ケララ州にて(3)

 TELK社は、インド国内の電力需要の拡大に伴い、順調に業績を伸ばし、一時は、配当まで行えるようになったが、その後、400kVの投資をし、一方、電力会社の支払いが滞ったこと、組合の過大な要求などさまざまな要因が重なって、業績が悪化した。

 ともかく、インドの電力会社は、それぞれの州に属しており、各州の政治家が、選挙対策のため、農村部などに極めて安い価格で電力を供給させ、収益など関係ない。したがって、金の支払いが極めて悪い。

 さらに、ケララ州は、インド唯一の共産党政権であり、教育程度も高い。その州政府との合弁会社であり、マジョリティは、先方が持っている。

会社は、全てのカースト、全ての宗教、全ての民族、菜食主義者など全ての人達、などをほぼ平等に雇わねばならない。

そして、職能別組合が幾つもあって、勝手な要求を出す。

 優秀な技術者は雇える。しかし、彼らは、日立に行ってその技術を学べると言う魅力に惹かれて入ったのである。このような人間を留めておくためには、それなりの報酬を出さねばならないが、悪平等の共産政権の硬直したやり方では、それも不可能である。したがって、帰国して数年を経ずして、数倍の給料でヘッドハンターされ、競争他社に鞍替えしてしまう。

日立で、変圧器の技術を学んできたということは、大変なステータスである。

 結局、入金遅れ、設備償却遅れ、などから、金利がかさみ、借金が増えていった。

ここの決算と言うのも、不思議なもので、一年の終わりに、入ってきた金と出て行った金の差額が利益(損失)と言う勘定の仕方であり、経理担当取締役しか、詳細が分からない。彼は、人柄も良く、悪事を働くような人間ではないから、その点では信用できるが、全ての対策は後手に回ってしまう。こうなっても、銀行が取り付け騒ぎも起こさず、金を貸してくれる所が、インドらしい。相手は、州政府であり、つぶれることはないと多寡をくくっているのであろう。

 人を減らせ、入金を促進せよなどと幾ら言っても、蛙の面に小便である。

結局、借金が膨らみ、破産状態となった。

そこで、州政府と銀行とが相談し、コンサルタントに頼み、再建策を提案してもらった。

その段階で、小生が、変圧器部門の責任者として、色々と関与させられたのであるが、「再建策(ラジャレポート)が出来た、これで安心だ!!」と言うのであるが、実行する具体案は全くない。

 このレポートを元に、銀行は、再び、融資をしてくれることにはなったのである。

そうして、数年が過ぎ去っていった。例えば、当時、変圧器の鉄心の珪素鋼板を切断する機械が、ラインでなく、人力でやっていたが新しい機械を買う金がない。

それでは、困るだろうと言うことで、工場で新しい機械をいれるので、従来の機械を工場の金で整備しなおし、これをプレゼントすることで対応しようとしたが、やれ、税金がかかるとか、通関が大変だとか言って、結局、駄目になってしまった。

当方は、整備の費用が無駄になってしまった。

これでは、駄目だと言うことで、手を引くことになったのである。

 この時も感じたことだが、政府などと手を組めばリスクは少ないかもしれないが、発展もしない。資本でマジョリティを取らなければ、どうにもならないと言うことである。

ビジネスの発展は、全て、自己責任でやると言う覚悟が必要と言うことである。