雨とくもりはご用心 |
玄ちゃん父さんは、日中はお日様と時刻で夜はお月様とお星様を見て自分の行くとこが分かると言う。
天文学的運転をして、地図は見ようとしない。
みんなにはすごい人だと思われそうだが、実は大きな弱点がある。
それは、雨とくもりの日。
ここまで書くと、もうお分かりだと思いますが、自分の磁石が狂うんです。
特に遠出の時で、始め晴れで後は雨の時はもう最悪!
以前、私の実家に帰省しての帰りのことです。
最初は抜けるような晴れでした。
広島と岡山の県境のところで、渋滞になりかけていました。
中国自動車道の横に側道があったので、玄ちゃん父さんは急に一般道に出てしまいました。
私はちょっぴり不安がよぎりましたが、本人はいたって呑気に《運転手は僕だー。車掌も僕だ−。アートのみんなはお客さまー。》なんて、へんてこな歌うたっているので、《まあいいか!》って思いました。
しばらくいくと、側道は途絶え、空も曇ってきました。
私一人が元に帰ろうって言うのに、玄ちゃん父さんは《すべての道はローマに続く。大丈夫だ−!》ってドリフのまねを子供としています。
だんだん道も細くなり、さすがに子供も不安になったか、押し黙っています。
雨も降ってきました。車の右側はがっけっぷちです。それに民家も街灯もありません。
もう生きた心地がしません。道も車の幅しかありません。
私の頭の中は、明日の新聞に《家族5人謎の死!》って見出しが出るのではと思うようになり、もうパニックになりそうです。
子供も泣き出してしまいました。
「なんやこれ?」と言う玄ちゃん父さんの言葉に我に返ると、行き止まりでそこには三途の川の絵などでよく見るように石が積んであります。
車のユーターンも出来ないとこで、片方は絶壁です。
バックで車を走らせてしばらくいき、やっと民家が見えたときはもう子供と私は涙を流しながら「ばんざい!!」って言っていました。
そのとき玄ちゃん父さんは《きつねに騙され、たぬきに騙され、よいよいよ−い!》とまた、へんな自作の歌をうたっていました。
それまでにもよくあったことですが、そのときから雨とくもりの日は要注意なので、私が地図片手にうるさくナビゲーターすることになりました。
あとで分かったことですが、あのへんてこな三途の川みたいなところは、有名な広島の帝釈峡の一番奥で、なかなか行き着けない所だそうです。
(2000/11/3)