第5章「強敵の出現」・・・後編 作者:バッタ
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チロル山全体に轟音が鳴り響いた。轟音は木で一休み
していた鳥達を駆りたて、木の葉をザワザワと騒がし
始めた。人がこれを聞けば大きな地震でも起きたので
はないだろうかと心配してしまう事だろう。
これの発信源である神殿には、今までは存在しなかっ
た巨大な風穴がポカリと口を開けていた。
風穴の辺りには白い煙が立ち込め、風穴の縁部分は高
温で赤く溶けかかった状態になっていた。
白煙が段々と山の中へと消えていくと、風穴を通して
見える神殿内部にひとつ、人影が微弱な身動き一つと
らずに立っていた。
白煙が完全に消えさった後でも黒いローブが人影の顔
を初めとする体全体を隠していたが、わかったのはロ
ーブの奥で赤紫に光る鋭い目。そして何より、鈍感な
者でもわかるほどの邪悪な雰囲気だった。
「この程度か。」人影はローブの中で呟いたかと思う
と、次の瞬間にはこの場からこの山から消えていた。
神殿の近くにもう一つの影があった。小動物たちは彼
の居る事に気付かないかのように歩を進めた。中には
彼に打つかってしまったものまでも居た。
「ふんっ、態々タイミングを見計らう必要も無かった
な。さて、俺もそろそろ姿を眩ますとしますか。」
彼も瞬時に起こった突風と共にこの場から姿を消した。
神殿には空しい空虚だけが残った。天には月が昇って
いたが、暗雲によって月は飲み込まれ、月の光は完全
に闇へと引きずり込まれてしまった・・・。
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第5章「強敵の出現」・・・後編
2005年10月29日 作者:バッタ
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