平成20年夏合宿 鷲羽岳~雲ノ平



 昨年は7月末になっても梅雨が明けず、雨に祟られた夏合宿だったが、今年は早々と梅雨明けになり、久しぶりに夏晴れの山行が期待できた。
 いつもは、クルマで行くため、ぐるっと回って最終的に出発した登山口まで下山してくるコースとなるのだが、今回は、居酒屋での打ち合わせに同席していて、酒の勢いでクルマの回送を請け負ってくれた自称“日本一貧乏な”お医者様の厚意に甘えて、岐阜県の新穂高から入山して富山県の折立に抜けるプランとした。

ピンクの線が今回のルート) 新穂高~三俣蓮華岳

三俣蓮華岳~雲ノ平~折立


7/30(水)

JR石山駅 7:00 ―<名神、東海北陸道経由>―10:25 高山(買い出しと昼食・散策)12:20 ― 14:00 深山荘(泊)

 いつものように通勤ラッシュに巻き込まれるのを避けて午前7時にJR石山駅に集合。人民解放軍号に荷物を積み込んで出発となった。朝から快晴で日差しが強い。

高山ラーメン
 名神の一宮JCTから東海北陸道に入り、飛騨清見ICで高山清見道路を経て高山市内に入った。地元スーパーの「駿河屋」本店で山行用の食糧などを調達してから時間調整に市内を散策し、昼食に高山ラーメンを食べる。高山も暑い。あと、平湯を経て、翌日以降、お医者様の避暑地となる中尾温泉のペンション「ラポール」の場所を確認してから「深山荘」に入った。
 着いてみて驚いたことに、「深山荘」の吊り橋手前の駐車場はびっしりとクルマが止まっている。主人の話では、みんな山登りに行っているとのこと。夏山ベストシーズンなのである程度予想してはいたのだが、これほど混雑しているとは…山小屋の混み様が案じられる。
 お約束どおり、まずは露天風呂に入る。去年は面倒臭くて入らなかった、吊り橋手前の貸切露天風呂と言うのに入ってみたが、透明な湯に湯の華が舞う川沿いの爽やかないい湯だった。夕食は去年と同じような内容。量も質も満足で、明日からの山行の成功を祈って生ビールをお代わりした。あとまた本館横の露天風呂に入って寝る。


「深山荘」

さあ、あとは登るだけ

「深山荘」お約束の岩魚の塩焼き

7/31(木)

深山荘 6:05 ― 6:08 新穂高登山口 6:10 ― 7:30 わさび平小屋 7:50 ― 8:05 小池新道入口 ― 8:55 秩父沢 9:05 ― 10:25 シシウドヶ原 10:40 ― 11:25 鏡平 12:00 ― 12:50 弓折岳分岐 13:00 ― 14:05 双六小屋(泊)

 早起きにブゥブゥ言う隊長をせきたてて6時過ぎに「深山荘」を出、お医者様に登山口まで送ってもらう。我々は朝食分を昨晩おにぎり弁当にしてもらっている。お医者様はまた宿に戻って正規の朝食をいただく。医者に見送ってもらった後、林道をてくてくと歩き、わさび平小屋のベンチで弁当を食べた。おにぎり2個とたくわんというシンプルなもの。

林道を行く

「わさび平小屋」
 小池新道入口からいよいよ鏡平に向かって登り始める。今日も強い日差しで汗がしたたり落ちる。今回、いっちゃんは汗を吸って涼しくなる新素材を使ったというアンダーウェアというか水着のLaser Racerみたいな(ちょっと恥ずかしくなるほど)ピチピチ密着した特殊スーツを着用しているのだが、それのせいなのかズボンがおもらしをしたようにグッショリ濡れている。これだけの汗なら凍死するくらい冷却されていないといけないはずなのだが…。
  それでも地形の関係で時折涼しい風が吹く時があり、とても心地よい。秩父沢で小休止してフルーツゼリーを食べる。向かい側の槍穂の稜線はところどころ雲がかかっている。シシウドヶ原で小休止した頃には少し雲行きが悪くなってきた。11時半頃に鏡池に着いたが、本当なら池に映るはずの槍穂稜線はすっかり雲の中であった。ここで昼食を摂る。池の縁に、前に来た時には無かったウッドデッキが作られていて、そのおかげで槍穂稜線が池に映るのを見るアングルにかなり制約ができているように思われた。最近やたらに整備が進んでいる木道といい、やり過ぎはむしろ自然破壊である。

シシウドヶ原

鏡池。天気は下り坂

「鏡平山荘」
 鏡平山荘を過ぎてから雨がポツリポツリ降り始め。弓折岳分岐はガスの中だった。本降りにはならず、時折止んだりもするため、雨具は出さずに、雪田を横切ったりお花畑の道を双六小屋に急ぐ。午後2時過ぎに小屋に着くとまもなく本降りになったので、チェックインしてあとはのんびりすることにする。明日以降の天気が悪いようなら雲ノ平方面は中止して新穂高に戻ることも考えており、その場合、クルマの折立への回送は不要となるので、衛星電話のある小屋からこまめに医者に連絡を入れる約束になっていたので、とりあえずは予定通りにと連絡する。医者は、「深山荘」をチェックアウトしてから新穂高ロープウェイに乗ってみたり、2・3泊目のペンションでは、読書に飽きたら露天風呂に入ったりのゆったり避暑をする予定になっていたが、この電話の口調ではすでに退屈に倦いている様子であった。

弓折岳分岐はガスの中

「双六山荘」

明日の天気はどうなんだろう?
 午後4時30分から夕食。珍しく畳に座って食べる食堂。量的には山小屋として標準的なものであるが、質的にはいまひとつで、残している人も少なくなかった。ここのトイレは一部洋式のものがあり、人気だった。
 雨の中、次々と小屋に入ってきたが、思ったほどには混まず、布団一枚に一人の割り当てだった。いつものように機嫌良く「いいちこ」を飲んで寝たいっちゃんの轟音凄し。

「双六山荘」の夕食

珍しい和風の食堂

客室

8/1(金)

双六小屋 5:30 ― 7:15 三俣峠 7:25 ― 7:55 三俣山荘 8:05 ― 9:15 鷲羽岳 9:45 ― 10:50 岩苔乗越 ― 11:25 祖父岳山頂 11:45 ― 12:50 雲ノ平山荘(泊)

 4時半から朝食。かなりの薄味。5時に出発しようと考えていたのだが、隊長がコンタクトレンズを装着するのに手間取り、5時半出発となった。好天で、三俣カールのお花畑を辿りながら振り返ると槍ヶ岳もよく見える。何度かこのルートを通っているのだが、いつもガスか雨だったので、こんな素晴らしい景観だったとは思わなかった。いつも面倒臭がるいっちゃんも、今回は新しく買ったNikonのカメラでこまめにパチパチと撮っている。

「双六小屋」の朝食

三俣カールの残雪とお花畑

カールの道
 三俣山荘は、玄関を入った途端に便所の臭いが立ちこめる昔ながらの小屋。鏡平や双六のように建て替えはされていない。今夜泊まる雲ノ平山荘には電話が無いので、ここでお医者様に、天候悪化の兆しは無いので予定通り折立に下山する旨、最終連絡を入れる。昨日よりもさらに退屈の度を深めている様子が感じられた。
 三俣山荘から目の前に聳える鷲羽岳まで一気に登る。頂上からは360度の大パノラマである。北アルプスの真ん中からのパノラマなので、どの方向を見ても素晴らしい山並みが広がっている。槍穂はもちろん、燕岳、目の前には水晶岳、少し遠く立山、三俣蓮華岳の隣には黒部五郎岳も…。ここまで2日かけてやって来た甲斐があるというものだ。
 もっとゆっくりしていたかったのだが、真夏の日差しが強いのと、早く着いて雲ノ平でゆっくりしようということから、30分ほどで山頂を後にする。ワリモ岳を越え、岩苔乗越から雪渓や湿原を横切りながら祖父岳山頂に向かう。岩苔乗越からは日本再奥の温泉がある高天原の小屋が見えていた。またいつか行ってみたいものだ。木道づたいに雲ノ平の風景を満喫しながら午後1時前に雲ノ平山荘に入った。

「三俣山荘」

鷲羽岳の登り

鷲羽岳山頂

鷲羽岳山頂より槍ヶ岳から三俣蓮華岳、黒部五郎岳を望む。左下は鷲羽池

鷲羽岳山頂より水晶岳、裏銀座方面を望む

岩苔乗越

祖父岳山頂

雲ノ平

雲ノ平のお花畑
 以前、どしゃ降りの中で泊まった時と同じ古い小屋である。二階が客室になっているのだが、一階の便所の臭気が立ち上ってきて前回はなかなか寝つけなかった。前回は便所の真上だったのでとくにそうだったが、今回は真上ではないものの、隙間風に乗ってか、10分おきぐらいにやはり臭ってくる。奈落の底が見えるタイプの古式ゆかしき便所である。ただ、槍穂の小屋と同様に、使った紙は下に捨てずに、傍らのダンボール箱に入れるようにと貼り紙がしてあった。ほんまにバイオトイレ?
 あまりに早くチェックインしたので、「いいちこ」で上機嫌で昼寝モードに入ったいっちゃんを置いて、隊長とキャンプ場の水場まで散歩がてら水汲みに行く。道中、今を盛りと咲き乱れるお花畑や池塘の雲上の楽園風景を満喫する。ここから眺める水晶岳は美しい。
 午後5時から夕食。一階の食堂に下りてみると、テーブルの上に一つ、土鍋が鎮座ましましている。一同唖然としている。おそるおそる蓋を取ってみると粕汁のようだ。あとは切干大根の小鉢物だけだ。小屋の主人は「鍋を囲んでの団欒を思って、工夫してお出ししている名物の粕鍋でございます」と口上を述べていたが、一同、口数少なくそそくさと食べて引き上げるのであった。夕方、ニンニクを炒める匂いが小屋内に立ちこめていて、客の間にカレーライスかそれとも…と様々な憶測が飛び交っていたのだが、意表を突く趣向であった、完敗!
 雲ノ平は夕焼けも美しいとのことだったが、あいにくガスってきてダメだった。主人が、今日はシーズンの中休みといった状況で空いていると言ったとおり、満杯になることはなく、布団一枚ずつのゆったりスペースだった。隊長が昨晩のいっちゃんの轟音をなじった効果か、今夜は静音モード。しかし、10分に一度の便所の臭気のために時々目が醒める。

「雲ノ平山荘」

雲ノ平キャンプ場

雲ノ平散策

お花畑と池塘

「雲ノ平山荘」の客室

「雲ノ平山荘」名物(?)の粕鍋


8/2(土)

雲ノ平山荘 5:35 ― 7:35 薬師沢小屋 8:10 ― 10:40 太郎平小屋 11:05 ― 13:20 折立登山口 14:30 ― 16:00 富山(泊)

 いよいよ下山日である。朝食はうってかわってごくありきたりのものだった。朝の爽やかな空気の中を木道づたいに出発する。今日も暑い一日になりそうだ。しばらくは雲ノ平らしいゆったりした風景が続くが、やがて薬師沢源流に向けて急な下りとなる。木の根や滑りやすい岩に気遣いながらのひたすらの下りである。逆に急登となる登りの人たちは喘ぎながら上がってくる。「こんにちは」「おはようございます」の挨拶がしんどそうな人も少なくない。

「雲ノ平山荘」のフツーの朝食

雲ノ平を後にする

薬師沢への急な下り
 薬師沢の小屋で、水分補給をしながら小休止する。改築されて立派になっている。さらにところどころ木道をつたい、湧き水に喉をうるおしながら太郎平に向かう。再び高度を上げつつ振り返ると雲ノ平がすぐそこに“浮かんでいる”と言いたくなるたたずまいで眺められる。またと無い晴天に恵まれた雲ノ平探訪の願いが叶えられたのだ。なんとなく名残惜しい気持ちがこみ上げてくる。
 太郎平小屋に着き、衛星電話でお医者様に連絡を入れる。退屈をもてあましていたせいか、既に折立に向かっているとのこと、心強い。小屋のベンチで昼食を摂る。いっちゃんはうまそうに生ビールを飲んでいる。後で聞いた話だが、少し先行していたいっちゃんが太郎平小屋の手前の水場(小屋の水源)にさしかかった時、全裸のおっさんが水浴びしていたとのこと。よほど暑かったのだろう。

「薬師沢小屋」

太郎平

雲ノ平をふりかえって
 太郎平から折立までは長い下りである。逆に見れば長い登りであって、8月最初の土日に向けて続々と登山者の列が続く。今日は太郎平も雲ノ平も小屋は満杯らしい。下るにつれて有峰湖がだんだんと近づいてくる。医者は神岡方面から有峰林道を通って折立に回送して来るので、今頃、あのあたりをこちらに向けて走っているのだろうか。
 いいかげん、下るのに疲れた頃、やっと折立登山口に到着。真っ先に目に入った自動販売機で缶ジュースを買い、一気に飲み干す。やや遅れている隊長を待つ間に、お医者様が来ていないか駐車場のほうに探しに行ってみると、見慣れた人民解放軍号が止まっているではないか。中を覗くと退屈疲れした顔のお医者様が昼寝していた。ランデブー成功である。
 やがて現れた隊長が着替えるのを待って、4人で一路富山市に向かう車中で携帯からホテルを探し、「富山エクセルホテル東急」にチェックイン。風呂に入って身だしなみを整えてから街に繰り出し、お約束の餃子と生ビールとカラオケで打ち上げを行った。

人民解放軍号と無事合流!!

隊長の到着を迎える

お約束の餃子&生ビールで打ち上げ


8/3(日)

ホテル 9:15 ― 13:05 JR石山駅

 ホテルでバイキングの朝食を摂った後、北陸道に乗る。ガソリン代が186円にもなったせいか、8月最初の日曜というのに名神に入ってからも通行車両の数が少ないように思えた。午後1時過ぎにJR石山駅に到着、解散となる。
 今回は、奇特なお医者様と日頃の行いのおかげで、またとない素晴らしい山行を満喫できた。ずっと思い出に残るだろう。

ホテルから朝の富山駅を望む

洋食バイキングの朝食


(カンボ)