森の中をしばらく歩くと、せせらぎが聞こえてきた。
近くに川があるのか。
何とはなしに音のする方へと歩き出すと、自然にその足取りは速くなっていく。
何が自分を動かすのかと問われれば、きっと答える事は出来ないだろう。
今の自分は微かな光が見え隠れしただけでも、すがりついてしまう有様。
それほど孤独は不安なものだったのだ。
生い茂る木々の間をくぐり抜けながら進むと、やがて広大な湖が目の前に広がった。
「す…ごい……!!!」
澄んだ青色。
それら全てが太陽の光を反射して、一種の宝石のように光り輝いていた。
その美しさにしばらく心を奪われる。
「ヒヒーン!」
だが、せきを切ったように鳴いたエポナの一声で我にかえった。
「ん、あぁ。すぐ…すぐ出るよ。」
何を期待してここへ来たのかさえも分からない。
「何をしたかったんだろうな、オレは。」
にっこりと微笑みながら愛馬に話し掛け、そのたてがみをそっとなでる。
そしてサファイア色に染まる湖を名残惜しく眺め、その場を立ち去ろうと背を向けた
その時。
「お待ちなさい。」
背後から…否、「湖から」声が聞こえた。
驚いて湖の中を眺めると、さっきまでは「見えなかった」筈の湖の底が見て取れた。
街。
そう、水の中に昔栄えていたらしい大都市が沈んでいたのだ。
ゆらりとゆらりと水の中で漂い、太陽の光が射し込むそれは、宮殿のような気品さがある。
城下町だったのだろうか…。
物思いにふけっていると、再び「そこ」から声が聞こえた。
「貴殿は選ばれし者。その者を逃すわけにはいきません。」
全て聞き終わるか否か、身体は湖の中に引き込まれていった。
遠ざかっていく愛馬の鳴き声。
それもやがては聞こえなくなり、目の前は真っ白になった。
背中の剣が、微かに光ったような気がした。
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