レポート 投稿 マスコミ
レポート7 家庭教育プログラムの方向性 
(めだか:児童福祉、養育家庭の専門誌 no.25 平成16年4月))
 近年、子どもをどう育てるかが大きな課題になっています。ここではアメリカのfamily life education(参照A)を例にとり、日本の学習グループ用家庭教育プログラムが、どの様に貢献できるかを提要していきたいと思います。
アメリカで勉学中、多種多様な家庭教育プログラムを知る機会がありました。素晴らしいと思ったプログラムは次の3点が大きな特徴でした。第1に地域に適したプログラムを提供すること、第2に家庭教育に関した専門知識があるものが運営に携わっていること、第3に保護者、ボランテイア、他の家庭教育関連エージェンシーとネットワークがとれていることです。
 実例として、MSU(ミシガン州立大学)Extension in Eaton CountyとAll Children Connected to Succeed program(ACTS)を紹介します。MSU は1918年コミュニティ―に教育講座を始めました。現在は各地域で多角的にプログラムを提供しています。(資料a)イートン郡はミシガン州に83ある郡の1つで、人口1 05000人程です。
※詳しくは(社会教育4月号)
をご覧下さい

 ACTSは1999年プロジェクトとしてミシガン州の人口280000人程のインガム郡で始まりました。ミシガン州政府機関の指示の下、Ingham Intermediate School District (IISD), Capital Area Community Services (CACS), Ingham County Health Department (ICHD) の主導リサーチにより、この地域では0歳から5歳までとその保護者を対象としたプログラムが不足という結果から始まったものです。

地域に適したプログラム

ミシガン州イートン郡のMSU Extensionでは0歳から18歳までの子どもを持つ離婚した親にスマイルという独自のプログラムを提供しています。この地域はミシガン州の平均離婚率の9倍も高い離婚率です。地元裁判官の提案からこのプログラムは1992年に作られました。
ACTSは11個所のファミリーリソースセンターで展開しています。幼児、年齢混合、ファミリー、親単位と、多数のプログラム(資料b)が用意されています。全てのインガム郡のこどもたちがより良く成長するようにと多角的に作られたものです。

専門家と現場

スマイルは裁判官、MSU Extensionのデレクター、MSUの教授の協力で作られました。全米とイートン郡の離婚の傾向が考慮され、数字的リサーチも行なわれ、講義、ビデオなど含めた2時間プログラムが作られました。参加者に無料で配布される本「In Your Child's Best Interest: A Guide for Divorcing Parents」は裁判官、デレクター、MSUの教授の合作で作られたものです。
ACTSはプログラムを作るもの,講習するもの、査定するものと分担して仕事をしています。幼児教育、社会福祉、ファミリースタディ、といった専門分野を活かしています。査定とはプログラムを提供する場所には組みいられるものであり、良くないプログラムを取り除くこと、プログラムを改善することに使われるものです。(Posavac and Carey,1997)査定の種類にはプログラムの必要性、過程、結果、有効性を調べる四種類があります。

ネットワーク

MSU Extensionは主に8箇所(資料c)と情報交換と、助成金のためのネットワークがあります。またデレクターは11地域のMSU Extensionのデレクター会議で情報交換しミシガン州すべての83郡の把握に努めています。地域のボランテイア約50人と定期的に意見交換を行い、彼らが望んでいるプログラムや、アイデアを聞く場を設けています。
ACTSはIISD、CACS、ICHDが主にコミュニティ―コラボレーションのプロジェクトとして多数のエージェンシーや学校が協力しています。(資料d)また講習参加者からのアンケートや専門家によるプログラムの査定や分析が行なわれています。

日本でできること
プログラムは地域から

MSU ExtensionとACTSは地域の人々、専門家の意見、リサーチ、分析を有効に使い、地域に密着したプログラムを提供しています。地域ごと、習慣、文化、環境が違うということは、ニーズも違ってきます。しっかりとその土地に足のついたプログラムを提供することが地域の人たちをサポートしていくことではないでしょうか。

ファミリーライフエジュケイター

MSU ExtensionとACTSは分野ごとに専門の知識をもったものが配属され運営されています。今後、こどもと親のためのプログラムを提供していくには、社会教育主事、社会教育指導員、公民館主事が中心とした企画作りに新たに、専任として、子ども発達学、ファミリースタディ、家庭教育等を専門としているものを配属することが望ましいと思います。これは家庭教育プログラムを常に総合的にみることができ、企画、実行、査定に専任が参加することによって、質の良いプログラム継続していくことになると思います。Family life educator(参照B)なるものを日本式に確立していくこともこれからの課題でしょう。

ネットワーク作りには

MSU ExtensionとACTSの例を見るようにコラボレーションが優れたプログラムを産出しています。日本では、教育委員会、福祉協議会、児童福祉課、男女共同参画室等、こどもや親のためのプログラムを実行している所が連携することと、地域ボランテイアクラブとの協力が大切です。上手に調和してこそ各々の専門分野を活かした地域密着型の、プログラムを提供していくことができると思います。社会教育主事やその他各所の責任者の主導でこのネットワーク作りは築いていけるものと感じます。

これから

こどもたちの成長を願うならば、かれらを取り巻く大人たちのあり方も考えなくてはいけません。それには、こども向け、親向け、親子向け、家族向けといった個人の問題や家族関係を考慮した、家庭教育プログラムが必要です。日本には、公民館等、地域に根ざした事業を行う場所が確保されています。そこを軸に新家庭教育プログラムとして、企画・実行・査定がしっかりなされ、専門機関間と地域の人たちとネットワークのとれたものにしていくことが「こどもをどうする」から「こどもは心身とも良好」に変わっていくのではないでしょうか。

参照A:個人、家族が健康で、人とよい関係を築き、生活向上ができるように、専門知識をもったものが、個人、家族の論点に関した教育を提供し、サポートするもの  (National Council on Family Relations from http://www.ncfr.org)

参照B:次の10項目1.社会においての家族 2.家族内の人間関係 3.人間発達学=人の一生 4.人間の性 5.人とのかかわり方と自分自身とのかかわり方 6家庭財源の管理の仕方 7.ペアレンティング 8.家族に関した法律ときまり 9.専門家のあり方 10.家庭教育方法論 を習得した学士以上を修得した者 (National Council on Family Relations)

参考文献
「Program Evaluation: Methods and Case Studies」・Emil J. Posavac and Raymond G. Carey・Prentice Hall・1997

資料a
ミシガン州立大学のコミュニテイ向け教育講座の仕組み
ミシガン州立大学・エクステンション(イートン郡)

(図)

資料b ACTSの仕組み

(図)

資料c ミシガン州立大学エクステンションイートン郡のネットワーク

(図)

資料d ACTSの多様な
コラボレーション関係図

(図)