とても良く晴れた初夏のとある日。

「ここに、いたのか・・・!」
フリックは砦から姿を消していたビクトールを探しに、近くの小さな森へと足を運んでいた。こんな天気の良い日には、決まって仕事をサボってこの男は砦を抜け出しては、フリックの手を煩わせている。
今日も後に控えた仕事の段取りを決める手筈だったのに、また姿が見えないとあって、フリックはお冠になっていつもビクトールが行きそうな場所を、ひとつひとつ回っていたところだった。
そこは、少し開けた空間になっていて、昼寝をするには丁度良い場所になっていた。
そのほぼ中央に、大きな熊の様な男がが目を閉じて寝そべっている。
フリックは何も言わず、静かにその熊に近付いていった。
側に立って顔を覗き込むと、そこにフリックの影が落ちる。
目蓋の裏が暗くなったからなのか、人の気配を感じたからなのか、その男はぱっちりと目を開いた。
「よぅ、フリック。どした?」
眠っていなかったかの様に直ぐ様覚醒したビクトールは、にっこりとフリックに笑い掛けた。
そんなに嬉そうな顔するな−−−
フリックはそう思いながら、憮然とビクトールを見下ろして言った。
「今日は打ち合わせがあるって、言わなかったか?」
「おぉ、憶えてるって。でも、昼寝の後からでも、遅くはねぇだろ?」
やっぱり笑顔でのほほんと返すビクトールに、フリックは眉を顰めた。
本当に憶えていたのか実に怪しいトコロだ。
しかし、ビクトールの言う事にも、一理はある。別にそう急ぐ事でも無いのだ。
ただ−−−
「だったら、誰かに一言くらい言ってけよ・・・」
お前は、そんなでも砦の隊長なんだから、とフリックは付け加えて言った。
「ん〜、これからはそうすらぁ。」
全然宛てにならない返事を返しながらビクトールはフリックを見て、やっぱりどこか嬉しそうだ。
「それより、お前、ちょっと働きすぎじゃねぇか?」
「えっ?!−−−っと、何、しやがるっ!」
腰に手を当て怒った顔で覗き込んでいた、フリックの腕を取って、ビクトールは自分の胸に彼を引き込んだ。急に引っ張られて倒れこんだフリックは、驚きと怒りの声を荒げた。
「たまには、息抜きでもしろや。」
「そう思うなら、もっと働きやがれっ!」
もっともな意見にビクトールは少しうっと詰まったが、それでもフリックの背中に腕を回して抱き締めた。
「大体、お前何でさっきからそんな、にやにや笑ってんだよ?」
ビクトールの胸に乗っかったまま、フリックは目の前にある頬を摘んで抓った。
「ん?あぁ、だってよ、いい天気で気持ちがいいし・・・」
自分を見詰めるビクトールの瞳が優しくて、フリックはどきりとする。
「目が覚めたら、お前がいるし・・・な。」
「いたら、何だよ。」
「こうやって、二人でゆっくり出来てるじゃ、ねぇか。」
本当に嬉しそうにそう言われて、フリックは何も返せなくなってしまった。
自分だって、こんな風な穏やかな時間はとても好きなんだ。
でも、それをこの熊に言ったりしたら、調子に乗って何を言い出すか解りゃしない。
「な、まだ時間あんだろ?」
「・・・あるけど・・・」
「じゃ、決まりだな!」
フリックの返事に嬉々として、ビクトールはフリックを抱えたまま横に転がる。二人の位置が逆転して、フリックの背に土の感触が伝わった。
「そのやる気を、何で仕事に回さないんだ?」
降りてくる唇を正視できなくて目を逸らしながら、フリックは小言を洩らす。
それには返事をせず、ビクトールはそれ以上喋れない様にと、フリックの口を塞いだ。
温かいビクトールの口付けを受けながら、たまにはこんな風にゆっくりするのも、悪くないとフリックは思う。
清々しい程に晴れた空と、微かにそよぐ爽やかな風。
緑の匂いに−−−心地良い彼の体温。
「後で、こき遣ってやるからな・・・」
「へいへい。」
言葉とは裏腹な、綺麗な笑顔のフリックに、ビクトールは幸せを噛み締めて抱く腕に力を込めた。

気持ちよく晴れた、初夏のとある日。
幸せな、毎日のそのうちの一日のお話。

                                    END  2001.05.06

木 いさ様 より頂きました♪
いささんのサイト「水迷回廊」にて、キリ番400をGET!して、頂きましたv
リクはビクフリでいちゃいちゃでしたが、リク通りのらぶらぶぶりに、顔が緩みっ放しになってしまいますな。フフ・・・
イラストに合わせて、文を作ってみました。
幸せな雰囲気が伝わって下されば」いいのですが(^^)


桃木 いささんのサイト


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