雨に歌う譚詩曲〜A rainbow after the rain〜
DATA 評価
ブランド EMU 萌え度 ☆☆
名前 小笠原美佳 H度 ☆☆
続柄 単なる同居人 痛さ ☆☆☆☆
呼称 おにいちゃん−美佳 意外性 ☆☆☆☆
音声 綾瀬まゆ(フル) 妹度
妹シナリオの感想など
(「共通な感想」を先に読まれることを推奨(笑))

<設定・関係>
美佳が孝一(主人公)の家に治療という名の居候にやってくる。全くの初対面だったが、いきなり「おにいちゃん」呼ばわり。年齢は一つしか離れていないが病気のせいもあって幼く見える。146cm、74/ 53/ 77。「痛い」「辛い」など、ネガティブな感情を一切感じない、思考しない状態で、いつもナチュラルハイ。人なつっこく、いつも誰からも好かれたいと思っている。

<シナリオ>
どちらかと言うと主人公が過去を決別するというのが、テーマの支柱になっている作品なのですが、美佳シナリオは彼女の病気そのものがそれ以上に重要なプロットになってます。美佳の「感覚」の異常の原因は何なのか? 彼女とその家族に何があったのか? 
最近流行の児童虐待モノかと舐めてかかると終盤のどんでん返しで呆然となるでしょう。一編のミステリとして面白いだけでなく、テーマ自体が底が深く、重く、良くできていると思います。ただ、終盤の展開が急で所謂「溜め」の部分がないので印象が弱くなって損をしているような気がします。 

<萌えたのか?>
(EMUは前作もそうでしたが)美佳に限らずヒロインはどれも一癖二癖以上ある面々で、「笑い」はとれても「萌え」はとれないような感じ(笑)。妹的描写もなく、ただ年下だから「お兄ちゃん」と呼ぶだけでちょっと肩すかしを食らいました。

共通な感想

<お話>
浅野孝一は、市内の学園に通う普通の学生。両親とは死別しており、今現在は、親類にあたる『伊藤千夏』と、共に暮らしている。この時点で、その暮らしは2年間続いている状況。大病院の院長という祖父を持つ千夏は、その祖父と同じ病院で医師をしている。
その日、主人公(浅野孝一)に千夏が、あるお願いをした。
『自分の担当しているクランケに、ちょっと変わった病状の女の子が3人いて、困ってる。できれば社会生活の中で、ゆっくりと回復させてあげたいから、少しの間ここで一緒に住んであげて』 孝一は戸惑いながらも、女の子と一緒に住めるということでOKした。その女の子3人が、すばらしく可愛らしい美少女だと聞いたからだ。
しかし、それは思っていたほど簡単なことではなかった……(以上メーカーサイトより)。
な、感じでとんでもなく個性的なヒロイン達と同居を始めた主人公の運命は(笑)?

<プレイ状況>
ヒロイン5人(悠、美佳、みつき、七菜子、千夏)フルコンプ。一プレイ6,7時間くらい。二回目以降はスキップして2時間程度でしょうか。

<システム>
プレイしていて特に不満を感じることはありませんでした。プロテクトのためか私の環境では起動に時間のかかるのが気になったのと、メニュー画面から設定変更できないのはちょっと引っかかりますけど。
フルインストールで1.1GB。saveは30箇所、クイックあり。音声を再生するヒロインが選択できること、バックログがホイールマウスに対応していることなどは、嬉しいですね。当然スキップの既読判定有り、おまけ完備(CG、シーン、音楽)。当初対応する予定だった「P/ECE」用の説明シナリオがおまけに含まれていたり、インストール時に漫画が読めるのは嬉しい気配り。但し、インストール自体は若干不安定なようなので修正ファイルをあてた方が良いかも知れません。私の環境では目立った不具合はありませんでした。

<ゲームデザイン>
主人公の名前は「孝一」で固定。極めて一般的なノベルタイプのAVGです。選択肢は少なく全部で7つ(一部ルートで8つ)です。ただ、それだけの選択肢ですべての分岐を管理しているため一見無意味に見える選択を誤ると某ヒロインのエンディング(バッドエンド扱い?)になってしまいます。私はみつきルートで四度ほどバッドを見て、千夏ルートで挫折しました(笑)。自力で解くことにほとんど意味はないので、素直に攻略を見ましょう。
シナリオは全キャラほぼ共通の一部と、話が分岐していく二部に分かれています。一日目が終了するとオープニングが、一部終了で「中間デモ(だったっけ?)」が流れ、一日の終了毎にアイキャッチが現れたりと、ノベル系のエロゲにおける「文法」がこれでもかというほど盛り込まれていますが、演出として成功しているかというと、疑問な部分もあります。
例えば画面を白く反転させて登場人物の(決して口に出せない)内省をテロップで流すという、KEYあたりがよく使う手法が用いられていますが、はっきり言って過剰で逆に効果を弱めていると思います。またそこで使われるテキストも印象としてちょっと弱いような気がします。

<音楽>
主題歌だけでなくBGMもI'veが担当。CD-DA。MusicModeで確認できる曲が15曲。そのうち主題歌が2曲分なので曲数的にちょっと寂しいです。実際プレイしていても肝心の場面でまたこの曲かとがっかりしたりで、印象が悪くしているような気がします。「A rainbow after the rain〜Piano Solo」「雨に還る想い」とか、テーマがテーマだけあってピアノ曲の印象が強いです。そういえば『家族計画』のBGMもI'veで同じような印象を持ったような。もっとも、I'veのBGMって歌のように圧倒的な強さがないような気がもします(笑)。主題歌はメーカーサイトでDLしてください。歌は「Railway」の方が好き。

<音声>
イエローテイルメンバーです。メーカーサイトで公表されているものを含めて長崎みなみさんと、吉川華生さんが二役をやっています。草柳さんの毒舌お嬢とか、吉川さんの壊れっぷりとか、音声を入れたことで成功していると思える部分が少なくないです>というか、これで吉川さんのファンになりました(笑)。おまけモードにシステムボイスもどきが収録されています>「殺します」って…(苦笑)。
あと、シナリオライターの門司さんのサイトに収録日記が書かれていますので、読まれると面白いかも>つうか「耳がちくわ〜♪ちくわちくわ〜♪耳が耳が〜ちくわ〜♪」、聞きたかったよ〜(笑)。

<グラフィック>
原画はいつもの甲斐さん。好みの問題がすべてなので各自確認を(笑)。私はあのちょっとけばけばしい(?)彩色のせいもあってあまり好きじゃありません。むしろ回想シーンなんかで使われている色鉛筆を使ったような塗りの方が良いような…。あと、立ち絵も表情によっては首を傾げたくなるようなものがありました。背景は問題のないレベル。
枚数はパターン違いをのぞいてメインヒロインの悠、美佳、みつきが20枚前後(ただ、これはおまけのHシーンを含みます)、七菜子、千夏が7、8枚です(今日子は非攻略)。

<シナリオ>
一言で言うと非常に惜しいです。テーマが象徴的でしっかりしていて、キャラもよく立っている、各シナリオのプロットも悪くない、でもそれらを計算して統合する何かが足りていない。門司さんはEMUでの作品はこれで3本目になるんですが、着実に進歩の後が見られて熱烈なファンがいるのも納得できます。

特に会話の面白さは秀逸。個性的なキャラが多く、悠の毒舌ぶりにニヤリとさせられ、千夏と紀子の面罵の応酬に唖然とし、今日子の道化ぶりに笑い、そんな風にしているうちに意味深なテキストが流れ……、と感動系のノベルにありがちな構成ながらぐいぐいと物語に引き込まれていきます。第一日目までは体験版でプレイできたので、続きが気になって急遽購入に走ることとなりました(笑)。

一見するとこの作品は精神を病むヒロインを主人公が助けてあげる、所謂ヒロイン救済モノ(と私は呼んでいる)かと思われるのですが、実際は恋人を失った主人公が過去の約束から決別して前向きに生きるという至極真っ当なテーマを扱っています(それを象徴的に「雨」と副題の「虹」で表現している)。悠シナリオはメインだけあって悠と主人公の問題が呼応し合ってなかなかいい感じに物語が展開します。また、千夏シナリオでは……やっぱりンタバレになるのでやめましょう(笑)。
悠シナリオで悠が孝一のことを「パートーナー」と呼んだ理由が明らかになるあたりは様々な意味でこの作品の見せ場じゃないかなと思います。

一方で、もう少し、ずるさというか、ユーザーの反応を計算するあくどさがあったら良いんじゃないかとも思いました(笑)。例えば悠シナリオの終盤、孝一(主人公)が置き去りになって悠と某キャラだけで一番盛り上がる部分が進行したり(確かにあの方の演技は素晴らしかったけど(笑))、上で指摘した美佳シナリオの問題点、実を言うと非常に重要かも知れない千夏シナリオがオマケに毛の生えた程度のテキスト量しかなく千夏の行動が不可解で心理描写が足りていないこと…など、終わってから振り返ってみると「ここを直したらもっと…」な部分が山積しているんですよね。

また、同音異義語絡みの誤字がうんざりするくらい目に付いたこと、日本語の誤用(四月に「小春日和」はあり得ません(苦笑))、声優さんの漢字の読み間違い、なぜか一箇所だけ美佳が主人公を「孝一」と呼び捨てにしていたことなど、細部に引っかかる部分が多く精神的に安心して遊べないのも問題だと思います(笑)。

<Hシーン>
攻略可能キャラ5人にエンディング間際で一回のHがあるだけです。あとはオマケシナリオでメインの3人だけコスプレHが追加されています>ねこねこソフトと同じような感じ。エロゲとして満足できる域に達しているかというと甚だ疑問。もっともこの作品を選ぶ方はエロエロな展開など期待していないのでしょうが(苦笑)。

<総合評価>
勿体ないオバケが出ちゃうぞ〜の7点(謎)。
今年最初の当たりが出たという感じです。色々問題点が多くて門司さんがまだまだ力を出し切っていないような気がしますが(物量的な問題もありそうですし)、お笑い+感動系の作品が好きなら十分やってみる価値はあります。次回作にさらなる期待を。


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