Too Much Calculator

  といったのは、ワルシャワ税関の手荷物検査の役人である。

そもそも、これが英語として正しいかと言う問題もあるが、確かに、シャープの関数電卓を20個も持ち込んだのであるから、言われても仕方が無い。

 当時、共産圏のエンジニアにとって、関数電卓はきわめて貴重なものであった。

これをプレゼントすると非常に喜ばれ、難しい交渉もうまくいくというものである。

それまでも、数個は持っていって、プレゼントしたこともあるが、今回は、技術提携の協定もすんで、本格的な打ち合わせに入る第一回目である。今後のこともあり、少し大判振る舞いをしてやろうと考えた。

 しかし、過去、通関の時に、税関のおばさんが関数電卓を使っているのを見てしまっている。
税関に関数電卓が必要とも思えず、過去に、同じようなことを考えて捕まり、没収を食らった日本人がいるということである。
如何に、いままで、一度も捕まったことが無いことを誇っている小生と言えども、万が一と言うことがある。

 そこで、文房具屋に行き、カラーボールペンやら、マジックペンやらを買い揃え、きれいな包装紙に包んでリボンをかけてもらった。

そして、これをバックの一番上に入れ、でかけた。

 さて、ワルシャワについて、手荷物検査を通ろうとすると、検査員が来た。

大抵は、1$渡すと、OKというのであるが、その時に限ってそういわない。どうやら、その男は、新規採用か何かでまじめに検査しようと言うおもむきである。

仕方が無いので、バックをあけて見せた結果が、Too Much Calculator!」である。

そこで、例のものをわたそうとした時、困ったことにもう一人の男がやってきて、バックを覗くではないか。これはますます困ったと思っていると、その男が、最初の男になにやら言って、最初の男は、向こうに行ってしまった。 

これはしめたと思い、その男に、プレゼントの包みを二つ渡し、相棒にもと言うと、彼は、にやり、パタンで一件落着した。

なぜ、二つもプレゼントを持っていたかって? それは、プレゼントを買う時、M商社の事務所に、可愛い女の子がいるのをふと思い出し、二つ買ってきたという訳である。