「わらび粉」

             名古屋にいた頃の話です

 わらびと言えば、山菜であるという位の知識しかなかったが、山できちんと手入れをし、何年か経つと、根に澱粉が蓄積され、それを掘り起こし、水でさらし、水車を利用して叩いて、粉を取ったのが「わらび粉」と言うのだそうである。これを何に使うかと言うと、漆器や木工品の接着剤として澱粉のりの30倍もの強度があり、膠と共に最も優れたものであったらしい。

 岐阜の朝日村に秋神温泉と言う一軒宿の温泉がある。

 

         秋神温泉                            温泉の風呂

ここは、自家で取った山菜と川魚を中心とした料理を食べさせる所で、親子二代で商売の切り盛りをしている。

ここの親父は、中々のアイデアマンで、冬になると木々にパイプを張り巡らし、水を吹き付けて凍らせ、これを色々な色彩の明かりで照らし、「氷のカーニバル」という催しを30年来、やっており、最近では、2月に村も協賛してお祭りとして人を呼んで昨年は6000人も来たそうだ。有名になったので、何処かの団体?がこの名称は俺たちが登録しているとかいちゃもんを付けられ、今は「氷点下の森」と言っている。

       

              幻想的な氷の祭典

何よりも感心するのは、一家の皆が、山や自然を愛し、「弁慶草」「敦盛草」といった植物を保護したり、泊り客に「御岳」の自然を紹介するスライドを見せたりして啓蒙に勤めていることである。

 さらに、朝日村周辺の石器時代からの様々な遺物を集め、また、昔の食料採集などの技術を記録に残そうとしていることである。

「わらび粉」の話もここの親父に聞いたもので、昭和20年代まで、この朝日村の有名な産物であったとのことで水車小屋などの記録が宿に残されていた。

この時代の生産方法を再現して見ようと言う事で、今年、大学の先生なども入れて「わらび粉」を作り、さらに、その一部で「わらび餅」を300個ほど作ったそうだ。

 最近、「わらび餅」と言っているのは、全て、うそで原材料が書いてある製品なら、大抵は馬鈴薯が原料であるとも教えてくれた。

 先日も、名古屋市立博物館で「台所の考古学」と言う特別展を見たが、縄文時代からの様々な技術が伝承されている点では、日本で有数の地域ではないかと思われる。

それは、豊かな水を利用した「水さらし」の技術が様々に応用されてきたと言うことであろう。「木の実のアク抜き」「繊維の製造」「紙の製造」など様々な応用があったのである。

このようなきれいな水を利用する技術が広く用いられている事と、水の大切さを日本人として誇りに思わねばならないと思う。