「ぅ…ん。」
気が付くとそこは元の森だった。
先刻引き込まれた湖は、遥か後ろにある。
身体を起こそうとするが、足元の不安定さに疑問を覚えた。
そして未だまだはっきりと覚醒しない頭で目の前を、それこそ一つ一つ確かめるようにゆっくりと眺める。
そうしてさらさらと風になびくたてがみと、自分の下はほんのりと暖かい事に気付いた。
…どうやら自分は、馬上らしい。
何が起こった…?
眠っていたのだろうか。
馬の上で? ありえない。
しかしこの際そんな事はどうでもよかった。
それよりも頭が割れそうに痛いのだ。やがては吐き気をもよおしてくる程に。
「っ…!!!」
よろりと馬上から落ちるように降り、重たい身体を引きずりながら近くの大きな木の前まで行くと
―――吐いた。
しかしまだ残る吐き気を抑えながら、口元をゆすぎに湖の前まで歩く。
そして自分の顔を湖に移した瞬間、その手は止まった。
額に、傷。
「っ何だよ…、これ……!!!」
…いや、刺青が彫ってあった。それも意味深な形で。
丸い円の中にもう一つ円があり、その中に文字のようなものがある。
どうやら古代文字のようだ。
「…? いつ、こんな怪我を…?」
怪我じゃない。
これは人の手によって彫られたものだ。
しかし自分でもその事は充分に分かっていた。
「った…!!」
その傷からの吐き気だとはすぐに分かった。
割れそうなくらいに頭が痛いのも、無理やり傷を彫られたからなのだろう。
少し触ってみるとそれだけでもう、失神しそうなほどの激痛が走る。
何が起こったのか。全く分からない。
今さっきまでの記憶が、すっぽりとそこだけ無いのだ。
「「貴方は選ばれし者…。」」
不意に脳裏に浮かび上がった言葉。
それが何を意味するのかは、今のリンクには到底想像もつかなかった。
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