- ゼルダの伝説 オリジナル小説 -
第12章 一瞬の7年 作者:アナザー


 ハイラル平原に出ると、ロンロン牧場が目に入っ た。
感傷的な心が、彼を牧場へ向かわせた。そこは、
ガノンドロフに取り入れるためだけに馬を育てる”イ
ンゴー牧場”となっていた。青年はかつてマロンから
教わった”エポナの歌”を奏でてみた。エポナはい
た。青年と同様に、7年の月日はエポナを立派な成馬
に育て上げていた。そして、青年はエポナと一緒にレ
ースに挑戦し、見事にインゴーに勝ったが、インゴー
はかんしゃくを起こし、青年は牧場に閉じ込められて
しまった。だが、エポナの高々なジャンプで柵を飛び
越え、無事に牧場を脱出した。青年はエポナを駆り、
カカリコ村へ向かった。

 城下町崩壊により、難民となった住民達が避難所と
して選んだ場所が、カカリコ村だった。静かなカカリ
コ村は、第二の故郷として最も適した場所だったので
ある。だが、多くの人々が押し寄せたことで、新たな
商店が増え、かつての静かさは失われてしまった。ま
た、昼夜の区別なく屋根の上を歩き回る不届きな輩が
増えてしまい、住民からは苦情が出ている。城下町で
魔物の襲撃を受けた恐怖からか、かつて城下町に住ん
でいた者の間で、夜の間に怪しげな者が侵入してこな
いように、火の見やぐらの上に見張りを立てるという
取り決めがなされた。こうした新たな村の雰囲気にい
たたまれなくなり、かつての住人の中には村から出て
いった者もいるという。村から見えるデスマウンテン
山頂に広がる黒雲は、住民の多くを不安に陥れていた
が、かつての村の状況を知らぬ新たな住人にとっては
新たな景観のひとつでしかなく、珍しい風景として眺
められている。カカリコ村と言えばニワトリが名物だ
ったが、現在では風車小屋にある羽根の調整用の段階
に一羽だけが残るのみである。住民の数が一時に増加
してしまったため、その食料としてニワトリが提供さ
れたのではないか。

 青年は城下町で出会った住民の幾人かを見かけるこ
とができた。救いだった。カカリコ村の無事が、青年
に希望を抱かせた。故郷のコキリの森もここと同様に
無事かもしれない、そう思わせてくれた。あの風車小
屋の男も、機嫌は悪かったが、無事だった。7年前に
オカリナを持った少年が”嵐の歌”を奏で、風車の動
きを狂わせたらしい。青年にはその記憶がない。別の
誰かがいるのか、それとも何か時の秘密があるのか。
だが、今は時に隠された秘密を考えている場合ではな
かった。青年は嵐の歌を覚え、そこを後にした。

 墓地で青年は墓守の”ダンペイ”の日記を読み、ダ
ンペイの墓を動かすことを試みた。ダンペイは死んで
いた。7年前に”ドキドキ穴掘りツアー”で好奇心を
刺激してくれた墓守の死は、青年の心に時の流れの重
さを感じさせていた。他人の墓を動かすことは、さす
がに勇気がいる。気が引きながらも動かしてみると、
穴が存在した。底が見えない穴に飛び込むのも勇気が
いった。背後に何か感じながらも穴に飛び込むと、そ
こは奇妙なところだった。まず、ダンペイのお化けが
待っていた。青年はその姿を見てぎょっとした。少年
の頃、初めての出会いは、彼の顔に引いてしまった。
さすがにあれからだいぶ時がたったが、お化けとなっ
たダンペイがふよふよ浮いているのを見ると、怖かっ
た。次に墓石の下に巨大な迷路があった。これは墓石
の主である遊び心豊かなダンペイが生前に作り上げた
場所。墓石の下にあるだけに訪れる者はめったにいな
いが、死者であるダンペイには、有り余る程の時間が
ある。たとえ来訪者が百年にひとりであっても平気な
のだろう。そもそも、この迷路は、死した後に葬られ
る場所にまで遊び心を加えておきたかったというダン
ペイの洒落っ気によって作られたものらしい。その迷
路でダンペイを必死に追いかけていった青年は、無事
ゴールした商品として”フックショット”を手に入れ
た。ナビィが言うまでもなく、青年はコキリの森とサ
リアの様子が気になっていた。彼は奏でた。サリアの
歌を。その歌が、サリアと青年を結び付けた。7年の
歳月など関係がなかった。変わらぬものが、そこには
あった。

第12章 一瞬の7年
 2005年10月10日  作者:アナザー