雉のお礼

雉のお礼

 

今住んでいる家は元々畑だったところに建てたので、家の前は相変わらず今でも畑のまま残っている。

それで、あけておくのも勿体ないというわけで、気まぐれに家庭菜園を作って、たまには旬の野菜にありつけることもあるが、元来が怠け者で、あまり精魂込めて農作業をするというわけではない。

一生懸命やれば野菜を買わずに済むぐらいの面積があるので、そうすればいいのだけれど、根が怠け者で飽き性と来ているので、作物も雑草に負けてしまって、雑草の中に野菜が埋没するという有様である。

その上、加齢に伴って体力の減退も著しいので機械力を入れようと耕耘機や草刈機まで買い込んでみたが、それでも本来の怠け癖が治るわけでもなく営農成績は振るわない。

ある夏の日、あまり畑の雑草が伸びたので、草刈機で畑の中の雑草を刈り払っていた。

畑の雑草を刈り払うということだけで、私が如何に無精かがわかるというものだ。

畑の中には雑草などあってはならないのだが、それを草刈機で払うというのだから、本職の農家から見ればもう厳罰ものであろう。

それで、畑の中を草刈機で払っていると、草むらの中に鳥の巣があって、卵が五,六つきちんと納まっていた。

親鳥のほうの姿は見えなかった。きっと私が作業を始めた時点で身の危険を感じて逃げたのであろう。

もう少しで巣ごと機械で払ってしまうところだったが、ふと気がつくと足の傍にそれがあったので、そこの所だけ刈るのを避けておいた。

そして、そっと上から刈った草を薄くかけておいたが、それはたぶん雉の巣とその卵であろう。

この家に住むようになった頃から、近くに雉がいることは知っていて、声も聞いたし姿を見ることもしばしばあったので、きっとそうに違いないと思った。

この卵のあった場所を家内にも教え、それから夫婦で時々覗いてみた。すると親鳥がじっと卵を抱えていた。

雨の日などどうしているのだろうと気をもみながら、親鳥を驚かせないようにそっと覗いたりしていた。

あるとき、いつもと同じようの覗いてみたら親鳥の姿がなく、卵が皆割れて、羽が二、三枚散らかっていた。

巣の中は割れた卵の殻だけが残っていた。

これはきっと野良犬か野良猫にやられたに違いないと思ったが、巣をすぐに捨て去るのは偲びず、しばらくそのままにしておいた。

二、三日後、二階で洗濯物を干していた家内が大声をあげて「雉がいる!」というではないか。

それでリビングの窓を開けて覗いてみると、巣のあった少し手前のところを大きな雉が五、六羽のヒヨコを引き連れて西から東に歩いている姿を見た。

庭先を横切ったのはほんの一瞬の出来事であったが、親鳥が先頭になり、その後を子供達が一列縦隊となって横切っていった。姿を見失ってからは何処をどう探しても再び見ることはなかった。

それで家内と「どうして姿をあらわしたのだろう」という話になって、きっとお礼に一族郎党でお披露目に姿を見せたのではなかろうかということになった。

卵の割れたのを見てから姿を見るまで二,三日の間があったが、その間何処のいたのであろう、その後何処に行ったのであろう。皆目見当がつかない。

 

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