「手」

 たったの一言、「て」と言う言葉、おそらく、縄文時代から日本人は「手」と言っていたのであろう。

辞書を引くと、他の体の部位を表す言葉に比べ、はるかに多い意味に使われている。、「手」は霊長類の肩から先の前肢を指す言葉とある。

 そして、日本人位、「手」を使ってきた民族はいないのではないだろうか。

そのためであろう、「手」が入った熟語、慣用句などが、日本ほど多い国語はない。

「て」と読まず、音読みで「シュ」という用語は限られている。

「握手」「拍手」「挙手」「着手」「選手」「運転手」「交換手」「手術」「手段」「手法」「名手」「妙手」「手工芸」「下手人」など、ほとんどが明治以降に、単語として定着したのであろう。

 体の一部としての「手」に使うものとしての「手袋」「軍手」「手鏡」「手まり」「手提げ」「取っ手」「手旗」「手枕」「手水鉢」どは、意外に少ない。

 「手」で物を作る分野では、「手をかける」「手を入れる」「手が込んでいる」「手抜き」「手先が器用」「手だれ」「手打ちそば」「手もみ」などがあり、常に「手」を使って生きてきた縄文以来の文化の中で様々な使われ方の原点となったのかもしれない。

また、勝負事に絡む「手筋」「上手」「下手」「四十八手」「嵌め手」「先手」「後手」「妙手」「手作り」「手が上がる」「5手詰み」「手詰まり」「手だれ」「手柄」「手抜き」「手合い」「あの手この手」「手も足も出ない」「手も無くひねられる」「逆手に取る」「手の内を見せない」など、勝負事以外の分野でも広く使われている。

 商売や仕事の分野でも、「手数」「手数料」「手間」「手間賃」「手不足」「切手」「手紙」「小切手」「手空き」「手下」「手代」「人手」「手を組む」「手切れ」「手離れ」「手分け」「手を貸す」「手を尽くす」「手直し」「手につかない」「手がふさがる」「手を広げる」「口八丁、手八丁」など、様々な表現がある。

裏世界の表現として「手を組む」「手出しをする」「悪に手を染める」「手癖が悪い」「手をつける」「手を下す」「手を打つ」「手を回す」「手を引く」「手締め」「逆手に取る」「手切れ金」「手打ち」「警察の手入れ」「手が回る」「指名手配」などがある。

 また、状況を表す言葉として「火の手」「長手方向」「手がふさがる」「手におえない」「手ぐすねを引く」「手に手を取って」「手に汗を握る」「手塩にかける」「手変え品変え」「痒い所に手が届く」「手をこまねく」「手を焼く」「手持ち無沙汰」などの表現もある。

 もし、これらの言葉や言回しを英語で言ったとしたら、HandとかArmとか言う単語がどの位使われているだろうか?

 我々の祖先は、身の回りにあるもの、よく使うものを元にして色々な事を表現してきたのであろう。森の民であった日本人、農耕の民、牧畜の民、狩猟の民、漁労の民、

それぞれに表現が違っているのであろう。

 日本人が「手」を使うことが少なくなり、これから何を使うのであろうか。