「薄い板」

 戦前の和風の建物は、廊下の外側にはガラス戸がある。このガラス戸のガラスは古い製造法であるから、厚さが一定ではなく外がゆがんで見える。

昔の旅館なども、今、そのまま残っている所では、このようなガラスが使われており、レトロな感じが出ているなどと言われる。

 このような薄い板が均一に造られるようになったのはいつ頃からであろうか。

仕事の関係で、様々な材料と関係してきたが、昭和40年代半ばまでは、色々な薄板の製造には、苦労していたような気がする。

 一枚で造る薄板、積層して造る薄板、いずれもメーカーは苦労していた。

たとえば、電気絶縁紙、特にコンデンサー紙などは、厚さが50ミクロン(0.05mm)以下のものが要求されていた。これを巾1m以上で長くロールにつくる。

50ミクロンの紙に5ミクロンの厚さのばらつきがあると、容量が10%変わってしまう。このような紙の製造技術、設備には様々なノウハウがあるのだろう。

 小生がかかわったプレスボードと言う数ミリの厚さの絶縁ボードでも問題があった。

それは、0.9m×1.8m位の板紙であるが、見た目は皆同じ厚さであった。しかし、製品に組み込み、乾燥すると厚さが違ってしまう。

最初は分からなかったのであるが、製造設備に関係するものだと言うことが、メーカーで製造過程を見てわかった。それは、薄く漉いた紙を何十枚か重ねてある厚さとし、これをヒートプレスで加圧加熱してつくるのであるが、プレスは何段にも重ねて、同時に何枚も圧縮する。この段階で、プレスの圧力は、上下では強いが真中のほうでは、十分に伝達されず、弱くなる。

したがって、メーカーでは、薄く漉いた紙の枚数を加減して、完成後に同じ厚さになるようにしていたのである。したがって、製品段階でもう一度、圧力をかけ、乾燥すると厚さが重ねた紙の枚数相当まで収縮したのであった。

これもまた、製造設備のプレスの各段に補助プレスをつけて圧力が均一になるようにして解決したのである。 

 また、変圧器の鉄心に使う珪素鋼板が冷間圧延で、ロール状に作られるようになった時も問題が起こった。

ある巾に切った鉄板(厚さ0.35mm)を現場で積層していくと、片側が高くなって、傾いていくと言うのである。これもまた製造設備の問題で、1m程の巾の鉄板を圧延するのに、ロールで押しながら圧延するが、鉄は硬くしかも冷間圧延であり、ロール圧力が中央では下がってしまう。これを避けるために、ロールにクラウチングと称して中央を少し太くしたものを使うのだがこれではうまくいかなくなったのである。

 そこで圧力をかけるロールをさらに別のロールで抑え、このロールにかかる圧力を油圧で制御する方式が発明され、その後コンピュータでさらに精密に制御する方式も出てきた。

 板ガラスは、光を通すとか、景色を見るなどと言う用途なら、多少ゆがんでいても問題ないだろう。レンズなどでは個別に研磨するのでこれも問題ない。

しかし、平面度が最も必要とされるのは、鏡である。昔は手鏡しかなく、姿見などは、王家の宮殿にある位のもので、大変な手間をかけて研磨してつくったのであろう。

調べてみたら、昔は、ガラスを吹いて円筒を作り、それを切り開いて板にした。その後、溶融したガラス槽からガラスを横棒で引き上げて板にしたという。

いずれにしても大変な手間がかかったであろうし、ゆがむのも当たり前である。

現在では、どうやってつくるか?それは、紙を作るのに似ている。溶かしたガラスを流してつくる。

何の上に流すかと言えば、紙では水の上だが、ガラスでは溶かした金属(スズ)などの上に流す。これによって、均一で平滑、しかも研磨など必要のない板が出来るという。

 そして鏡も平滑で、ゆがんで映したりせず、色も正しく映る。問題は映されるもの?の方にあるだろう。