自分が主治医

 30年も前から通っている床屋がある。ここの親父は、今は83歳。見た所、声は大きくきびきびと客と付き合い非常に元気である。

しかし、彼は、若い時から喘息で大変な苦労をしてきた。

医者と薬、体調の維持などには、並々ならぬ神経を働かせてきた。体調を保つと言う点では、腹にさらしを巻いて腹式呼吸法を自分なりに工夫し、毎日かかさず実行している。

薬についても、様々な薬をもらってきたが、常に飲み方、量なども自分なりに変えた効果を確かめてきたと言う。

 そして、何時も言うのは「自分が主治医だ」と言うことである。

そして、今日まで元気に過ごし、「この歳になって人様の頭に触らせていただくのは幸せだ」とも、「今時、人様の身体に素手で触らせてもらえる商売は少ない」などとも言っている。

 かく言う小生も、不整脈になり、医者と相談しながら、色々な薬を試してきた。

その結果、薬の組み合わせや、どういう不摂生をすれば不整脈が起こるかも分る様になってきた。

しかし、ALSになった。ここで、心臓の方は、多少負担がかかっても、耐用年数は減らしてよいと言うことになった。薬の種類や量も医者と相談して減らしてしまった。

さらに減らすとリバウンドもあるだろうから、最小限とし、血液さらさらのワルファリンは従来どおりとしている。皮肉なことに、不整脈を起こすような無理も出来なくなってきて、不整脈が起こらなくなってしまった。

ALS
の方はどうだろうか?

自分の場合、咽喉から始まっているので、こちらが一番問題だが、嚥下に関わる咽喉の奥の部分は、手足などと違って、骨と筋肉の相互の補完が少ないように思う。

しかも、色々と見てみると、手足と同じように、左右がアンバランスである。

嚥下体操などで対応するが、悪くなる速度が速いのか遅いのかの判断は出来ない。時期が来ると必ず悪くなっていく。上半身全体の筋力も影響しているようであるが、これも良く分からない。

手足の動きや筋力などは、普段から歩いたり重いものを持ったり、ゴルフの飛距離などなんとなく把握してきたが、咽喉や舌の動きなど普段機に掛けたこともないので判断できないのである。

 「自分が主治医」になるには、自分の状態を良く知る必要があるが、日々、それが変化していくALSと言う奴に対しては、主治医と言える
のは誰か?