鬼束ちひろ コンサート
NINE DIRTS AND SNOW WHITE FLICKERS
2008年04月26日[土]
渋谷Bunkamuraオーチャードホール


歌姫、再び舞い戻る。
コンサートが終わった後、自分の脳裏に過った言葉だった。

久々にステージに立つ期待より今までのような声を出すことが出来るのか不安の方が大きかった。
ひょっとしたらこのライブを機会に彼女のことを嫌いになってしまうかもしれない。
アルバムを聞くとそんな不安になるのも無理は無い。
バンド形式なのかアコースティック形式か・・・
格好はどんな姿で登場するのか・・・いつぞやみたいに派手な格好だったらショックは大きい。
昔みたいなスタイルとまでは言わないが、せめて昔の面影が残るステージを見せて欲しい。
期待と不安を抱えながらオーチャードホールへ向かう。
今回、どういう訳か運良くチケットが当選し、
しかも1階4列と今までにない最高の席に巡り合うことが出来た。
かなり激戦を覚悟していただけにちょっと拍子抜けしてしまったが、
実はそんなに激戦じゃなかったりして?と思ったが、
3階席ですら数万円というプレミアが付くほど激戦だったらしい。

複合施設ビルの中にあるホールは、一瞬本当にここで行われるの?と思うようなこじんまりとした何気ない入口。
17時に開場して中に入ってみると初めて見るクラシック会場独特の雰囲気に圧倒されてしまった。
約2000席、クラシックはもちろんオペラやバレエのために作られた日本初の大規模シューボックス型ホールである。
時間があるのでいつもの恒例のホールチェック。
隅から隅まで1階席から3階席まで歩いて雰囲気を感じ、
きっとライブを行うアーティストも同じことをしているんだろうな。
2週間前にはここで飛鳥がシンフォニックコンサートを開いている。
そこにはどんな感動があったのだろうか・・・壁に手を当ててふとそう思った。
1階席にはあちこちにカメラが用意されており、
一夜限りのプレミアムライブが映像化される可能性有り。
ステージにはグランドピアノと椅子が4つあった。
ストリングス用の席に違いない。
この様子からしてアコースティック形式と判明。
バンド形式であれば多少誤魔化せるかもしれないが、
ピアノとストリングスのみだとアーティストの実力が試される。
期待よりますます不安が高まりだし、
ひょっとしたら途中から見るに見てられなくなるかも。

18時00分開演。
時間通りに開演するのに慣れてないのでちょっと焦った(笑)
曲名はわからないがゆっくり流れる音楽に沿って静かに照明が落ちる。
そしてピアニストが登場して完全にライトダウン。
ピアノ独奏がしばらく続きスクリーン越しに彼女が現われる。
普通ならここで会場は大いに沸くのだが、
何なんだろう?この独特な静けさ。
まるで音を立ててはいけない雰囲気が出ていた。
ピアノ演奏が終わるとともに幕が上がり彼女が前に向かって歩く。
淡いピンク色のドレス(白いドレスだったらしい)に裸足とスタイルは昔と変わっていないが、
ちょっと表情や顔つきが大人っぽくなった。
2002年のツアーから6年も経っていれば変わって当然か。
2001年初めて行われたツアーの初日に行った時の彼女はそれはもう可愛くて、
でも歌いだすとガラリと表情が変わるこのギャップに魅了されたのが切っ掛けだった。
誰もが待ちわびたこの瞬間、会場から大きな拍手が沸き、中には声を掛ける人もいたが、
歌い始めると同時に再び静寂な雰囲気に戻った。
何を歌っているのかわからないのでカバー曲か未発表曲だと思うが、
何よりも1曲目にアカペラで来るとは思ってもみなかった。
思った以上に声が良い。
そして他のホールで感じたことの無い音の跳ね返りの無さ。
ホッと安心している間に聞き馴染みのある「Cage」のイントロ。
ストリングスの姿は無く、ピアノ and 鬼束ちひろのみ。
アップテンポなメロディに激しく彼女の体が動き出す。
鬼束ちひろ独特のライブが今まさに始まろうとしていた。


〜セットリスト〜
 
1. ARIA DA CAPO (ゴールドベルグ変奏曲より) [カバー / ピアノ独奏]
2. SUNNY ROSE [未発表新曲 / アカペラ]
3. Cage
4. 流星群
5. infection
6. 眩暈
7. everyhome
8. なごり雪 [カバー]
9. You've got a friend [カバー]


ライブでは当たり前のように楽曲がスライドされるのだが、
1曲歌うことに止めてはドリンクを飲んで喉を潤している。
相当声に負担がかかっているのかどうかはわからないが、
飲んでいるドリンクは色からしてやっぱり今でもコーラなのか!?
「Cage」、「流星群」に続いて、ここでまさかの「infection」
ピアノのイントロを聞いた瞬間、鳥肌が立った。
確かに声はよく出ているが、果たして今の彼女にこの曲を歌いこなせるのだろうか!?
そんな心配は曲が進んでいくにつれて消えていく。
通常、このようなライブ形式だとピアノの音色に載せてアーティストの声を会場へ運んでいると思うが、
彼女の場合は違っていた。
完全にピアノの音が負けており、声により音を振え上がらせているかの如く、
ピアニストも激しくピアノを弾いていた。
時に優しく、時に激しく調和するのもまた鬼束スタイル。
この時点で今まで抱えていた不安や心配は一切消去され、
歌姫が再び舞い戻ってきたのを確信した瞬間だった。
2002年のツアーで見た時の彼女とまったく変わっていないどころか、
むしろ大きく成長したような感じすらした。
歌い終わった後、一際大きな拍手が沸き起こったのは、
みんな同じような不安から解消された喜びだったのかもしれない。

スタンダードナンバー「眩暈 」を挟んで新曲「everyhome」
この曲もかなり難しい曲で復活したての彼女にとってはかなり収録に苦労されたのではないかと思われる。
しかし今の彼女にはそんな苦労すら感じさせない勢いを見事に見せ付けられた。
願うことならこの音源をCD化して欲しい。

あまりに圧倒され続けて、気力体力ともにこっちが持たない(笑)
そんな時にカバー2曲を披露してホッと一息。
ちなみにライブが始まって9曲歌い終わり、
彼女が発した言葉は一言も無し。
始まりの挨拶も無ければMCも無い。
元々彼女のライブにMCはほぼ無いのだけど、
歌い終わった後、会場からの呼びかけに対処しきれず
笑って誤魔化す姿がお決まり。
今回は会場サイドから一切声をかけていない。
この独特な圧倒される雰囲気に声を掛けたくても掛けられない状況になっていた。


10. Angelina
11. MAGICAL WORLD
12. 僕等 バラ色の日々
13. いい日旅立ち - 西へ
14. Sign
15. 私とワルツを


「Angelina」からようやくチェロが登場。
次に披露される「MAGICAL WORLD」同様、
ピアノとチェロの音色がとても心地良く響く。
歌い終わるとようやくバイオリンとヴィオラが登場。
ピアニストのワン、ツー、スリーの掛け声で始まったのが「僕等 バラ色の日々」
ここで再び鳥肌が立った。
ホールのせいかプレーヤーの腕が良いのか、イントロの音で鳥肌が立った。
先ほど歌った2曲もニューアルバムの中に入っているが、
とにかくニューアルバムには無駄な楽器音が入って台無しにしており、
その違いがこのライブでよくわかった。
ライブが終わった後にニューアルバムを聞いたらガッカリされる方がいるかもしれない。
ピアノとストリングス構成によるアコースティック形式がやっぱり彼女にはよく似合う。
そう思うとやっぱり前プロデューサーの存在は大きかった。
「いい日旅立ち - 西へ」は広島に住んでいる者にとっては所縁深くて、
一瞬、東京に来ているのを忘れさせてくれた。
(JR西日本CMロケ地が広島なのです)
静寂な空間も「Sign」でステージが明るくなり、
ここで会場みんなが立って手拍子しても良さそうな雰囲気があったが、誰も立たずちょっと残念。
照明で会場全体が明るくなり彼女も笑顔で笑っているように見えた。
そんな明るいステージも再び静寂さを取り戻し本編最後の「私とワルツを」を披露。
こうして1時間20分、彼女は一言もしゃべらずステージを後にした。
アンコールは正直期待していないが一応手拍子が始まる。


[ アンコール ]

16. 月光
17. 蛍 [未発表新曲]


ライトアップされないのでアンコールの拍手が一際大きくなっていった。
そして再びピアノ、ストリングスに続いて鬼束ちひろが登場。
白いドレス姿から一転、グッズTシャツに黒いパンツスタイルとラフな格好に
どこか昔の面影を感じて会場から微笑みがあふれていたのではないかと思う。
アンコール1曲目は、やはりこの曲「月光」
もう過去に何があったか考えるのは止めよう。
再び「鬼束ちひろ」というアーティストがここにいるのだからそれだけで十分。
「月光」を歌い終わり次の曲へ行く前に一言しゃべり正直ビックリした(笑)

「それでは最後の曲。新曲『蛍』です」

開演して1時間30分、ようやく発した言葉だった。
8月リリース予定の「蛍」、プロデューサーがどうアレンジするか心配ではあるが、
今日この瞬間、ここで触れることの出来た「蛍」はきっと忘れることの出来ない名曲になった。

最後は、メンバー全員が一列に並び、「礼!」と一声。
ステージを後にする彼女は、最後の最後に片手を高く掲げてVサイン。
ここで昔の面影が見れたような気がして嬉しかった。
あのVサインは成功した証しなのか、それとも復活した証しなのか・・・
MCは無くともそれがすべてを物語っているように思えた。
この先、ツアーをすることは無ければ、
ヒットチャートで賑わすことも無いかもしれない。
それでも本物の歌姫はこれからも多くの人たちに支持されカリスマ的存在へと成長していくはず。
4年8ヶ月ぶりとなった今回のライブは、そんな成長へ続く始まりになったんじゃないかな。


[ 編成 ]
鬼束ちひろ Vocal
富樫春生  Piano / Concert Master
大先生室屋 1st Violin
藤堂昌彦  2nd Violin
三木章子  Viola
丸山朋文  Cello