9月7日

 唐突に意識が戻った。外を見ると、大分空が明るくなっている。時計を見ると、5時ちょっと前だ。夜中に何度か目が醒めるブツ切れ睡眠のせいで、まったく寝た気がしない。眠いし、なんで起きたのかなあとか考えながら少し首を動かしたら、とたんに痛みが走った。変な姿勢で寝ていたので、首がおかしくなったらしい。これで目が醒めたのか。納得。
 夜に2度ほど停まった休憩のときにもまったく出て行かずに寝ていたので、少し身体が強張っている。一番強張っている首は、強張りすぎて麻痺しているし。冷たい水を飲んでトイレに行ったら少ししゃきっとしたので、もう夜も明けたことだし、風景を堪能するため起きていることに決めた。
 しかし外の風景は、相変わらず森と荒野が交互にやってくる、何だか面白味の無いものである。森は結構深いようだが、さすがに最低限に避けて道を通してあるようなので、すぐにまた低潅木としょぼい草原がところどころ見え隠れする荒野になるのだ。それでも完全に日が昇ったころ、川を渡ってから小さな湖や一面の畑、そこここに点在する農家の家という新たな要素が加わって、面白くなってきた。どうやらこちらのほうが、本来的なオーストラリア東海岸沿岸の風景のようだ。草原と丘が連続し、アクセント程度に森も見え、畑と赤い屋根の家と柵に囲まれた放牧地とがひとつのユニットを組んで適当な間隔で現われては消える。なにかお伽話の風景のようである。特にまだ揺らいでいる朝の光の不安定さと妙にマッチしていて、気分による相乗効果もあるのだろうが、余計に幻想的に見せてくれる。普通のパック旅行を選択していては、まず見られなかっただろう光景だ。
 やがて6時になり、バスはBallinaというバスステーションに着いた。長距離バス専用のバスカーゴとコンビニ、スタンドカフェがセットになっている。ここで朝飯を食えということらしい。時刻表を見ると1時間停車するようなので、焦る必要もなさそうだ。車内では狭くてできなかった伸びをひとつしてから、コンビニに入る。売っている物が違うだけで、日本のコンビニとそう大差があるわけでもない。商品の置き方(飾り方)などは特徴があるが。ともかく腹ごしらえをしようと、パンとスプライト、あとポテチにM&Mを買い込んだ。後者は勿論、車内での飢えしのぎである。味のほうは、パンは味がなく、スプライトは日本のよりも味が濃く、ポテチは塩味が薄い感じで、M&Mはさすがに一緒だった。どうやら噂に聞くイギリスと一緒で、濃いか薄いか、両極端の味付けのようだ。
 7時ちょっと前に全員が揃ったということで、再び出発。もう停まる予定はないので、あとはサーファーズパラダイスまで一直線である。道路は川沿いにずっと進み、途中山に入ったりもしたが、そこを過ぎるとCoolangattaで、この町を過ぎればニューサウスウェールズ州を離れ、ゴールドコーストのあるクィーンズランド州となる。そうなると、道はずっと海沿いを進むゴールドコースト・ハイウェイになるので、茫洋たる大海を眺めつつの道程となる。こちらの高速道路も、当然の如く無料。かなりのハイスピードで、バスは北上していく。しかし、オーストラリアのカントリーはクルマの制限速度が100キロなので、高速に乗ってもあまり変化がない。道がよくなる程度である。
 10時ごろ、バスは予定通りSurfers Paradiceに到着した。つくづくふざけた名前の街だななどと考えつつ、荷物を運ちゃんに出してもらって下車。サーファーズパラダイス・バスステーションという、そのまんまの名前の総合バスターミナルに着いたので、ガイドブックを参照にして、シャワーを探す。ぼくが持っていったガイドには、大きなバスターミナルには、無料のシャワーがあると書かれていたのだ。しばらくうろつき、トイレの中にシャワーを発見、早速汗を流す。考えてみると、日本を発つ直前に入った風呂以来、まる2日シャワーすら浴びていなかったのだ。しかたないといえばそれまでだが、気分悪いことには変わりがない。ともかくシャワーを浴びれたことで気分も爽快、リフレッシュして街に繰り出した。
 こちらに来ているはずの友人、塚本さんとの待ち合わせ場所であるCavil Ave.を探さなければならないのだが、何しろ街の構造がよく判らない。すこしうろうろして、それから諦めて地図を取り出し確認する。なんだ、ずいぶん小さいんだな。中心になる街区が狭く、その中心に走っているのがカヴィル通りらしい。とにかく浜辺に出ればいいことが判ったので、ぶらぶらとそちらに向かう。
 しかし、どうでもいいがここは暑い。まだ早春だというのに、明らかに30度は超えている。思ったより湿気があるので、なんか日本の夏のように汗が出る。なんでも、夏本番になるとあまりにも紫外線が強すぎるせいで、20分で全身火ぶくれになって病院行きだそうな。恐ろしいところだ(笑)。いや、笑い事ではないかもね。今はそんな心配ないけど。
 カヴィル通りはあっさり見つかって、しばらく通りやそれに隣接するカヴィル・モールを冷やかして回るが、塚本さんはまだ来ていないようだ。しかたないので待ち合わせ場所に指定されたインフォメーション前のベンチにどっかと座り、Ballinaで買い込んだスナックの残りをぽりぽり食いながら待つことにする。正直、疲労が残っていて動く気力に乏しかったのだ。いつもだったら、海まで出てただろうけど。
 小1時間ほど経って、塚本さん登場。自分で待ち合わせ場所を指定しておいたくせに、ひどく驚いている模様。まあ、そうか。考えてみれば、手紙のやり取りだけで、お互いがまったく行ったこともない場所で行き会えたんだからね。たいしたものかもしれない。それはともかく、そろそろ11時に近かったので、食事をとろうとモールに行く。でも、正直な話、疲労で食欲あまりなかったりする。とりあえず簡単に済ませられたらいいということで、海岸縁のマクドナルドに入る。わざわざオーストラリアくんだりまで来てマックというのも芸がないとも思ったが、食事に関してはまったく興味がない質なので、名物を食べたいとかの欲求もないし、これからふらふら北上していくに当たって、あまり贅沢にお金を使ってもいられないので、こういうファストフードがどんなもんか見たかったというのもあったのだ。で、塚本さんいわく、ハッピーミールという激安セットがあるので、それがなかなかオススメとのこと。う〜ん、こちらの旅行事情をよく判ってるなあ。そのセットは、ハンバーガーにポテトのs、コークのsの固定セットで2.95ドル。日本円にして、約300円だ。確かに安いかも。それでとりあえずの腹ごしらえをしながら、一瞥以来の色々な話に更ける。1時間近く粘った後、海岸通りをぶらぶら歩きながら、サーファーズパラダイスを見て回る。途中、ANAホテルのエントランスで涼を取ったりしながら、突端のMain Beachまで歩き、そこからカヴィル通りまで戻ってきた。しかし、こんな事を云ってはこれから行く人に申し訳ないような気もするけど、はっきり云ってあまり面白いところではない。って云うか、まったく面白くない。一言で云えば、湘南・茅ヶ崎なのだ。サーファーにとっては、海もきれいでおもしろい波が寄せてくる、それこそ垂涎の的なのだろうけど、海に興味がない人間にとっては、な〜んにも見るところないし、暇を潰すことすらできないので、何日も滞在するところではない。確かに、うっとりするほど海はきれいだし、青と白とのコントラストは、何時間見ていても飽きないものがあるが、こうもうじゃうじゃ人がいて、その半分近くが日本人と来た日には、まったく外国に来ている気がしてこない。「日本人がいないと寂しい」というさびしんぼうにはいいかもしれないが、あまり日本人が見たくなかったぼくにとっては、まったく趣旨違いの場所。予定通り、翌日朝には早々にブリスベンへ向かうことに決めた。
 16時を回ったところで、塚本さんご推薦のバックパッカーズホテル、Sleeping Innに泊まることにする。単に、彼女もそこに泊まっているというだけなのだが(笑)。ちょっと買い物をしていくという彼女と別れ、ひとりでてくてくホテルまで行き、泊まりたいのだが空き部屋はあるか?と訊く。日本人か?と訊くのでそうだと云うと、奥から日本人が出てきて日本語で応対してくれた。細かいことが判るので、確かに助かる。安い共同部屋にベッドを確保してから、なんとなしにどれくらい日本人はいるのかと質問すると、先月よりは少ないけれども、それでもまだ宿泊客は多いとの答え。逆に、どのくらいの予定でオーストラリアにいるのかと訊かれたので、1週間だと答えると、パッカーズホテルに泊まるのは95%ワーホリ(ワーキングホリデー)のラウンダーなので、あなたみたいな短期滞在でパッカーズホテルに泊まる人は珍しい、と怪訝な顔をされた。悪かったな。放っておいてくれ。
 同じ部屋の客は、サーファーのようだ。荷物はあるが、姿はない。2段ベッドの上段に場所を占めると、急激に睡魔が襲ってきた。やはり疲れていたらしい。手早く荷物を整理し、ベッドをメイキングすると、さっさと眠りの国へ旅立つことにした。ぐ〜。

 目が醒めたら、18時を回っていた。外はすっかり暗くなっている。眠気覚ましに外へ出て、しばらく辺りを散策してから戻り、カウンターで塚本さんの部屋を訊く。違う棟に宿泊しているとのことだったので、教えられた棟の2階バルコニーに上がっていくと、塚本さんが数人の日本人と談笑しているところだった。聞くと、今日は近所のバーのただ券が近在のホテルに配られていて、入場無料の食い放題なので、これからみんなで行ってみようかと話していたところだという。一緒に行かない?と誘われ、別に予定もないのでお供させてもらうことにした。一緒に行くのは、林さん、清水さん、小林さん、小泊さん、西山さんという方々で、みなそれぞれのところからオーストラリアに来ているのだという。林さんは単独、清水さんと小林さんは東京から一緒に、小泊さんと西山さんは大坂からワーホリで来たそうだ。このメンバーにぼくと塚本さんが加わって、カヴィル通りのバーまで繰り出すことになった。
 時間はまだ19:30というところ。バーはほぼ満席状態で、食事はバイキングなのだが、ちょっと手が出せないほど混んでいる。とりあえずカウンターに座ってビールを注文し、テーブルが空くのを待つ。しばらく雑談しているとテーブルが空いたので、そちらに移動し、女性陣は食事をとりに列に並び、男性陣はビール片手に雑談続行である。ぼくはというと、BGMにかかっている大音量のロックと、少しでも酔うと耳が遠くなる体質のおかげで、みんなの会話がまったく聞き取れなかったので、しかたなくテレビでやっていたドジャース戦を見ていたりした。朴が先発らしい。それなりに楽しめたが、なにやってんだか。ホントはちゃんと話したかったんだけれども、なにしろ普通の居酒屋でも話が聞き取れなくなるような耳なので(普段は超音波でもOKなほど(笑)高性能なのだが)、完全にお手上げ。酔っても顔に出ないから、素面なのに話もしない、変なやつだと思われたことだろう。しかたないけど(苦笑)。
 それでも22:00ごろまでバーにいて、他の人たちはそれなりに楽しんだらしい。会話内容が判らなかったので、あくまで推測だが(笑)。ぼくも楽しめなかったわけではないから、OKとしよう。それに外へ出てから、ようやくみんなと話をすることができたし。こんなに話すやつなら、バーでも話せよ、という痛い視線を感じつつも、まあなんとかそれなりに和やかな雰囲気になってきた。それからホテルに戻り、先ほどみんなが集まっていた2階バルコニーに屯して、お互いのこととかこれからの予定など、延々0:30までお喋りをして楽しんだ。更には、林さんがちょうど明日ブリスベンに向かうとのことだったので、一緒させていただく約束までしてしまった。ラッキー(^_^)v またその雑談の中で、旅行記をHPで公開するから、顔写真を掲載してもいいかという断りを入れたら、快く了解してくれた。翌朝その写真を撮らせてもらうことにして、今日のところはお開き。楽しい夜だった!

 


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