麻雀事情(3)――寮生活     

 一年先輩の「先の副会長K氏」、をはじめ、同期では、K,M,S君と私の変圧器設計の4人組、後から入ってきた資材部I君、総  務部F君、経理部M君、K氏系列の東大系のメンバーなど多士済々である。

 一年先輩も、中々の猛者連中で、「関東ルール」と「関西ルール」の違いで、あわや殴り合いと言う喧嘩をしたとか、話題には事 欠かない。

 色々な経緯を経て、最強メンバーは8人位に絞られた。

 も一年たつと一人部屋になる。本当は、今は亡きM君の部屋が麻雀部屋となるべきであろうが、部屋変え以来、まったく掃 除をしないため、誰も寄り付かない。

 田舎のであるから、夏は蚊帳が必要で、冬はコタツと言うことになっているが、常に両方とも存在している。(蚊帳の中にコ タツがある)

 寮生には珍しく新聞を取っているが、好きな野球の記事を見るためのスポーツ紙で、捨てに行かないから、コタツの上に山積  みになっている。

 新聞紙を持ち上げると、何時食べたとも分からない好きな夏みかんの皮が、きれいな緑のカビに覆われて、小銭とともにバラバ ラと出てくると言った状況である。

 ある時、会社の消防隊が各寮の点検をし、部長会議で報告したが、我々の寮がもっとも汚い、中でも――、と言われた部屋の 筆頭であった。

 その翌年となったら、麻雀仲間の総務のF君から点検日を事前に聞いて、新聞等は捨て、のこりはすべて洋服ダンスに押し込 んで、開けられないようにテープで目張りしてしまった。

 と言うことで小生の部屋が麻雀部屋である。徹夜で仕事をして、疲れたから早く帰って、今日は、麻雀なしという事で鍵をかけ て寝ていると、「先の副会長」が外で騒いでいる。聞こえない振りをしていると、「ハイプライスカンパニー社長」の資材のI君 が洗面器に水を汲んできて、やらないなら、天窓から水をまくと言って脅す。

 では、頭にきた、やる以上は、俺がやめると言うまで止めさせぬと言って、結局、その夜は、麻雀で徹夜である。ともかく、こち  らには、70時間連続と言う実績があるから、二晩位の徹夜ではへたばらない。



 麻雀では、何がしかの賭けをやるのが常識と言うものである。


 そんなに金があるわけでもないのでたいしたレートではないが、ともかく回数が多いから、負けると結構な額になる。

 これを給料後に清算するのであるが、ある時、総務のF君が大負けした。金を取りにいくと、しげしげと、清算表を見て、「こんな に負けたとは!!頭にきた!!」と言ってその紙をやおら丸めて食ってしまった。

 そうなると、原票などどこにも残っていないから、どうにもならない。結局、その月はすべて、パーということになってしまった。

 そうこうして居る内に、入社当時、へぼも居たので、100010円であったレートも次第に高騰し、四年後には、1000100円、  満貫も、4000点から8000点となった。

 ついに、同期の変圧器部門のK君が破産状態になり、ボーナス時に、制御部門の後輩のY君が取りに行くとそんなもの払えな いと言い出した。

 そこで、先輩でもあるK君の上長K課長に「払わないといっている、東大の恥だ」位の事を言ったらしい。

 K課長は、仕事一筋、 持っていた16色の色鉛筆のブリキの箱の裏の名前を書くところに、「一年一組、太郎」と書かれ  たほどの人であるから、びっくりして、これまた、先輩のK部長に「学卒の寮生はとんでもない」と言ったらしく、ついに部長会議  で話題となり、制御部門の「元の大会長M氏」が後輩の「先の副会長K氏」を呼んで注意をした。

 という事で、レートは一夜にして、半分に切り下げられたのである。

 寮での麻雀は、色々な部門の人間と付き合い、色々なインフォーマルな情報を得ると言うこと、人の性格を知ると言うことでも、 大いに役に立ったと思う。

 その事は、工場以外の人との付き合い、顧客との付き合いと言う面でも、その後どれほど役に立ったか分からない。