいていたフリックの肩の力が抜ける。
「くそっ・・・!解れよ、それくらい・・・」
「すまねぇ、俺は・・・」
すっかり冷め切った体を抱き寄せる。
フリックは大人しくそれに従って、ビクトールの胸の中に収まった。
ぎゅうと抱き込んで、ぴったりと体を寄せて。強く強く抱き締めて、項に顔を埋めた。鼻を何回か擦りつけ、体温を確かめる。
そこに、確かにフリックはいて。
鼻の奥がつんとして、目頭が熱くなる。
それは、フリックも自分と共にいたいと想っていてくれていた狂喜からなのか。
それとも、何よりも大切に想っていたのに、傷付けてしまった後悔の念からなのか。
泣きそうになりながら、ビクトールは腕の中にある背中を掻き抱いた。
暫くすると、フリックの手が、ビクトールの背にも回された。

あの時。旅を始める時に。
初めから自分の気持ちを言えていれば。
下手な駆け引きなどを考えず、素直に言葉にしていれば。

「フリック・・・」
項から顎を辿って、唇に触れる。出来るだけ優しく、けれど熱く。
口付けを交わすと、フリックから甘い吐息が洩れた。

こうして、大切に愛しむ様に、大事に大事に扱っていれば。
言葉を選んで囁いていれば。
さっきみたいに傷付ける事もなかったのかも知れない。

もう一度フリックを胸に抱いて。
そこにある温かな存在に、とてつもない幸福感を思い知らされる。
暫くそれに酔う様に、うっとりと凭れ掛かる頭を撫でていたのだが。
掛かる体重が増したのと、穏やかな規則正しい呼吸に顔を覗いてみれば。
「おい、寝ちまったのか・・・?」
こんな時に眠ってしまうとは、何て図太い神経の持ち主なのかと呆れてはみたものの。自分が無体を強いた結果、疲れ切ってしまったのかとも思い直して、罰の悪い気がした。
背に手を差し当ててそっと寝かせてやる。
ゆっくり寝かせてやろうかとも思ったが、どうしようもなく離れ難くて、そのまま抱いて眠る事にした。

今度こそ、誓おう。
決して彼を裏切るまい傷付けまいと。
例え傷付けたとしても、自分を偽る事だけはしないと。
想いを言葉にして伝えよう。
この腕に抱いて、雨の様にキスを降らせて、何度も何度も名前を呼んで。
うんと優しく、してやろう。

さっきまでは、別れる事ばかりを考えて辛くて仕方がなかったのに。
今は幸福の絶頂にいる自分に、ゲンキンなものだと笑ってしまった。
この幸せを大切に育てていきたい。

取り敢えずは、朝目覚めたフリックに何て声を掛けようか。
などと思いながら、ビクトールもまた深い眠りに落ちていくのだった。





そうして、また、ビクトールとフリックとの旅が始まった。
次の日、予定通り街を発った二人。
足早に歩くフリックを、締まりの無い顔で追い掛けるビクトール。
彼等が「腐れ縁」などと呼ばれるのは、まだもう少し先の話である。



                            終劇 2001.10.13



 一体どうしたんでしょうな!熊は!!何でそんなに情けないのか?!(怒)そしてフリック!何故そんなに熊にサービス(?)を?!

 「強姦」などとゆー恐ろしい(笑)お題を頂きまして、作者は少々とち狂ってしまった模様です。こんないつもに増して、暗くてクサイ話になってしまうとは…!(当社比2.5倍くらい)あぁ、恥ずかしい〜

 理記さん、返品されてももう書き直しなんて出来ませんよ〜!何が何でも、受け取って頂きますので!!(←ヤケ)
こんなリクをした自分を恨んで下さいな〜



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