「健康保険法等の一部を改正する法律」
「健康保険法等の一部を改正する法律」については、平成十二年十二月六日に法律第百四十号として公布され、また、「健康保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令」、(平成十二年政令第五〇八号)、「健康保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置に関する政令」(平成十二年政令第五〇九号)及び「健康保険法施行規則等の一部を改正する省令」(平成十二年厚生省令第百四四号)が十二月十三日に公布され、平成十三年一月一日から施行されることになった。今回の改正は、急速な高齢化等による医療費の急増等に対応するための医療保険制度等の抜本改革が求められる中で、当面の財政運営の安定を図るとともに、抜本改革に向けた第一歩として所要の措置を講じたものである。健康保険に係る今回の改正の内容については、次のとおりである。
1 高額療養費に関する事項
これまでの高額療養費の自己負担限度額については、低所得者を除き、一律63,600円とされていたが、一律の負担は、所得が高い人ほど実質的な負担率が低くなることから、負担割合の公平化を図るという観点から、新たに上位所得者の区分が設けられた。上位所得者に位置づけられる者は、総務庁の家計調査における収入別五分位階級の最上分位に該当することを基準として、療養を受けた月の標準報酬月額が56万円以上の者とされ、その自己負担限度額は121,800円とされた。この額は、平均的な報酬月額(約29万円)に対する現在の自己負担限度額63,600円の比率(約22%)を基に設定されたものである。さらに、これまでの定額の自己負担限度額に新たに、医療を受ける者とこれを支える者との公平を図ること等の観点から、一定の医療費を超えた部分について負担を求めることとされ、具体的には、所得区分が一般の者にあっては、医療費が318,000円(本人負担分63,600円のときの医療費相当額)、上位所得者にあっては、医療費が609,000円(本人負担分が121,800円のときの医療費相当分)を超えた部分の1%に相当する額を自己負担限度額に加えることとされた。なお、所得区分が低所得者に該当する者及び長期にわたり高額な医療費がかかる特定疾病に対する自己負担限度額については、1万円が据え置かれることとされた。1年間のうちに4回以上、高額療養に該当した場合に適用される多数該当にかかる自己負担額についても、上位所得者の区分が設けられ、70,800円とされた。この負担額についても、平均的な報酬月額(約29万円)に対する現在の年間負担額の比率(約1.8カ月分)を基に設定されたものである。
2 傷病手当金に関する事項
傷病手当金の支給については、所得保障という制度の趣旨の観点から、給付が重複するものについては、一方を支給し、他方を支給しないという併給調整が行われている。このため、これまでは出産手当金が支給される場合及び同一傷病に因り厚生年金保険から障害厚生年金または障害手当金が支給される場合には、その間、傷病手当金を支給しないこととされていた。今回の改正においては、さらに、任意継続被保険者及び継続給付の受給者(日雇特例被保険者であった者を除く。)が、老齢厚生年金等の拠出制の老齢または退職を支給事由とする年金給付(以下「老齢給付」という。)を受けることができるときは、実質的に所得保障が重複しているため、傷病手当金を支給しないこととされた。ただし、支給される老齢給付の額が傷病手当金の額を下回るときには、その差額が傷病手当金として支給されることとなる。改正に伴う老齢給付との併給調整の考え方は、次のとおりである。
(1)健康保険法第69条の15の規定により支給される傷病手当金を受けることができる日雇特例被保険者は、併給調整の対象とはしない。
(2)併給調整の対象となる年金たる給付は、老齢厚生年金等の拠出型の老齢又は退職を支給事由とする年金給付とし、国民年金の老齢福祉年金等の無拠出年金は対象としない。
(3)老齢給付との金額の比較は、支給される老齢給付の合計額を日額換算した上で、傷病手当金の額と比較する。なお、換算方法は、別途、規定される予定である。
3 入院時食事療養費に関する事項
入院時食事療養費に係る標準負担額について、家計の食費の変化を踏まえて、760円から780円に引き上げられた。なお、低所得者に対する標準負担額については、据え置くこととされた。
4 保険料率に関する事項
健康保険法において、保険料率の上限を政府管掌健康保険にあっては、一般保険料率と介護保険料率を合わせて1000分の91と定められていたところであるが、介護保険料率は加入する医療保険制度における40歳以上65歳未満の被保険者の人数や介護保険制度全体での介護給付費の動向により変動するという、一般保険料率とは異なった性質を有していることから、これらの率を合わせたものに上限を定めるのではなく、一般保険料率のみに上限を適用するよう改正し、介護保険料の徴収の円滑化と医療保険制度の安定を図ることとされた。また、今回の改正の施行の遅れに伴って徴収不足となっている介護保険料額については、介護保険法に規定に基づき納付猶予されているところであるが、これを平成12年度中に徴収することは、大幅な保険料の引き上げが必要となることから、保険料負担の平準化する観点から、平成14年度までの介護保険料額に上乗せして徴収するができることとされた。
5 政府管掌健康保険の介護保険料率
平成12年12月までの40歳以上65歳未満の被保険者(介護保険第2号被保険者に該当する方に限る。)に対する政府管掌健康保険の保険料率は、一般保険料分として1000分の85、介護保険料分として1000分の6の合わせて1000分の91としていた。この介護保険料率については、平成12年度は本来、1000分の9.5とすべきところ、前述の健康保険法における保険料率の法定上限により、法定上限と一般保険料分との差の1000分の6としていたものである。これを法定上限に係る規定の改正に伴い、平成13年1月から1000分の10.8とし、平成12年12月13日社会保険庁告示第212号「健康保険法等の一部を改正する法律附則第8条の規定に基づき政府の管掌する健康保険の介護保険料率を定める件」として告示されたところである。
また、介護保険料率が改定されたことに伴い、任意継続被保険者に係る保険料の前納額についても改定された。平成13年1月以降の前納額については、平成12年12月25日社会保険庁告示第24号「政府の管掌する健康保険の任意継続被保険者の保険料を前納する場合の納付すべき額を定める件」により告示されている。
なお、平成13年度の介護保険料率については、2月の上旬を目途に告示が予定されている。
6 育児休業期間中の保険料に関する事項
女性が働きやすく、子供が健やかに産まれ育つ環境作りの推進という観点から、これまでは育児休業を申し出た被保険者の月々の保険料負担が免除とされていたが、新たに事業主負担分及び賞与などの特別保険料についても、平成13年1月から免除することとされた。これに伴い、育児休業の申出については、被保険者が事業主を経由して申し出ることとされていたが、今後は、事業主が育児休業をしている被保険者にかかる「健康保険・厚生年金保険育児休業取得者申出書」をもって社会保険事務所に申し出ることとされた。なお、改正前の健康保険法第76条(育児休業期間中の保険料免除)の規定に基づく申出をしたことにより、現に被保険者負担分の保険料が免除されている者であって、平成13年1月末日以降に育児休業が終了する者については、事業主から申出があったものとみなして適用する経過措置が設けられている。
7標準報酬の改定に関する事項
(1)標準報酬等級の改定
健康保険の標準報酬月額の等級は、平成6年に標準報酬月額が改定された以後の賃金の動向を勘案して、これまでの92,000円から980,000円の40等級から、98,000円から980,000円の39等級に改正された。
また、下限が改正されたことに伴い、平成13年1月1日前に被保険者の資格を取得して、同日まで引き続き被保険者の資格を有する者(任意継続被保険者を除く。)のうち、平成12年12月の標準報酬月額が92,000円となっている被保険者の報酬については、保険者において98,000円に改定することとされている。
なお、平成13年1月1日以前に資格を取得した任意継続被保険者については、標準報酬の等級区分が改正された後においても、92,000円の標準報酬月額が適用される。
(2)標準報酬月額の算定月等の変更
標準報酬月額の定時決定は、毎年、5月から7月までの報酬を基に、その年の10月から翌年の9月までの標準報酬月額としていたが、最近の賃金の引き上げ時期の状況を踏まえ、4月から6月までの報酬を基に、その年の9月から翌年8月までの標準報酬月額とすることとされた。
なお、実施時期は、平成15年4月とされている。
8健康保険組合に関する事項
(1)財政窮迫状態にある健康保険組合に係る指定制度の創設財政窮迫状態にある健康保険組合に対し、解散を含めた重点的な指導を行うため、指定制度を創設し、厚生労働大臣による指定を受けた健康保険組合は、財政の健全化に関する計画を作成し、厚生労働大臣の承認を受け、当該計画に従った事業運営を行うこととされた。また、計画に従わない場合等には、厚生労働大臣は解散等を命じることができるとされた。
(2)健康保険組合の保険料率に係る認可に関する事項
健康保険組合の自律性の強化及び事務負担の軽減を図るため、一般保険料率と調整保険料率を合算した率に変更を生じない一般保険料率の変更の決定については、厚生労働大臣の認可を要しないこととされた。
(3)介護保険第2号被保険者に係る保険料徴収に関する事項
介護保険料の徴収方法について弾力化を図る観点から、規約で定める場合には、被保険者のうち介護保険第2号被保険者である被扶養者がいる65歳以上の被保険者について、介護保険料を徴収できることとされた。
9 その他
老人に対する薬剤の一部負担金については、平成13年1月より廃止とされたが、若人に対する薬剤一部負担金については、平成14年度までに医療費の動向、医療保険の財政状況及び社会経済状況を勘案し、所要の財源を確保した上で廃止することとされている。
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