暁の空、普遍の朝。




濃紺の空にまだ月が明るい。
けれど対極の東の空は刷毛で刷いたように白い帯が色なしている。
吐く息が白く身に纏わり付く。
夜の間に冷え切ってしまった大気が、ちくちくと肌を刺す。
夜明け前。
独特の凛とした蒼い空気は、臨戦前の興奮と熱気で掻き消されていた。





「よっしゃ!そろそろ行くかぁ!」
3階にある部屋の窓から遠く彼方を見据えていたビクトールが振り返って言った。
ここからは室内の明かりが反射するばかりで、ビクトールが何を見ていたのかを察する事は出来ない。
今回の戦いは今までよりも幾らか規模が大きい。
それだけ、多くの人の命の遣り取りが行われる。
勿論、自分達の命も。
「ちゃんと目は覚めてんだろーな?」
「低血圧のお前さんには言われたかねぇな。」
「…うるさい。」
「はっはっは!」
軽口を叩く相棒を睨みつけると、豪快な笑い声で返された。


戦いは、慣れたものだ。
大きな戦も3年も前に嫌という程経験している。
そして何よりも剣を振るって生きてきた故の自信もあった。
目の前の男もそれは同じくで。
「ああ、そう言えばよ…」
顎に手を当てビクトールが何か思案した後、にやりと笑った。
「レオナんトコに頼んであったヤツ、今日の昼辺り届くらしいぜ?」
「え?あの白いのか?」
「おお、ひと月も待っちまったぜ。」
「…この状況下じゃしかたないさ。」
仕入れを頼んでいたのはミューズでよく飲んだ酒だ。
コロネの港が封鎖になってから久しくお目に掛かってない。
「あれには肉よか魚のが合うんだよなぁ。帰りにヤム・クーのトコでも寄ってって何か分けて貰うかな…」
「ああ。最近は天気がいいから釣果もいいみたいだしな。2、3匹なら大丈夫じゃないか?」
「焼いてもいいけど、唐揚げもいいよなぁ…」
「太るんだから刺身にしとけよ。」
「太ってねぇっつってんだろーが!!」
「ははは!」
今度は、自分が軽口を言って笑う。
いつもの遣り取りだ。
まるで、隣町にでも買い物に行って帰って来るような。
けれどそれが嬉しい。



信じてる。
信じられてる。
戦場においての腕とその強さを。
戦地はただっ広くて、部隊の違う二人ならばここが今生の別れともなりかねない。
けれどそんな事は夢にも思わない。
例え万が一敗走を辿る事となっても、必ず生きて還るのだと。
その強さを、信じ、認められてる。
自分が信じ、認めた男に。


それが、嬉しくて堪らないのだ。



「マイクロトフの奴等も誘ってやっか?」
「あっ、そうだ!あいつ等マチルダの秘蔵の酒隠してるの知ってるか?」
「へぇえ〜そいつは是非とも拝ませて戴かねぇとなぁ!」
「だよな。お前上手い事出させる手立て考えろよ。」
「何だよ、お前だってちったぁ考えろよな!」
ビクトールの手が伸びてきて頭をワシワシと掻き回した。
「やめろって!折角気合入れたのに…!」
外れかけたバンダナを押さえて怒鳴る。
「気合ねぇ…」
「……」
ビクトールが口の端を持ち上げて意味ありげに笑った。
何か悪巧みをしている時の顔だ。
「気合ならこの俺がバーン!…っと、入れてやらぁな!!」
「…っ?!」
『バーン!』のところで、背中に平手が飛んできた。
「何しやがるっ?!てめぇ!!!」
前につんのめりながらも仕返しの蹴りを繰り出す。
が、その体躯を裏切った素早い動きでひらりとかわされた。
そしてそのまま走って逃げ出す。
「はっはーーーんだ!」
「待ちやがれ!この熊ぁあ〜〜〜〜!!」
何が『はっはーーーんだ』だ!!
いい歳して大人気ない。
それを追い掛ける自分も大人気ないと思わなくもないが。



張られた背中が痛い。
大きな分厚い掌。
大きな体。
そして呆れる程の気力と体力。
あの男は強い。
そして、あの男に認められた自分も強い筈だ。
大丈夫。
きっと、生きて還る。



階下に下りて渡り廊下に差し掛かると明るい光が目に沁みた。
何時の間にか明けた空が幾つもの窓から覗く。
上の方を彩る水色は限りなく透明で。
下を染める赤には力強さを感じる。
一日のはじまり。
その清々しさに思わず笑みが洩れた。



廊下を渡りきると、ビクトールが待っていた。
何も言わず、ただ、笑みを交わす。


信じてる。
信じられてる。


一度だけ、お互いの肩を叩き合って。
皆が待つ大広間の固い扉を開いた。



                                        END 2002.10.24



 ええと…『キリリとした感じで』…?キリリ…??
すっすみませんでしたー!!
一体何処がどう『キリリ』なのかとゆーと当社比とゆー事で…駄目ですか…
カッコイイ腐れ縁は私には到底書けませんでした…ほんとに申し訳ないです…
しかも『夜明け前』だったはずなのに、夜は明けちゃってるし(汗)
お詫びも兼ねて背景を付け足させて頂きましたが…お詫びになってないかもですな…はは…

戦いに赴く時、お互い心配しあうのもいいんですけど、そんなに大きくない戦の時は日常の一部みたいなカンジではないのかと。
「あいつなら上手くやる」ってゆー信頼がお互いにあるんじゃないのかなぁとか。
そーゆーのを目指してみましたのです。


笠竹さん、大変長らくお待たせしてしまいましたが…しかも全然リク通りじゃない気もしますが…
お受け取り下さいますと嬉しいです。いえ、ほんとにすみませんです…
えとえと、PCが壊れた時に連絡先が解らなくなってしまいました…ので、ご連絡出来ませんでした、
見られてまして返品苦情ありましたらどうぞ…善慮致したいと…(T-T)



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