副の仕事(3)――婚について  

 

 結婚式は、葬儀と違い、呼ばれない限り出て行くものでないし、喜びごとでもあり、気楽である。

 しかし、バレー部の団長をやったり、色々な関連会社や協力会社と付き合っていると 結構、本人や二世の結婚式に呼ばれることが多い。

 また、どういう訳か、頼まれ仲人も多く、在職中に、15回も頼まれ仲人をやる羽目になった。

 結婚式での問題は、挨拶である。

 仲人の場合は、ほとんどの時間を、二人のオフィシャルな紹介を行った後に、一言、二言、教訓めいたことを付け加えて 終 わりとなる。

 間違ってはいけないから、紹介の部分は、メモに書いて見ながら話をしても、おかしくはない。

しかし、仲人の大半が、部長時代で、直接の部下が多いから、教訓めいたことと言っても、毎回、毎回、同じと言う訳にも 行 かない。聞く方も,毎回、同じようなメンバーだからである。

 しかも、一番最初にやるのであるから、皆、一応、真剣に聞いている時間帯でもある。そこで、毎回、苦心して、話すことを    考えていくのであるが、「こいつにこんなことを言っても、本当にやってくれるかなー?」などと思うこともあり、そうなってくると 、 出来、不出来が出来る。

 不出来な場合は、次回は、もっとうまい話をしようと思うのであるが、部長方針ではあるまいし、  同 じ相手に二回も話す訳ではないので、申し訳ないことをしたなと思うだけで終わってしまう。

 幸い、15組とも、一回で終わり、今日まで幸せに暮らしている。

 主賓となると、挨拶も難しい。そろそろ、席も盛り上がってくるから、長いのは禁物である。本人のエピソードなど言う人も    あるが、大抵は、後で友人達が話そうとしているから、あまりやらないほうが良い。

 「おめでとう、−−さん、ご主人は、仕事熱心で、事故などで遅くなっても暖かく帰りを迎えてやってください」位で丁度よい。

 さて、「冠婚葬祭、万歳、謝り」係の副工場長時代に、「副」としての責務を果たした結婚式は、一回だけである。

 当時、「変圧器」「遮断器」の二つの部門を担当しており、この頃は、変圧器部門は、技術的にも安定し、大きな事故もなかった。

遮断器部門は、色々な事故があり、国内では、顧客に顔が売れている小生が結構、顧客に対策と「謝り」に行ったもので あ る。

 しかし、海外ではそうは行かない。遮断器の専門家でもない人間が出かけていっても相手にはしてくれない。

この頃、南米のチリで遮断器の事故が起こった。

 この部門の一番の専門家と言えば、工場長であるが、数週間も工場を空けるわけにも行かない。そこで、英検一級の設  計部長を派遣しようと言うことになった。

 しかし、本人が、もごもご言って、中々、行くとは言わない。ついに、工場長が怒り出した。

 まあ、まあ、と言うことで聞いてみると、その週末の土曜日に仲人をやることになっていると言う。

 そうなると、「副」の出番である。上位職制の俺が代わってやるから、行って来いという事で、工場長もそうしようという事で 、 本人は出かけていった。

 それからが大変である。家に帰り、「今度、急に仲人をやることになったよ」と女房に言うと、「何時ごろ?」「今度の土曜日   !!」「えーー」「かくかくしかじか」と言う事で、「しょうがないわね、すぐに美容院に行かなくちゃ」と納得してもらった。

 こんな時に、既に、十数回も仲人をやっていると、説得もしやすい。

 本人は、遮断器設計の男であるから、部長から事情を話してもらい、会って話も聞いたのであるが、何しろ、出身が鹿児 島 であり、事前に両親に会って、話すことも出来ない。

 当然、案内状も招待者に渡っている。少なくとも、出席者の半分位は、当日、突然ですがと言うことになる。

 こう言う時の挨拶は、ある意味では、気が楽である。「突然ですが」といっても、聞く方も会社関係者は、また、遮断器の   事故か!!で納得してしまう。

 かくて、式は無事に終わり、今でも本人たちは幸せに暮らしている。

 考えてみると、結婚式は、神主牧師が出てきて、次に仲人が出てくる。仲人と言うものは、本来は、本人達を引き合わ  せた人がやるべき事あろうが、一連の儀式の中に組み込まれてしまっている。したがって、頼まれ仲人が増えることになる 。

 しかし、今では、仲人を省略の段階、神主も牧師も省略した段階、始めに結婚ありきの段階、もっと前の段階?まで 、 様々なやり方が行われている。

 結ばれるときの式次第も省略なら、別れる時の式次第も省略と言う風潮は困ったものである。