激突  04.01.17

激突

 

この映画、ユニバーサル映画が1971年に製作した作品である。

そして、この映画の監督がステイーブン・スピルバーグというところが驚きだ。

以前、映画というものの製作にも監督にも無関心であった頃、一度テレビでこの映画を見た事がある。

15,6年前のことだったと思うが、どういう状況で、どこで見たかも忘れてしまったが、とにかく主演のデニス・ウイーバーが大きなトレーラーに追い回される映画ということだけが頭に残っていた。

それというのも、丁度その頃、テレビ・ドラマでデニス・ウイーバーの主演したポリス・ストーリーがあり、田舎の刑事をしているデニス・ウイーバーがニューヨークに実務研修に来て、それこそダーテイー・ハリーばりの大活躍をするという作品あった。

そのテレビ・ドラマを見て、デニス・ウイーバーという俳優が好きになり、その後注意してみてみると、彼の主演している映画というのが結構あるようだ。

これもデニス・ウイーバーが出ているもので「キャノン・ボール」という作品がある。

既定の交通ルールを全く無視しても構わない、という大陸横断レースをするというもので、真面目な作品というよりもコミカルな作品で、無邪気に楽しめるという代物であった。

この作品にも彼は出演しており、これは車が主人公のような作品で、それに味付けするような形で彼が登場していた。

それでこの「激突」という映画、徹頭徹尾、車の追いかけ

っこである。

原題は「duel」となっていたが、これは辞書によると「決闘」ということで、こちらのほうが作品の本質を如実の表していうるように思われる。

しがないセールスマンのデニス・ウイーバーが赤いありきたりのセダン、おそらくオールズかプリムスで、アメリカではごくごくありふれた車であり、誰でも乗っている何の変哲もない車で走っていると、前に重厚な古ぼけたタンク・ローリーがいたので極普通の気持ちで追い抜く。

デニス・ウイーバーは何の魂胆もないので、追い抜いてもしばらくすると又追いつかれ、そして追い抜かれ、ローリーも追い抜いた後で又速度緩めるので、こんなことを繰り返すうちに双方のドライバーの心理的な戦いとなってしまう。

ところがロ-リーの方のドライバーは一向に姿を現さないので、一方的にデニス・ウイーバーの心理描写どなり、彼は疑心暗鬼の渦に嵌まり込んで苦悶する仕儀となるわけである。

疑心暗鬼の渦から逃れようと、必死に走っていると、ラジエーター・ホースが破裂して危機一髪というピンチに陥るという見せ場が作ってあった。

最終的にはローリーが執拗にデニス・ウイーバーのセダンを追い回し、そして最後は乱暴な運転の結果ぼろぼろになった赤いセダンの横腹に、巨大なタンク・ローリーが激突して谷底に落ち、ウイーバーは危機を脱出し命拾いをするという話である。

この映画の特筆すべきところは、この作品がステイーブン・スピルバーグの作品であるというところである。

この監督は20世紀の最大の監督の一人であろうが、彼がテレビに出て語ったところによると、彼は幼少の頃(ハイスクールの頃)から自分で映画を作っていたということである。

当然、映画会社が作るような作品ではなく、あくまでもアマチュアの域を出るものではなく、家庭用の16ミリか8ミリ撮影機でのことであろうが、この「激突」という作品はその延長線上のものではないか思う。

登場人物というのはデニス・ウイーバーたった一人である。

他に全く登場人物がいないかというとそうではなく、家庭であったり、店の店員や、そのお客という形で居ることはいるが、物語の進行とは全く関係ないわけで、あくまでも端役である。

 

そして、デニス・ウイーバーという主役は、活劇の部分よりも心理描写に生かされているわけで、昨今のカー・チェイスの醍醐味とは全く違ったインパクトを受ける。

そして赤いセダンを追い回すタンク・ローリーのドライバーは、最初から最後まで徹底的に顔を見せないので、そこが極めてミステリアスであり、それが故にデニス・ウイーバーは一人で神経を悩めてしまい、心理戦に嵌まり込んでしまうというわけである。

そして、その背景となっている舞台は、これ見よがしに明かされていないが、冒頭のカーラジオから流れていたサンヂエゴという言葉から察するところ、西部地域で、ロサンジェルス辺りの内陸部に入ったところではないかと想像する。

バックに流れている情景がそれを指し示しているし、途中で出てくるサザン・パシフィックという鉄道をみてもそういうことが推察される。

私はこの映画に出てくるような巨大なトレーラーが大好きで、先回アメリカ旅行したときもこういう車を見つけると写真に収めたが、あまり巨大すぎて私の持っているバカチョンカメラには入りきらなかったので困った事がある。

この映画に出てくるタンク・ローリーは赤く錆付いた、いかにもポンコツという感じであるが、アメリカ大陸の道路には奇麗に飾り、手入れに行き届いたモンスター・トレーラーが我が物顔に走っている。

その姿がアメリカのパワーそのものではないかと思う。

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