日本の縮図

 しばらく前のことである。

先輩から頼まれて、副理事長なるものをやらされているSゴルフ場にコンペで行くと、支配人が話があるというので、パーテーも適当に引き上げて話を聞いた。

話の内容は、次回の理事会で、年会費の値上げをしたいと言うことである。

 このゴルフ場は、S振興というグループに属していたが、ご多分に漏れずバブル期に親会社が色々と手を広げて破産した。

外資系のファンドが、同じように破産したゴルフ場グループをまとめ86箇所の経営を請け負うゴルフ場経営をするA運営会社を設立した。

 このような外資系運営会社は、他にもありいずれもそれなりの投資をしてゴルフ場の価値を上げ、上場して売却益を売ることを目的としている。この2年間、かなりの投資をしていよいよ来年は上場するらしい。

 当ゴルフ場は2年前にA運用会社が出来た時に支配人が代わり、S振興の旧社長の三男坊というのが支配人になった。

この時に、今は絶好のチャンスだから、上に言ってもっと投資をさせろ、特に入場者数を増やしたいなら女子の設備をもっと増やせ、俺が一緒に行って幹部と折衝してやる

と国会議事堂の女子トイレみたいなことを言ったのであるが、結局、幹部の説得も出来ず、上からのノルマの達成などに、この三男坊では耐え切れずに、一年でやめる騒ぎとなり、新しい支配人に代わったのである。

 そこで今の支配人に代わり経営的にうまくいくようにはなったが、戦略投資は一年目で終わり、二年目からは投資回収に入り独立会計の中での投資のみになってしまい大型投資は不可能になった。

 ここで、ゴルフ場の経営とはどんなものか考えてみよう。

18ホール、1500人の会員、平均預託金3M¥のゴルフ場があったとしよう。

収入は、年会費、入場者収入(プレー費、食事代、グッヅ)、金利と言うことになる。

バブル以前にゴルフ場建設がなされたとしても、3M¥/という安い預託金の総計、4500M¥の大半は建設費に使われたであろう。したがって、預託金返却期限を10−15年とすると、その間に

建設費などを回収して、預託金を返却する必要がある。

この間の収支は、預託金はすべて建設費に使われたとして、

(1)年会費:1500*20k¥=30M¥

(2)最大理論入場者数(350日開場、50組平均、20k¥/人)70*20=1400M¥

   実際には、うまくいって30組平均で840M¥

(3)諸費用:290M¥

したがって、年収益300M¥となり、金利5%とすると10年強で預託金が返還できる。バブル期のごとく、100億以上も金を使って建設したとすれば会員を2000人預託金10M¥/人位を集め、余った金を投資して回収する必要がある。

ところがこの投資がバブル崩壊で、プレー代は大幅ダウン20M¥/人→6M¥/)、剰余金の投資先は場合によってはつぶれて、回収もできないとなれば、ゴルフ場は破産する。

 結果として、預託金の証書は紙切れとなり、外資が出て再建(金儲け)の乗り出したのである。しかも、茨城県の県北は、バブル期にゴルフ場が乱立した。

当ゴルフ場も、その中で過当競争にさらされ、平均入場者数20組、6k¥/人(しかも食事込み)まで落ち込んだ。

幸い、早くからカートを導入していたため、すべてセルフに切り替え、キャデーを解雇して人件費を減らしたり、入場者の確保に努めたため、採算分岐点ぎりぎりでとどまったが、これでは、預託金は返せない。しかも親会社のS振興が破産した。

 現在、A運用会社になって、コースメンテナンスや細かい投資、営業努力もあって、入場者数は大幅に回復したが、コースが古くなり、様々な修繕費が発生する。
(現在のプレー者数は、最悪年度の約2.5倍となっている)

しかも、会員の平均年齢61歳、1400人位のメンバーのうち800人近くが休眠状態。

 この状態は、日本の将来を暗示している。国債という預託金まがいの金を集めて、無駄飯を食い、インフラも古くなり、税金や保険金を払わない人が増えてきた。

金がかかる事務員やキャデー(役人)を減らし、年会費(税金)をあげても、追いつくまい。

預託金をどうするかが、これからの日本の大きな課題である。