- ゼルダの伝説 オリジナル小説 -
第11章 時空の旅 作者:アナザー

<7年後>

 ”ラウル”と名乗る声に応じるように光の中で目覚
めた少年は、自分の身体の成長に気づき、驚いた。”
マスターソード”は”時の勇者”のみが台座から引き
抜くことができる聖剣。少年だった彼は、時の勇者の
資格を持ちながらも、その幼さゆえに力が蓄えられる
まで7年もの間、賢者の間に封じられていたのだっ
た。7年間、少年が聖剣を抜いたあの時、ガノンドロ
フが聖地の中心たる光の神殿に侵入し、トライフォー
スを手に入れ魔王となった。魔力は神殿を通して流れ
出し、わずか7年でハイラル全土を魔物の国へと変貌
させた。だが、7人の賢者が目覚めさえすれば、”賢
者の封印”により全ての悪しき力を封じ込めることが
できる。ラウルもまた、賢者のひとり。そして、賢者
と共に戦う力こそ、時の勇者である。どこかケポラ・
ゲボラを彷彿させる顔のラウルはそう語り、成長した
時の勇者に”金のメダル”を託した。残りの六賢者の
目覚めを命じて。

 ”青年”となった時の勇者は、時の神殿へと降り立
った。そこは、かつての光に満ちた場所ではなかっ
た。ほの暗い神殿には、シーカー族の生き残りを名乗
る”シーク”が、青年の到来を待っていた。シーク
は、紅く鋭い目で青年をまっすぐ見つめ、森の神殿で
待つひとり目の賢者と出会うために、まずはカカリコ
村を目指せという。青年はシークの言葉を信じた。か
つて、ゼルダの言葉を信じ、3つの精霊石を集めたように。

 恐怖の城下町。かつて、少年だった頃、あれほどの
賑わいを見せていた城下町は、恐るべき廃墟と化して
いた。また、人の影は見えず”リーデット”があふれ
ていた。少年から青年へ、7年の時を一足飛びに越え
た彼にとって、その変化は余りにも唐突なものだっ
た。まるで、一夜にして全てが変わってしまったよう
に。自分が存在しようがしまいが、時は流れ、世界は
変わっていく。自分が知らぬところで、全てが変わっ
てしまうことほど、人を悲しい気持ちにさせることは
ない。そして、持って行き場のない悲しみは、無力な
自分への腹立ちに変わる。人は経験によって成長す
る。肉体の成長は心の成長とは別のものである。肉体
的には成長し、戦いのための力を身に付けた時の勇者
だが、心は少年のままだった。それゆえ、幼い心が、
彼を甘ったるい感傷に浸らせた。

第11章 時空の旅
 2005年9月24日  作者:アナザー