◆仕事や出産は…悩む若い患者たち◆
ベーチェット病の治療に使われる薬は、強い副作用のあるものがほとんど。病気との闘いは、いかに薬と付き合っていくか、でもある。
東京近郊に住むA子さん(34)は、結婚後間もなくベーチェット病を発病した。たびたび激しい頭痛や発熱に悩まされていたが、診断がついて薬を飲むようになって、病状は落ち着いていた。
「そろそろ子供がほしいのですが」。A子さんが主治医に相談したのは、治療を始めて1年余りたったころ。体調の良い日々が続いていた。子供を持つことは結婚以来の、夫婦そろっての希望だった。
妊娠への影響を考え、慎重に薬の量を減らしていった。だが、約2か月で薬が半分ほどになった時に再び、高熱で身動きさえできなくなり入院。「せっかく薬を減らして頑張ってきたのだから」と、2週間後、やや落ち着いたところで退院したが、数日で再び悪化した。
中枢神経に症状が出る「神経ベーチェット病」の疑いがあると診断され、ステロイド(副じん皮質ホルモン)の大量療法を受けることになり、当面、妊娠どころの話ではなくなった。
ベーチェット病の治療にまず使われるのは、コルヒチンという痛風薬だ。目の炎症発作を抑える働きがあるが、血液障害のほか、男性では不妊の原因となる精子の減少や、女性では妊娠への影響が指摘されている。
コルヒチン以外でよく使われる免疫抑制薬のシクロスポリンやステロイドにしても、それぞれ肝臓・腎(じん)臓や骨への影響など、強い副作用を伴う薬だ。
青年期に多く発症するベーチェット病では、薬と妊娠、出産に関する悩みも大きい。
厚生省研究班班長の横浜市大眼科教授の大野重昭さん(55)は、「服薬を続けながら妊娠、出産した患者さんも多くおり一概には言えない。病状も一人一人異なるので、患者さんと医師がよく話し合って決めるしかない」と説明する。
「今は自分の体を治すことが先決」というA子さん。いずれ数年のうちに結論を出さなければならないが、「納得のいく答えを出せるといいな」と話す。
大阪で患者会の事務局長を務める豊中市の西上厚子さん(63)は、病歴30年の自称“ベテラン患者”だ。インターネットのホームページを通じて知ったA子さんへも、応援のメッセージを送った。「仕事をどう続けて行くか、結婚は? 出産をどうするかは、若い患者さんに共通の悩み」と話す。
患者仲間から相談を持ち掛けられることの多い西上さんが、最近もう一つ気になっていることは、重症患者や高齢化した患者のことだ。
治療の進歩によって数は減ったとは言え、神経ベーチェット病の重症例では、知覚障害や運動障害のため寝たきりのような状態になることもある。また、60、70年代に発症し、失明率も高かった患者が、高齢化してきている。
「寝たきりになった患者が、ベーチェット病というだけで、病院から受け入れを拒否されたケースもあった。医療の側にもまだ理解がされていない」と、西上さんは訴えている。
(4月21日9:16)
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